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13■ホワイトデー
これまで、バレンタイン、ホワイトデーという一連のイベントに縁のなかった俺が、初めて貰ってしまったバレンタインチョコ。
これは……本命、義理、友のどれにも該当しそうにない。一体どういうポジションだ? お歳暮チョコ?
そして、頂いてしまったからにはお返しするのが常識で、一体何をお返しすべきか……。重くないレベルで、俺ができる範囲で――お皿洗い交代券、365日分でも渡さなきゃ申し訳ないな。普段から食事や各種片づけでお世話になってるからなぁ。と言ってもそっちは得意じゃないから変わってやる訳にもいかないし。
カノンの誕生日はフォトフレームをプレゼントした。
俺の誕生日はカノンがケーキを作ってくれた。
バレンタインにカノンから手作りのチョコを貰った。
俺はホワイトデーに……。
今泉方式でキスか。
いや、真顔で手刀食らうだろう。そして母さんに報告されてこっぴどく叱られる、定番のアレか。
まぁ、そんな度胸はない。さすがに家を追い出されかねない。
冗談はさておき……相変わらず女子の流行りものには疎い俺が気の利いたものをプレゼントできる自信はない。
では、参考までに、これまでカノンに貰っていたという今泉兄弟のお返しを参考にさせていただくとしよう。
「え? かのんちゃんへのお返し?」
「そうそう、参考にこれまで何を返してたのかなって」
ところが、卓弥はずーっとにこにこにこにこ笑顔をこちらに向けてくるだけで一向に応えてくれない。
「あの、聞いてた?」
「教えないよ、自分で考えたら?」
笑顔とは裏腹に、キツい言葉が出て来た。やっぱり根に持ってるのかな、今回のは。
とりあえず偵察に来た近くのスーパーのホワイトデーコーナーにあるのはチョコレートを筆頭にお菓子が多い。
手作りお菓子で定評のカノンに既製品お菓子をプレゼントするのはどうかと思う。
ならばまた雑貨屋にお世話に……。
雑貨屋?
どこにあるんだよ、この付近! 誕生日の頃とは生活している拠点が違う。大きい店は自転車で行くには少々遠い。それこそ家族で出掛けるとかぐらいじゃないと行かない……ん? そうだ!
夕飯が終わり、カノンが風呂に行っているタイミングで話を切り出した。
「バレンタインのお返し探しに行きたいんだけど、土曜か日曜、連れてってくれる?」
「貰えなかったんじゃなかったの?」
ぐっさり突き刺さる言葉を遠慮なく放つ母さん。頼む相手を間違えたと後悔した。
「もういい、母さん黙ってて。なのでセイジさんお願いします」
セイジさんの方が同性だし貰う側だからきっといいアドバイスをしてくれるはずだ! と期待もできる。
「ああ、いいよ。一緒に行こう」
よし、これでお返しの件はどうにかなりそうだ!
「で、誰から貰ったの?」
この人もか。
正直に言うか、黙ってごまかすか……でも一緒に買いに行けばバレるのは時間の問題か。
「……カノンから」
「ああ、やっぱり」
む! カノン以外にいないような言い方された気分!!
□□□
そして土曜日。
「えー、あたしも行きたい」
「ダメ、今日は孝幸くんと二人で行くから」
「お父さん……いつの間に二人で出掛けるほど仲良くなってたの?」
「失礼だね! 男同士、一緒に出掛けたい時だってあるよ!」
「そうだ! 失礼だぞ!」
「……怪しぃ」
カノンも一緒に行きたがってたけど、俺はセイジさんと二人で大型ショッピングセンターへ出掛けた。真っ先に向かったのは店舗中央の催し会場。まさにホワイトデーにちなんだ商品がずらりと並んでいた。近所のスーパーとは当然桁違い。
お菓子類ばかりではなく、ハンカチだったり、エプロンだったり、ぬいぐるみが入ってるやつやあまり見たことのないお菓子……カラフルな小さめどらやきみたいなやつ、マカロン?
何者だ、マカロン。名前は最近よく聞くやつだが、全く持って謎だ。そして、切り分けたせいでやたらバラバラになって見た目の悪い試食にて更に謎は深まる。
外はサクっとしてるのに中はしっとり? そしてアーモンドっぽい味、なんだこれは! 外側のパリパリはすぐに壊れるほど繊細だし。だから試食がこんなに見た目が悪いのか……納得。
思わずセイジさんにも試食をすすめるが、その見た目にやはり顔をしかめた。しかし、一口食べて顔色が変わった。
「これは何だ?」
「わかんない、でも癖になりそう」
それこそこの試食全部食べたいと思ったぐらいに。そして顔を見合わせ頷いた。
「これで決まりだ」
「そして、マカロンとやらの作り方が載っている本を買おう」
我が家の菓子職人に是非とも作っていただこうではないか!
