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  12■バレンタイン


 こう寒いと布団から出るのも辛い。
 そんな二月も中旬のこと。このままではあっという間に五年生も終わってしまいそうだ。
 ごく普通に卓弥と一緒に学校へ行き、なにやら女子が集まってワイワイキャッキャしていて、

「どうするの? 渡すの?」
「持ってきた」
「放課後……」

 黒板右隅に書かれている日付を見てようやく気付いたぐらいには鈍感である。
 なんだ、バレンタインか。
 だてに「しゃべらなければのリンダくん」と呼ばれていたわけではない。そんなもの、貰ったことあるか! むしろバレンタインのキャッキャウフフ爆ぜろ。モテない男子は心から願っているであろう。

「な、今泉くん」

 何の前触れもなく、ただいま一緒に登校してきた卓弥に同意を求める。しかし、

「え? 何が?」

 なぜか腕に小さいものをいろいろ抱いてる。何だそれは。
 はっ、まさかそれは! おのれ、ここにも敵が!

「お前かミツヒデぇぇぇ!!」
「ののの、ノブナガさまぁぁ??」
「キサマも敵か! モテない男の敵め!」
「ウソつくな! 孝幸なんか背高いしカッコイイし、モテないはずないだろ!!」
「モテた試しなど一度もないわぁぁ!! バレンタインのチョコは毎年、母さんが会社でもらったやつが回ってくるだけじゃぁぁあああ!!」
「やだ、不憫なイケメン」
「うっるせぇぇええええ!!!」



 ――廊下に立たされていた。
 授業で説明をする先生の声が聞こえるぐらいで実に静かだ。授業中だし。
 そしてすごく寒い。
 イマドキないよ、こういうお仕置き。
 つーか、俺、完全にとばっちりじゃね? 一個も貰ってないのに、共犯?
 朝の会から持ち物検査開催されて俺、みんなに睨まれるし。
 隣には当然、卓弥も立っている。カワイイ系男子め、チヤホヤされおって!!
 要は俺、母さんにさえ買って貰ったことがないってことじゃないだろうか。

「……何か傷つくわぁ」
「ふふふ、意外でした」
「笑いごとじゃねぇよ」

 小声で隣に立つ卓弥と話す。
 こっちだって、卓弥があれほどとは意外でしたよ。

「ホントに貰ったことないの?」
「ない」
「何で?」
「よくわかんないけど……前の学校では「黙ってればいいのに」とは言われたことある」
「ああ分かる」
「分かるって何だよ。俺、喋るなってこと?」
「そうじゃなくて……うーん、無自覚なんだね」

 見た目は幼いくせに、言うことがどうも大人びているというか、何か見透かしてそうだったりする卓弥。俺自身が気付いていないなにかに、もう気付いてそうな言い方。
 まぁ、言いたいことは分かる。

「残念な、あれだろ」
「なんだ、分かってるなら話は早い。見た目はいいのに、発言や行動が見合っていない。まさに残念なイケメンだ」

 ズバリ言われると重い。もうちょっと黙っていた方がいいだろうか。

「言いたいことを飲み込んだりオブラートに包んで言うの好きじゃないんだよ」
「そうだね。でもオレは、そういう孝幸が好きだよ。分かりやすくてからかいやすい」
「オイ」
「冗談だよ。……ということは、今日は孝幸が初めてバレンタインにチョコをもらう日だね」
「え、誰にだよ」
「意外と、近くにいるよ。孝幸のことをよく見てる子が」

 思わず辺りを見回してしまう。授業中だし、廊下に立たされてるから俺と卓弥しかいないけど……視線が。
 横に立ってるヤツがこっちをじっと見てる。近くにいる、よく見てる……。

