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  4■藤宮になったリンダ


 藤宮家は山を切り開いて作ったような団地の一軒家。
 一階はリビングダイニングキッチン、いわゆるLDKと和室、こっそり覗いた藤宮さんのベッドルームがあり、二階はカノンの部屋の他に二部屋ある。うち一室は俺が止まる時に使ってる部屋。もう一部屋は狭い部屋で物置っぽくなってる。これは5LDKなのか? 広告で見る一戸建てやマンションの間取り図でも滅多に見ないサイズだ。
 だから、なるようになった時は、俺と母さんはあっちに住むことになるだろうとは思っていた。
 その予行練習なのかどうか知らないが、週末を藤宮家で過ごすことが多くなり、藤宮さんと母さんが正式に再婚することにしたと話してくれたのは六月に入ってすぐ。そうなるだろうと思っていたが、やはり内心複雑ではあった。
 慣れたあの地を引っ越すこと、転校、友達との別れ……新しい環境への順応。なにも分からない土地へ一人で放り出されるほどのプレッシャーはない、カノンがいるからどうにかひとりぼっちにはならずにすむ。
 とりあえず一学期の間は今まで通りに生活し、夏休みに入ったら藤宮家へ引っ越しという段取りになった。



 六月十日はカノンの誕生日。平日だったけど一緒に食事をすることになったと誕生日の数日前の朝、母さんから聞いた。

「母さん、誕生日にプレゼント贈った方がいいかな?」
「あげたいならあげればいいじゃない」
「何がいいかな?」
「そういうのは自分で考えるのものでしょ?」

 むむ、まぁそうなのだが。どうしようかな、女の子って何がいいんだろう。男の俺でも買えるようなものでないと無理だぞ。
 とりあえず、学校が終わるとすぐに帰宅して、ちょっと遠いけど自転車で国道沿いにある雑貨屋に行って、店内をぐるぐる。
 ぬいぐるみはプレゼントであっても買うのは恥ずかしい。アクセサリーとか全然分からん。と、とりあえずその辺りは横目で見つつ素通りするだけ。
 筆箱、鉛筆、消しゴムとかの文房具、俺がそんなの貰ったらがっかりしかしない。それにこれも個人の趣味というものもあるし、カノンのことをよく分かっていない俺が選んでもどうなんだよ、というかかわいいやつは買えない、無理。
 そしてパーティグッズ売り場に現実逃避。声が変わるガス、使いどころが不明な衣装やかつら、バズーカクラッカー……あ、これ個人的に欲しい。
 はっ! そうじゃなくて! プレゼント買いに来たんだろ俺!
 もう何がいいのか分からないし、カップ&ソーサー意外と値段高いし……と諦めかけてたときに視界に入ったそれは……!!
 これなら俺でも買える。

「ラッピングでお待ちのお客様、お待たせしました」

 いいもの見つけたし、ラッピングもしてもらったし、楽しみだなー誕生日。
 プレゼント……喜んでくれるといいな。
 帰るころには心ウキウキ、スキップ気分。自転車だけどな。


  □□□


 カノンの誕生日の日は、学校から急いで帰って宿題やって、母さんが帰るのを待っていた。
 おっと、プレゼント忘れないようにしないと。これを裸で持っていく度胸はないので、普段使うことのない黒のショルダーバッグに入れた。包装がぐしゃぐしゃになりそうなのが少々心配ではあるが、出かける時にこれを忘れないようにせねば。

 母が会社から帰宅したらすぐに出発。待ち合わせは家から車で十五分ぐらいのところにあるCMでおなじみの有名なファミレス。市内ではなくその辺りは隣の市になる。外食なんてめったに行かないから、どんなメニューがあるのか楽しみだ。
 じゃないや、誕生日のお祝いであることを忘れずに。
 ファミレスについた頃はまだ夕食には早い時間なので駐車場はまだ空いていて、しばらく店の外で藤宮家の到着を待つ。
 俺たちの到着から遅れること十分ぐらい――藤宮さんとカノンが到着した。

「お待たせしました」
「お待たされしました」
「え、いや……」

 母さん、少し早く到着しただけなのにひどいな。ホントに再婚する気あるのか? まさか、やっぱり合わないとかですぐに離婚されたりしない?

