飛翔――12
桜が満開になった。
今から一年前――クラス分けが貼りだされた掲示板の前。
君は少し寂しそうな顔をしていたのを覚えている。
その理由も、後でなんとなく解った。
梅雨の雨に打たれていたあの日、泣いていたよね。
俺の時はね……泣けなかった。喜んであげなきゃいけなかったから。
だけど、後悔はしなかった。でも、後悔した。
想いを伝えられなかったこと、少しだけ後悔した。でも、言わなくて良かったとも思う。何だか変な話だ。
照山……約束、守れなくてごめん。
直接説明すべきだったと今は後悔してる。
だけど、あの時の俺には無理だった。
「モミジちゃん、無事向こうに着いたってさ」
遊びに来ていた松山に聞いた。
俺も家から出てアパートで一人暮らし。別に苦ではなく、むしろ気が楽だった。しかし、彼女を想うと胸が痛む。
松山とは頻繁に連絡を取り合い、仕事が休みの日には那弥と一緒に遊びに来ることもあった。
その度に言われるのが「照山」のことだった。
出発の日、松山が照山と那弥に俺のことを話したらしいが、那弥からは散々攻められた。
「アンタね、大学には行けなくても好きな子の見送りぐらい来なさいよ!」
耳が痛かった。
闇に囚われている自分が、光――照山に触れたら、きっと戻れなくなる。それも怖かった。
でも結局、「自由と愛する人」を天秤にかけて、俺が選んだのは自由。
しかし、照山のいない自由は、自分が求めていた自由とはかけ離れたもので、心にはぽっかりと穴が開いたような気分だった。
大切なものは、失ったあとにその大切さに気づく。
メアドは覚えてる。自分のは変わってしまったので彼女からメールが来るなんてありえない。
自分から彼女へ近づかなければ、この恋は終わるだけ。
照山への想いの花は、まだ色鮮やかに咲いている。無駄に、何もせずに枯らすなんてしたくなかった。
でも、自分から動くことはできず、ただ過ぎていく平凡な毎日。
物足りなかった。
仕事場であるガソリンスタンドとコンビニ、アパートを行き来するだけの日々は過ぎていくだけ……。
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2013.07.23 UP