「俺、男はちょっと……」
「あらそう、残念」



 俺のチョコゼロ記録は――



「バレンタインだから、チョコレートどうぞ」

 意外な人物によって終了させられた。
 手渡される、いかにも手作りチョコとか入ってそうな紙袋で。



 帰宅してすぐにリビングのこたつにダイブしたかったのだが、素早く出て来たカノンにまたしてもキッチン立ち入り禁止令を出されてしまい、仕方なく自分の部屋でゴロゴロしてたわけだが、チョコの甘い匂いが部屋どころか家の中に充満してて、バレンタイン爆ぜろ! と壁に枕を叩きつけていた。八つ当たりですよ。
 卓弥が思わせぶりなことを言うからちょっと期待してたのに、結局何事もなく帰宅ですよ。
 アイツ、首絞める! とか本気で思ったよ。
 帰宅途中もいくつか女子にバレンタインチョコを貰ってる卓弥に対し、俺、完全にスルー、卓弥の横を歩いてる電柱だし。
 そんな打ちひしがれた兄の帰宅に妹の冷たい態度。
 絶望した。
 チョコは甘くても世の中甘くない。
 悔しいし、寒いから布団に潜り込んでいた。
 すると、階段を上がる足音。カノンが部屋に上がってきたのかな、と思ったら、俺の部屋のドアがノックされた。

「はーい」

 布団に潜り込んだまま、返事をした。さっきリビングに入れてくれなかったから、布団から出てやらない、ぐらいのスネた気持ちで。
 そして、ドアを開けたカノンから、意外な言葉が発されたのだった。

「バレンタインだから、チョコレートどうぞ」

 これは夢か幻か。そうだ、俺があまりにも貰えなさすぎて自分で作りだしてしまった幻に違いない。
 布団から顔を出してドアの方を見上げる。
 甘いチョコレートの匂いをまとったカノンが、照れくさそうな表情で紙袋を差し出してきた。

 意外と近い……ああ、卓弥が言ってたのはこれか。
 そうだ、カノンならこういうイベントごとで腕を振るわないわけがない。

 ようやく布団という殻から出て、紙袋を受け取る。

「ありがとう、カノン」

 何が入っているかはわからないけど、これは俺のために作ってくれたもの……そう思うと心の奥が熱くなる。
 誕生日のケーキだって、俺のためだった。だけど今日は、あの日以上の何かがこみ上げてくる。
 初めて貰ったバレンタインチョコ、バレンタインというイベント故かな。

「生まれて初めて貰った。すげー嬉しい。嬉しすぎて感動してる」
「何それ、大袈裟だよー」

 と、カノンは微笑み、

「じゃ、そういうことで!」

 と言い残し、ドアを閉めて階段を降りて行った。
 で、どういうことなんだよ、とよく思う。
 受け取った袋を開けると、透明で蓋つきのコーンがぎっちり入ってそうな容器が入っている。中身はコーンではなく、チョコレートの色。袋の中は紙袋独特の匂いとチョコの匂いが混じって癖になりそうな匂い。
 紙袋とフライドポテトの混じった匂いに匹敵か。何だろう、あの何とも言えない匂いは。紙袋マジック?
 さて、丁寧に取り出したチョコの入った丸型プラ容器、ぎっちり粉がついた四角いチョコが入ってる。
 これは……去年、母さんが貰って来たチョコに似てるぞ? うまいうまいっていっぱい食べてたら行列のできる店でなかなか買えないやつらしく、値段も1000円するのよ! って殴られた。
 俺、なにかとぼこすか殴られてるなぁ。
 カノンの手作りであろうチョコは……その1000円チョコと同じ触感だった。
 なんだコイツ、溶けてるわけでもないのに柔らかいぞ!!
 あの1000円チョコ、家でも作れるレベルか? そう気付くと行列ができる店もがっかりだな。むしろ、カノンが作った方が俺は好きかもしれない。ちょっと不格好なのもあるけど、そんな手作り感がいい。
 食べるのがもったいなくなって、しばらく目で味わった。

 他にも、誰かにあげるのかな。卓弥とか、兄とか、幼馴染だし。カノンならお世話になってる人みんなに配って回ってそうだな。そういうタイプだし、だからみんなに好かれてる。
 俺だけ、ってわけないよな……。

 ……ないないないない。何を考えているんだ俺は。
 初めてチョコもらったせいでおかしな方向に思考がいっちゃって、ほんと困るなぁ。
 このままだと、義理チョコ貰っただけでも勘違いしてその気になりそうだな、俺。