「冗談よ。いい加減、私のこういう態度は別に怒ってないんだから慣れてちょうだい」
「そう、ですか、はい」
「敬語!」
「すみません!!」
「私、怒ったら口きかないタイプだから」
「まだ会話できるだけありがたいと思います」

 大丈夫かこの二人……と不安になってる俺に対し、カノンはクスクス笑っている。もうこういうやり取りには慣れっこか? ということはいつもこんな感じなのか。そっちにはそれが普通でも、こっちが不安になるからやめてほしい。

「それはさておき、誕生日おめでとう、カノンちゃん」
「はい、ありがとうございます」

 俺も慌てて母さんのあとに続いて言おうと思ってたが、タイミング合わず、

「たんじょ」
「じゃ、入りましょうか」
「そうですね」
「わーい、なに食べようかなー」
「……おめ……」

 一瞬、藤宮家と母さんが普通に家族に見えたんだけど、俺だけやっぱり仲間はずれ?

 店内に入ると店員がテーブルまでご案内。席に着いたら早速メニューを広げ、これおいしそうなど指さし話しながら注文するものを決める。呼び出しボタンを押して注文してから食べ物の到着まで、カノンの今日の出来事が話題になった。

「まず朝はたっくんからプレゼントもらって、学校でも友達からいろいろもらっちゃった」
「お返し大変ね」
「大丈夫。みんなお互いに誕生日になると贈り合ってる友達なの。たっくんには明日、クッキー焼いて持っていくわ」

 女子ってそういうのやってるよな、そういえば。男子だと所有してるカードゲームのカードあげたりとかしてるやつもいるけど。
 一方、俺はプレゼント渡すタイミングがどこか分からず、ひとりのそわそわする始末。
 ……ん、たっくんって誰だ?

「たっくんって? カレシ?」

 母がズバっと切り込む? 彼氏ってちょっと、今日で十歳ですよ?
 そんなことを聞かれてきょとんとするカノン。藤宮さんは苦笑いしている。

「この歳で彼氏いたら嘆くよ。たっくんはうちの近所に住んでる子で、よく遊んでくれるし、華音が学童終わったあと、オレが帰宅するまでのあいだ世話になってる家の子だよ……そうか、孝幸くんと同じ学年か」

 ここでカノンと藤宮さんが俺を見る。その視線につられて母も。
 学年が同じというだけでなぜここまで注目されるのだ?

「でも、たっくんと孝幸くん、全然違うタイプだね」
「そうだね、孝幸くんの方が落ち着いてて、大人って感じかな。たくはまだ、半パンで団地内を走り回ってるイメージしか思い浮かばない」

 藤宮家は俺をそう評価してきた。しかしこれがデフォルトなので褒め言葉なのか逆に子供らしくないと言われているのかよくわからない。それに、小学五年生にもなって、団地を走り回ってるイメージとか、どんなやんちゃだよ。

「そぉ? 孝幸ってちょっと冷めてる感じじゃない?」

 育ての親にはそう映っているようです。
 冷めてるよりは落ち着いていると言ってほしいところだな、やはり。
 なんて話をしていると、まずは母さんが注文したスパゲティのセットが到着、次から次に注文の品がテーブルを占領していった。

 母さんと二人きりなら、箸かフォークを肉にぶっ刺してかぶりついて食べて怒られるところだが、今日はおとなしく見よう見まねでナイフをさばきつつ、注文したチキンステーキを完食。
 みんなが食べ終わったところでまたメニューを広げている。そのページには見たこともないおいしそうなデザートがたくさん……デザート!?

