飛翔――13
その日も変わらず、仕事をしていた。ゴールデンウイーク、五月の連休初日。
祝日も関係なく、仕事は定時、午後五時まで。
三年前の今日は、松山と一緒にモールでぶらついてたっけ? なつかしく思い出した。
あの頃は楽しかった。家にいるのは辛かったけど。
今は家から出てしまったので、家族のことでつらい思いをすることはなくなったけど、照山との約束を守れなかったこと――彼女を想うたびに心を痛めた。
数年後――偶然でも、同窓会でもいいから、そのとき照山に会えるなら……それだけでいい。今ではなく、ずっと遠い未来に再会できることを願っていた。
それだけで、俺は今を頑張れるから……。
退社時間の午後五時まであと五分。
そこに一台の車が入ってきたので接客。
客からの注文を受ける、ポスを操作、給油口にガンを突っ込んで、給油してる間に窓を拭く。これまでやってきた、いつもの動作だ。
近くの工場で五時を知らせるサイレンが鳴った。
会計を済ませ、スタンドから出る車。道路へうまく入れるよう誘導し、走り去る車に対して「ありがとうございました」と深く頭を下げる。体を起こすと歩道に女性がいたことに気付いた。
車が出る時に歩行者を足止めしてしまっただろうか。そう思って女性の姿を見たとたん、時間が止まったように思えた。
――照山!?
こんな所にいるはずがない。だいたい、彼女には自分のことを何一つ話して……情報が漏れてる。犯人は松山か。
だけど、どうしてココに? 幻? これはまぼろしなのか?
彼女は口元に手を当て、肩を震わせていた。
「ちょっと待ってて、もう終わりだから……すぐ着替えてくる」
彼女にそう伝えて事務所へ駆け込んだ。シフトの関係でまだ仕事が終わらない先輩に「おつかれさまです」と声をかけつつ退社。
照山は待っている。彼女のところへ行くと、大粒の涙をこぼした。。
「女の子は、少し見ないうちに綺麗になるんだね」
「そんなことないよ。でも、よかった……元気でよかった」
話したいことは、たくさんあった。
言い訳まがいのことから、本当のこと。ずっと伝えたかった気持ちと、それが変わっていないこと。
俺が人生のどん底だと感じていたあの時。
「ずっと、自分の気持ちに正直になれなかった。でも、もう俺を縛るものはなくなった。だから改めて言うよ。俺は照山が好きだ」
「私も、秋野のこと、ずっと好きだった」
二学期、一緒にクラス委員をしてた頃、互いに意識しだしたらしい。
だって、好きな子じゃないと部屋に呼ぼうなんて思わないし、キスだってしない。
今だってそう。
まだ住みはじめて一ヶ月ぐらいのアパート。相変わらず、なにもなく殺風景な部屋。
手を繋いで、キスをした。離れていた時間を埋めるように……。
一組の布団に二人は少し狭くて……。
真ん中でくっついて寝てた。
夢から覚めても、もう恐れるものはない。
腕の中で目覚める照山の額にキスをすると、抱きしめた。
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2013.07.23 UP