 結局、もったいないもったいないと思いつつ、もう一個、もう一個……もう最後!
 チョコはなくなってしまい、空になった容器を見つめていたら、夕飯の時間になった。



「あれ? お父さん今年は貰わなかったの?」
「ああ、モテ期過ぎたかなぁ……冗談です、すみません」

 と口ではいいつつ、母さんの睨みに発言を取り消す始末。

「違うよ、母さんが怖かったんだよ」
「あら、私そういうのあまり気にしないわよ?」
「さっき睨み殺したくせに。もしセイジさんがチョコ貰ってたら、母さん今頃ヒス起こして……」

 こっちがとばっちり食らってる場面しか想像できない。

「失礼ね! そういうアンタはどうなのよ、収穫あったの?」
「うっ……」

 なぜそこで俺に話を振る。セイジさんもカノンも興味ありそうな顔でこっちを見るな!

「今年もなかったのね。何でかなぁ、顔はいいのに、性格破たんしてるの?」
「してるつもりないんだけど……」
「相変わらず、残念なのね」

 誰に似たんだろうね。口には出さない。母さんだって十分、残念な美女だ。この人も黙っていれば……なのに何で、セイジさんは……謎は深まるばかりだ。悪い人ではないんだけど、悪乗りしすぎる。

「何か言いたそうね」
「たぶん、想像通りだよ」
「性格はよく似てるわ」
「母さんが育てたんだからしょうがない」
「でも私、学生の頃はそこそこモテたわよ」
「うるさい!!」

 よく似た母子の言い合いは、俺が手を封じられて反論できなくなり終わる。
 夕飯が終わってから、カノンは母さんとセイジさんにもチョコを渡していた。なんだ、俺だけじゃないんだ……ですよね、分かってる。初めて貰って勘違いしすぎ。

「なにこれ、手作りできるの?」
「うん、簡単だよ」
「もう、洋菓子屋さん開いたらいいよ」
「えー、そうかなぁ」

 カノンはすごく嬉しそうに、チョコを食べる二人を見ていた。


  □□□


「オレ、貰えなかった」

 いつもにこにこ卓弥くんが、ちょっと不機嫌そうだった。

「かのんちゃん、毎年うちにチョコ持ってくるんだよ、オレのと拓馬の分。拓馬なんか仰け反りすぎて立ちブリッジしてたよ」

 なにそれ、嘆きすぎ。
 俺は貰えた側なので余裕。ちょっとニヤニヤが止まらない。

「その顔……孝幸は貰ったんだ」
「ああ、分かっちゃう?」
「イヤミだね」
「大量に抱えてたやつに言われたくない」

 卓弥はカノンから貰えなかったけど、いっぱい貰ってたじゃないか。
 俺はカノンからしか貰ってないのに、文句は言われたくない。

「初チョコはいかがでしたか?」
「嬉しかったしおいしかった」
「お返し、頑張って」

 お返し? そこまで考えてなかった。
 いやいやいや。

「卓弥の方が数多いんだからその方が大変だろ」
「全員にキスしとけばいいんだよ」

 ……え?
 何言ってんのコイツ。全部相手側の本命なわけないだろ。つーか、お前の本命はどうなんだよ。
 そしてなぜ真顔なんだよ。冗談だよーっていつもの調子で笑い飛ばせよ!

「まぁ、それはないけど。オレがいっぱい貰ってることはみんな分かってるから、飴とか一口チョコとか配ってるよ」

 ああなんだ、冗談か。なんて安堵もつかの間。

「去年からキスも採用してるけど」

 冗談じゃないのか!!

「もちろん、同意の上で」

 ああああ、あたりまえだろ!!

「かのんちゃんにはしてないよ」

 されてたまるかよ!!

「何か喋りなよ。顔真っ赤にしちゃって」
「かわいい顔してコイツ! このスケコマシ!!」
「かわいい容姿はせっかくだから活用しないと」

 イヤなやつだ。いい奴だけどイヤな奴。


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2016.03.30 UP