「デザートいいの? 本当にいいの?」
「食べていいから恥ずかしい態度はやめてちょうだい」

 ごくまれに外食へ行くことがあっても、デザートなんて贅沢できるか! ってバッサリ切り落とすくせに。

「いいよ、好きなもの食べて」

 と藤宮さんがメニューのデザートのところをこちらに見せてくれた。
 おお、どれもおいしそう。
 でも全部は無理だから普段食べれないものって、やっぱり全部!
 って訳にもいかないので、

「レアチーズケーキ?」

 メニューの写真を見た印象が高級そうだったというだけだが。ケーキ本体の下の部分が何なのか気になるし、チーズスフレと何が違ってレアなのかも気になる。何よりレアに違いない。俺はこれまで未経験だぞ。
 と、意味不明な理由で選んだのに、

「あたしもレアチーズがいい」
「じゃ、みんな一緒でいいんじゃない?」
「そうだね」

 そんなノリで全員同じデザートになった。いいのだろうか。
 大人たちはコーヒー、子供たちはジュースをお供にケーキを食べる。レアの意味はよく分からなかったがヨーグルトムースみたいな感じで、下の部分は何物か分からなかったがしっとりしていておいしかった。
 それも食べ終わり、飲み物もなくなったところでみんな席を立ち始める。
 え、もうお帰りですか!?
 どうしよう、プレゼントまだ渡してない!

「今日はありがとうございました。一緒に食事できて楽しかったです」

 とカノンが俺と母さんに向いて笑顔で言う。でも俺、それどころじゃない。
 プレゼント、プレゼント、頭にそれしか回らない。

「こちらこそ、楽しかったわ」
「じゃ、気をつけて」
「ええ。また明日」

 もたもたしてる間に、藤宮さんと母さんがそんなあいさつ交わしたら、もう帰宅じゃん!
 ヤバイ、早く呼び止めて渡さないと!
 バッグに手を突っ込んで包みを取り出す、けど角が引っかかって出てこない。

「カノン!」

 とにかく呼び止めてみる。振り返ってこっちを向いてるのに、慌ててるせいか肝心のプレゼントが出てこない。

「ちょっと待って、ちょっと待って……」

 やっと出てきたその勢いで差し出す。
 だけど、バッグからうまく出せなかったせいで包装が少し痛んでいる。

「プレゼント、たいしたものじゃないけど……」
「あたしに? ありがとう」

 カノンは俺から包みを受け取り、抱きしめた。




「孝幸、何プレゼントしたの?」

 帰りの車の中。母が突然そんなことを聞いてきた。

「フォトフレーム」
「何で?」
「新しい家族の写真入れるもの、かな。まぁ何の写真を入れるかは本人の自由だけど」
「なるほど、それは思いつかなかった。だったら今度、写真撮らなきゃね」


  □□□


 七月上旬、遊園地に行ったとき、たくさん写真を撮った。

 藤宮さんと俺は高い所と絶叫モノが苦手で、母さんとカノンは何度もジェットコースターに乗りに行っていた。
 昼食はお互い持ち寄りした手作り弁当。

「卵焼きは千恵さんの方がおいしいなー」
「そうか? 俺は藤宮家の味の方が好み」
「からあげは断然、カノンちゃんの勝ちねこれは。負けたぁ」
「前日から下味つけてて正解だったな」
「えへへー」

 昼食後、飲み物を買いに走る俺とカノン。母さんと藤宮さんが二人きりになったところをこっそり撮ってたら、見つかって母さんに追いかけられた。
 そんな俺たち親子を見て、笑ってる藤宮さんとカノン。