最高のマカロンを!
しかし、マカロンは高かった。
数個しか入ってないのに、千円札が飛んでった。とても、自分が食べたいからって小遣いはたいて買えるほど気軽なおやつではなかった。
一度でいいから飽きるほど、食べてみたい……。
きっと、この夢はカノンが叶えてくれるはずだ。
『今日はマカロン作ったよー』
という具合に……。
□□□
買い物を終えて、ちょっとゲーセンで遊んでからの帰宅。
カノンの表情が微妙である意味愉快だった。頬膨らませ、ヒマワリの種を頬袋に詰め込んだハムスターみたいだ。
そんなに一緒に行きたかったのかな? でも今日は個人的な用事だったし、カノンへのお返しだし、だから自分で選びたかったから……。きっと渡したら分かってくれる、そう信じて買ってきたマカロンの入った包みを手作りお菓子のレシピ本と一緒に差し出す。
「先日のバレンタインはありがとうございました。俺の気持ちというかお返しです」
膨らんだ頬はすぐにしぼみ、きょとんとした表情に変わる。察してくれたかな?
そして表情が緩み、受け取ってくれた。
「ありがとう。これ買いに行くんだったらそう言ってくれたらいいのに」
「悟られたくなかったんだよ」
俺の気持ちを汲んでくれたのか、それ以上は何も言わず、頬を緩ませつつ包みを開け始める。まずはマカロン。
「マカロンだ。これ初めて食べる」
お菓子通そうなカノンでも今回が初となるマカロン。一口食べて受けた衝撃は、その表情から分かる。
「なんだこれは!!!」
俺の時と同じだ。
「ピンクとか黄緑とかだから変なもの入れるのかなーって警戒してたのに、なんだこれは!!」
「ウマいだろ?」
「ウマいどころじゃないよ! なんだこれはぁ!! クセになりそう 強く持ったら割れちゃう、なにこれ、繊細!」
一つ目のマカロンを大事に大事に食べていたけど、それも全部胃の中に入ってしまう。
「イメージと全然違ったー」
と、残りは食べずに箱を閉めてしまう。
「もう食べないの?」
「うん、何だかもったいないからまた明日食べる」
次は本の方を開けておお! と声を上げた。
「作れってことだね?」
「そういうことで、よろしくお願いします」
カノンはマカロンの作り方が載っているページを開き、材料や手順を見て頷いている。
これは期待しててもいいかな?
□□□
数日後、学校から帰ってすぐに入ったリビングに、浮かない顔をしているカノンがいた。
「た……だいま?」
「……おかえり」
どうも膨れている。しかし、部屋には甘い、お菓子の匂いが充満している。なのにすぐに差し出してこないあたり、どうもおかしい。
「どうかした?」
「……あたし、マカロンは無理みたい」
意外な言葉が返ってきた。何でも作れるイメージで定着していたカノンがまさかの失敗? それは落ち込むの分かる気がする。
その失敗したものと思われるマカロンが差し出される。いつもと違って申し訳なさそうに。
形はマカロンそのままである。焦げている訳でもないし、ぱっと見た感じではどこが失敗してるのか分からないけど、口に入れてすぐに気付いた。
あ、外側の繊細なパリパリがない。全体的に柔らかくしっとりしているだけで味はマカロンそのものなんだけど。やはり繊細な感じのお菓子だけに作り方も繊細なのか?
そしてカノンも繊細であった。ものすごく落ち込んでるし。確かにカノンは何でも作れると思って本までプレゼントして、こっちも期待しすぎていたところがあったのかもしれない。それがプレッシャーになって……。
「大丈夫だよ、おいしいよこれ。初めて作ってここまでできるってすごいと思うよ。だからまた作ってよ。何度か作ってたらきっとコツもつかめるはずだし」
俺の素直な感想と思い。
カノンの表情が少し和らいだ。
「……うん、また作ってみるね。でも、しばらくはいいや」
ちょっと前向きではない答えが返ってきた。それはなぜか聞いてみると……どうやらそれは材料にあった。俺にはそういう専門知識はないからよく分からなかったんだけど。
「アーモンドプードル、店に売ってるやつって少ないのに高すぎるし、オーブンの温度と焼き加減が心配で開けたら外パリパリにならなくなったし、難しいよ」
だそうだ。さっぱり意味不明だ。アーモンドプードルってアーモンド色の犬? んなわけないか。
会社から帰宅した母さんとセイジさんにも、不安な表情を浮かべつつ差し出し、食べて貰っていた。
「おいしい。これもこれでいいと思うよ」
「うん、すごいな初めてでも作れるなんて。難しいんだろ?」
「また作ってね」
ようやくカノンに笑顔が戻った。
一時はどうなるかと心配したけど。
努力家のカノンのことだ。いつかあの繊細な食感のマカロンを完成させてくれるはずだ。
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2016.03.30 UP