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  ■弥生――卒業〜引越し




 進学も決まり、三月一日、無事に卒業した。
 卒業式の後、楓とマツくん、秋野と一緒にファミレスに行って、その後はカラオケで盛り上がった。
 最後の制服で、最高の思い出を……。

「うわっ、もうやめてよ、アキノ」
 ファミレスにて。特定のメニューでランチタイムのみ、ライスおかわり自由。それを頼んだ秋野は、食べ終わって待っているこっちが気持ち悪くなるほどおかわりしていた。
 修学旅行の時といい、どれだけ食べるんだ、秋野。
「食い溜めだ」
 こっちは堪らないよ。
 ざっと6皿おかわりして、こちらのげんなりとした表情に、
「……このくらいにしといてやるよ」
 とようやく手を置いた。


 一方、カラオケでは、楓とマツくんの息の合ったデュエット、楓と私が流行の歌を歌ったり、マツくんと秋野が誰もが知る名曲を歌う。楓は一人熱唱して酔いしれ、マツくんが懐かしのアニソンで盛り上げたり。

 高校生最後の日。
 もう、二度とこない一日。



 いつの間にか、少し陽が長くなってた、夕日に伸びる影、ふたつ。
 背丈の違いの倍以上、違う影の長さ。
 秋野と二人、並んで歩いてた。
 最初のうちは、楽しかったとか、だれだれの歌がすごかったとか話してたけど、次第に話題がなくなり、途切れ途切れ話して、ついに会話がなくなった。
 黙ってるうちに、私の家についた。
「わざわざありがとう」
「いや……うん、まぁ」
 変な返事。どうしたんだろ。
「いつ、向こう行くつもり?」
 向こう……大学のことだ。
「うん、まぁ、予定だと、入学式の五日ぐらい前がいいかなって。いろいろすることあるし」
「そっか……ま、そのくらいがいいよな。一緒に、い……けたらいいかなって思ってたけど、」
 なんだかしどろもどろで意外な秋野がおかしかった。
「一緒に行こうよ。一人じゃやっぱり心細いし」
 秋野は安堵の表情を浮かべた。
「じゃ、約束よ。入学式の五日前、十二時に駅で」
「わかった」

 家まで送ってくれた秋野の後ろ姿を見送ってると、そう経たないうちに振り返ってきた。
「あのさ……」
「ん?」
「俺、照山のこと、好きだ」
 ……え?
 秋野は走って行ってしまい、姿が見えなくなった。

 今、何て? 私が、好き?
 顔がカッと熱くなる。秋野も……顔が赤かった気がしたけど、夕日のせい?

 秋野の携帯番号もメールアドレスも知ってる。でも、真意を聞けなかった。
 この、夢のような状態を壊したくなかったのと、単純に恥ずかしさが勝ったこと。


「モミジちゃん、雄飛に告白されたんだって?」
 ある日、買い物で訪れていたショッピングモールで会った楓とマツくん。マツくんに耳打ちされて慌てる私。
「え、何で!?」
 マツくんがニコリと笑う。だけで終わり?
「オレも春から一人暮らしでさー」
 まさか、私の反応見て楽しんだだけ?
「ま、頑張って」
 な、何を!!
 うまくごまかされた感じで、二人と別れ、買い物再開――って、買うもの忘れた!




 あっという間に三月末。もうすぐ約束の日。
 恥ずかしながら、確認のため、待ち合わせの時間を秋野にメールする。
 けど、メールは届かない。
 携帯に電話してみたけど、
『――お掛けになった電話は、現在使われておりません』
 …………?
 なに、これ。
 ……そうか。向こう行く前に携帯新しくしたのかな。でも、番号変わったことを知らせないなんて、ひどい。
 待ち合わせの日、文句言ってやる!




 約束の日――約束の時間は十二時だった。私は十一時半から駅にいて、しばらくすると見送りに来た楓とマツくん。
 そして、十二時が過ぎた。
 秋野は、来ない。
「なによ、アイツ。一緒に行こうって言ったの、アキノでしょ? 文句言ってやる! イブくん、携帯」
 マツくんの携帯から秋野の携帯に掛ける楓。
「楓、繋がらないよ」
「なにバカなこと……うそっ」
 楓は携帯を見つめ、再び掛ける、が結果は同じく。
「信じらんない、あのバカ!
 携帯をマツくんに突き返した。
「イブくん、何か聞いてないの?」
 いつも笑ってるマツくんから、表情が消えていた。
「待ってても雄飛は来ない。大学に行けなくなったんだ、アイツ」
「……え?」
「どういうこと? 何で黙ってたの」
 楓がマツくんに詰め寄ってる。
「言うなって、雄飛に言われたから……それにオレが話せるようなことじゃない」
「教えてよ、マツくん。じゃないと私、行けない」
「イブくん、テルのために、話して」
 マツくんは目を伏せ、深い溜め息のあと、分かった、と話しはじめた。
「大学に進学することを許されず、就職して家を出た。雄飛、今は一人暮らしをしてる」
「な、んで……」
 それならそうと連絡してくれてもいいのに、なぜ?
「秋野家で雄飛だけ、父親が違うから、いろいろと風当たりが悪くて……高校卒業のタイミングで追い出されたんじゃないかな」
 ……父親が違う? それって、
「雄飛は来ない。だからもう、待たないで、行ってくれ」
「やだ、秋野にまだ言ってないことがあるの!」
「今、雄飛は自分のことで手一杯だ。落ち着くまで待ってやってくれ」
「やだ、いやだぁ……」
 私は泣き崩れた。
 秋野のこと、何も知らなかった。

 電車から新幹線に乗り継ぎ、また電車。よく間違えずに辿り着けたものだ。
 何もないアパートの一室に到着した私は、とりあえず家に電話した。
 無事に着いた、と。
 これがごく当たり前だと思ってたのに、秋野には、当たり前じゃなかった。あまりにも複雑で、考えてしまう。一人だから尚更。
 どうして、なんで……。
 疑問ばかり。

 私が思い描いていた、秋野がいる大学生活はあっさり打ち砕かれた。
 静まり返っているアパートの部屋で、一人、静かに涙を流した。
 ……伝えたいのに伝えられない想いを抱きしめた。



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2013.07.23 UP