「よーし、最後は観覧車乗りましょう!」
「さんせー!」

 はしゃぐ女性陣に対し、俺と藤宮さんは顔を合わせた。
 高い所&絶叫苦手という共通点がある俺たちにとって、観覧車は拷問だ。

「二人で乗ってきなよ」
「うんうん、そうそう。それがいい」

 藤宮さんの腕をカノンががしり。俺の腕を母さんががしり。
 ああ、ものすごく嫌な予感。

「まぁまぁ、そんなつまらぬことを言わずに」
「そうそう、せっかくじゃないの、お父さん」

 男どもは情けない悲鳴をあげつつ、観覧車の密室(?)へ閉じ込められるのであった。
 乗車時間の十五分はまさに地獄。面白がって揺らすし、めちゃくちゃ揺らすし! もげて落ちたらどうすんの! 一家心中なの?

「あー、足元フワフワして気持ち悪い」
「ホント、苦手だったのね、ごめん」

 藤宮さんは足元がフラついてて、母さんが心配してる。

「景色、キレイだったね」
「……見てない」

 カノンがぴょんぴょん飛び跳ねながら聞いてきたが、俺はとにかく足元ばかりを見ていた。高所からの景色なんてとんでもない。
 しかし母さんはそのとんでもないことを平気で言う。

「孝幸、景色見てないの? もう一回だね」
「絶対やだ!!」
「そうだよ千恵さん、嫌がってるじゃない」
「乗る前にも嫌がってたのに、無理やり乗せたんじゃないか!!」
「そうだ!」

 藤宮さんも、ささやかながらも反論? でも、まだかなり具合悪そうだった。
 そんな感じで、知り合って長い訳じゃないのに、俺もすっかり馴染んでいた。


  □□□


 クラスメイトには転校することになることを終業式の日まで言わず、先生にもそうして欲しいと頼んでおいた。

「今日はお知らせがもうひとつあります。林田くんが今日で転校します」

 その終業式が終わって、掃除して、学活の本当に最後の方になってのお知らせで、俺のことが触れられた。
 明日から夏休みということで浮かれ気分に包まれていた教室がざわついた。

「うそっ、どこ引っ越すんだよ!」
「いつ引っ越すの?」
「早く分かってたらお別れ会したのに」

 そういうのがいやだから黙ってたのに……。

「隣の市に、たぶん今週中には引っ越す」

 帰りの挨拶が終わると、色んな奴に取り囲まれた。

「元気でな。たまには遊びに来いよ」

 来れたらな。

「僕のこと忘れないでよ」

 忘れないよ、たぶんな。

「住所教えてよ、手紙書くから」

 いや、住所わかんないし、苗字も変わるけど、そこは黙っとく。

「わたし、三年の時から林田くんのこと好きでした!」

 どさくさに紛れてなに言いやがる!!
 千切ったノートに書かれた手紙を貰ったり、図工での力作を握らされたり……泣くつもりはなかったのに、最終的に泣かされてた。

 隣の市なんだから、またいつか、どこかで会えるかもな。
 買い物先で会うかもしれないし、もしかしたら、高校で一緒になったりとかさ……。


  □□□


 藤宮家に引っ越してしばらく、母さんは仕事を休んで家の片付けをしていた。
 俺の部屋はここに泊まる時に使っていた二階の部屋、カノンの部屋の隣。元々狭いアパート暮らし、そんなに持ち物なんてなかったから、箱に詰めたものを出して並べ直すぐらい。片付けというほどの時間は特に必要なかった。
 当然、学習机なんてものもなく、相変わらず足が折りたためるテーブルが学習机を兼ねる。布団も床に直に敷いてるだけだし、大きなものといえば本棚や飾り棚として使ってる三段BOXが二つ並んでいる程度、部屋は広い。
 こっちにはまだ友達もいないので、家の中を探検していたが、たかが知れている。毎週来ていただけに、見慣れてしまっていた。
 特にすることもないので、庭が一望できる一階の小さな仏壇がある和室の窓から庭を見ていた。少々背後は気になるんだけど。突然見えないものに圧迫されてググっと、ぐはぁ!! というのはないけど。まぁ、気にはなる程度。もしかしたら、後ろに、バッ!! いないいない。赤ちゃんみたいなのが廊下をハイハイしてる! いやだから、見えるわけないし。ヒマとはいえ失礼な妄想もたいがいにしろ。
 庭では干してある洗濯物が風になびいて揺れている。
 今までに見たことない服が干してあるが当然と言えば当然。母の服、俺の服、藤宮さんの服とカノンの服、と人数はこれまでの倍だ。あ、ピンクの小さめパンツ、あんなの穿けるのかすごいな。まだブラジャーじゃないのか……まぁ、見て明らかなほどあるようには見えないから必要もないのか、シンプルな白いキャミソール。母さんの下着は見慣れてるからどうでもいい。アパートに住んでた頃はよく下着姿で部屋をうろつかれたものだ。ここに来てからそういうズボラなところがなくなったな。いいことだ。

