■卯月――大学生活
新しい生活にも慣れてきたし、新しい友達もできた。でも、楽しくない毎日。
こっちに来る直前まで想像もしていなかった、秋野のいない大学生活。
溜め息ばかりの毎日……。
アパートで一人、ぼんやりしていると、携帯が鳴りはじめた。ディスプレイには那弥楓と表示されている。
「もしもし」
『久しぶり、テル。そっちの生活はどう? もう慣れた?』
楓の元気な声にすこし励まされた感じ。
「うん、慣れてきたけど、少し退屈かな」
楓の側で誰かが話してる。男の人……たぶんマツくん。
『何か、イブくんが話したいみたい。変わるよ』
『久しぶり、モミジちゃん、元気にしてる?』
陽気な声。相変わらずだ。
「元気だよ。マツくんも元気そうだね」
『おう! 頑張って慣れない一人暮らししてるぜ』
後ろの楓が、家事してるのあたしだし、って文句言ってる。
『雄飛のことなんだけど……』
心臓がドクンと強く打たれた。
『高校の時にバイトしてたガソリンスタンドに就職して、近くのアパートで一人暮らししてる。アイツも、元気だよ。だけど……ずっと迷ってるみたい。モミジちゃんのこと、口にはしないけど、気になってるみたい。雄飛、なんでもかんでも自分の中で押し殺して、一人でいろいろ抱えちゃうやつだから……オレが言うのも何だけど、やっぱ、雄飛を救えるのは、モミジちゃんだけだと思うんだ』
涙が溢れてくる。拭っても、拭っても溢れてくる。
『自分のことは言うなって言われてるけど、やっぱ黙ってられないんだ、オレも。せっかく掴みかけてた幸せ、逃すようなことはさせたくないからな』
電話の後、送られてきたメールに、秋野の連絡先が書いてあった。
秋野の姿を思い出す。
最後に見た姿は制服だった。私の中の秋野は、まだ高校生のまま。
秋野に逢いたい――。
やり場を失っていた想いが、涙と一緒に溢れた。
逢いたい。
逢って、好きって伝えたい。
早く、いますぐにでも……。
私はゴールデンウイークに早速地元に戻る決意をした。
想いをつたえるために。
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2013.07.23 UP