「何してるの孝幸くん」
「庭見てる、洗濯物……」
「洗濯物?」

 和室で外を眺めてるだけの俺を見つけ、声を掛けてきたカノン。俺の隣にきて庭の洗濯物を一緒に見つめた。

「俺は藤宮さんと同じ、ボクサー派だ」

 いや待て、もしかして藤宮さんがボクサーだから俺もボクサーにされたとか!? あり得ないとは言い切れない。まぁ、トランクスもブリーフも好きではないが。

「カノン、今日は何色だ? 正解は明日の洗濯物で!」

 と言ったところでカノンが俺の鎖骨部分を攻撃してきた。
 痛い、そこ地味に痛い!!

「千恵さん、明日からあたしの下着、自分の部屋に干すから!!」
「孝幸ぃぃ!!!」



「このエロガキ、女の敵っ!!」

 母に散々怒られたけど、その日、カノンの機嫌は直らず、話しかけても睨まれた。
 何かこういう機嫌の損ね方、前にも散々体験したことあるせいか、慣れっこ。というか、俺は機嫌を損なわせる天才か。自慢にはならない、直すべきところかこの性格。
 だから黙っていればのリンダくんか。四月、五年になって初めて同じクラスになった活発系の女子から「喋るとすごい残念だよね、林田くん」と言われたこともある。今更納得。


  □□□


 そのまたある朝の藤宮家ダイニング、食卓にて。俺は新聞広告の裏に、「藤」の字をやたら練習していた。
 二学期から持ち物やらテストとか、嫌でも書かなきゃならないからな。

「なに書いてるの?」
「名前の練習だって。五年なんだから名前ぐらい漢字で書きたいってさ」

 集中してて対応できない俺に代わって台所に立つ母が答える。全くその通りである。

「右側、グチャグチャってなっててわかんねぇ!」

 カノンが覗き込んできたことで集中力が途切れ、鉛筆を置いた。右だけ画数多すぎ。バランス良く書けない。

「横棒、三本じゃなくて二本だよ」
「はぁ!?」
「小学校じゃ習わない漢字なんだから、ひらがなで書けばいいじゃない」
「絶対に嫌だ!」

 それはかっこ悪い。
 習字で名前書くのやだな、このままじゃ絶対範囲に入りきらねぇ。
 いっそカタカナでフルネーム書いてやろうか!

 画数多い苗字変わった人あるある?


  □□□


 そして、一緒に住みだすと、何かとハプニングに見舞われるはず。

 風呂で湯船に浸かりながらのんびり、洗面所でお風呂上がりのカノンに出くわして「キャ〜お兄ちゃんのエッチー!」事件でも起きないだろうか、とマンガ的展開を想像していた。
 胸は発展途上中、これからの成長に乞うご期待!
 いいね、とってもいいね!
 これからに毎日一緒に居るんだ、そのうち一回ぐらい……!?
 と期待に股間……いや胸を膨らませつつ、風呂から上がりドアを開いた次の瞬間――

「ひぁああああ!!!」
「うぉああああ!!!」

 洗面所に繋がる風呂のドアを後ろ手で閉め、肩で息をしてる俺。

 逆でした、実際に起こった事故は想像とは逆の展開でした。

 「うっ……」

 俺の下半身は発展途上中! これからの成長に乞うご期待☆
 ちくしょう……こんなはずでは。


  □□□


 夏休みもあと十日というところで俺の誕生日がやってきた。いつの間にか十一歳だ。
 昼食を終えてから自分の部屋で提出先が不明な夏休みの宿題をしていたけど、どこからか甘い匂いがする。何だろう、焼き菓子かな? そういえばそろそろおやつが食べたい。ということで鉛筆を置き、菓子を探しに一階へ降りつつ甘い匂いの発信源までたどると、我が家のダイニング入り口へ着く。
 お腹がグーっと鳴いた。

「ストーップ! それ以上こっちに来ないで!」

 ダイニングに立ち入って二歩ぐらいのところでそう声が掛かる。なぜ拒否する、カノン。俺、また何かしたか? 心当たりはない。
 でもこの空腹は満たしておきたい。じゃないと夕食までに餓死してしまう。

「腹が減った、何かくれ」
「……うん、ちょっと待って、だから絶対それ以上入らないで、近づかないで!」

 何だ俺、嫌われてる? それとも汗臭いのか!?
 部屋の入口で待ってると、氷とお茶が入ってるグラスとクッキーが盛ってある皿を手渡された。

「それ持って自分の部屋に戻って。夕飯に呼ばれるまで、台所には来ないで」

 と締め出された。
 ……お兄ちゃん寂しいよ。

 自分の部屋で大人しく空腹を満たす。
 あれ? このクッキー、やたら温かいな。それにあの甘い匂いって、これか?
 母さんは仕事に行ってるし、こういうのを作るタイプではない。
 すげーなカノン、料理だけじゃなく、お菓子まで作れるのか。クッキーを四方八方眺めてから口に運ぶ。
 うまい。甘さの加減も絶妙。皿にけっこうあったはずのクッキーはあっという間になくなった。そしてなかなか腹も太った。

「ごちそうさまでした」

 両手を合わせ、ありがたくカラの皿を拝んだ。

 ほどよく勉強する気も失せた。部屋にいても退屈なので、外へ散歩に出掛けてみる。今日は今まで行ってない方向に向かって歩いてみた。同じぐらいの歳の子と何人かすれ違って、公園も見つけたけど当然知らないヤツだらけだったから素通り。ここに公園があるという情報だけ頭に入れておいた。
 大通りに出るとよく買い物に来るスーパーがあって、道路を挟んだ向かい側に小学校がある。俺が前にいた学校より少し小さい気もする。
 運動場の遊具で遊んでる子も見えるけど、ここもよそ者の俺がドカドカ入って一人で遊んでも面白くない。学校の場所はここに来てすぐに覚えたし、特に収穫なしだな。
 迷子にならないうちに来た道を引き返す。
 しかし退屈だ。暑いし、額に滲んでた汗が流れて、背中も何だか気持ち悪い。
 顎に伝ってきた汗が集まっては雫を落とす。腕で拭った汗は、ただ塗り伸ばしてるだけ。でも風が当たるとほんのり涼しく思えた。

 すれ違った人の中に、同じクラスになるヤツっているのかな……顔はいちいち覚えてないけど。
 友達できるかな。不安だけど、楽しみ?


 家に帰ったら洗面所で手と顔を洗い、二階にある自分の部屋に戻る。さっきカノンが入れてくれたお茶は、氷が溶けてお茶と水が分離してるような状態。台所に行ってもまたカノンが騒ぎそうだし、そのぬるく水っぽいお茶を飲み干して、床をゴロゴロしてたら、



 いつの間にか寝ていたらしい。空は暗くなりはじめてる。
 体は汗びっしょだ。
 階段を誰かが上がってきて、俺の部屋のドアをノックした。

「孝幸くん、ごは、うわ!」
「なに驚いてんだよ」
「だって、暗い部屋に座ってるからだよ!」
「今まで寝てたんだよ」

 このままご飯を食べる訳にもいかないので、替えのTシャツを持って洗面所へ行き、顔を洗って汗を拭いて、着替えてからダイニングに入ると……。

 ――パーン、パパーン!

 細長い紙が飛んできて、火薬臭がする。クラッカーか、びっくりしたじゃないか!

「孝幸、誕生日おめでとう」
「「孝幸くん、誕生日おめでとう」」

 ここ、ハモる部分だったけど、一人俺の呼び方が違うというハプニングね、母さん。
 三人が囲んでるテーブルはたくさんの料理が並んでて、真ん中にはケーキもある。

「ケーキね、カノンちゃんが作ったんだよ!」

 一見、売り物の分かと思ったが、近くでよく見ると、所々不格好。イチゴだけじゃなく、おやつにもらったものと同じものらしいウサギ形のクッキーが立ってたりする。
 もしかして、これを作ってたから台所に入るなって言ってたのか?

 先にロウソク十一本の火を吹き消すと、気温のせいでクリームが溶けるとかで、ケーキは一度冷蔵庫へ避難。一通り食事を終えると再び登場。切り分けてもらって一口パクリ。

「おいしい」
「ほんと。おいしい。すごいねカノンちゃん」
「ふふふ。お菓子作るのも得意なんだ」

 料理もできて菓子まで作るとは……。

「できないことがあるのか聞きたくなるな、これは」
「できないこと? あまり考えたことないよ。自分でやらなきゃいけないことが多かったから……」

 そうだったのか。そうだよな。藤宮さんは申し訳なさそうな表情を浮かべている。しまった、変なこと聞いちゃったかな。
 でも楽しく話しながらケーキを食べて、お風呂に入ったらもう寝るだけ。
 ダイニングでビールを飲みながら話をしている藤宮さんと母さんにおやすみと伝えて二階へ上がる。
 二階廊下を歩いていると、カノンの部屋のドアが突然開き……避ける暇もなく出てきたカノンと激突。身長差の関係で俺が顔面に頭突き食らった感じ。

「あたたた」
「ごめんなさい! 大丈夫?」
「んー、大丈夫」

 慌てて離れるカノン。
 ぱたぱたっと鼻から雫が落ちた気がした。
 あ、大丈夫じゃない。鼻血だ。
 これ以上血で汚さないように鼻をつまみ、

「てぃっひゅ」

 足元に落ちてる血に気付き、カノンはティッシュを箱ごと持って戻ってきて、適当に数枚引き出すと俺の鼻にそっとあててきた。

「ごめんね、今度から気をつけるから……」

 俺は大げさに首を縦に何度も振った。
 鼻にティッシュを詰め、とりあえず部屋で横になる。なんとなく手を挙げて見れば、見事に血まみれだ。後で洗いに行こう。
 部屋のドアがノックされ、カノンが入ってきた。俺の側に腰を降ろし、顔を覗き込んできた。
 こんなに近い距離で見つめられると緊張する。一体なんだこれは。

「顔、拭くよ? 血ついてるとこ」

 とウエットティッシュを見せてくる。
 ああなんだ、そういうことか。 俺は「ああ」と返事して、後はカノンにお任せ。
 顔の血を拭き取ってるカノンに気付かれないよう、時々顔をチラ見してて改めて思った。
 ――やっぱり、かわいいな、この子。
 俺、すっごいラッキーじゃね? こんな子と一緒に住んでるなんて。





  □□□

 家族であることが幸か不幸か……。


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2014.03.20 UP
2016.01.29 改稿
2016.02.25 改稿