■如月――大学合格
半ばにあるせっかくのイベントも、受験と就職活動で埋もれそうな二月。
私は、志望する県外の大学に合格した。
楓とマツくんも地元の大学に進学が決まって、秋野も、私と同じ大学から合格通知が届いたようだ。
受験が一段落したからか、秋野の態度がクリスマス以前と変わらないものに戻ったようで、あれは受験のせいだったと少し安心した。けど、やはり私とはぎこちなかった。
まぁ、友達同士でするようなことじゃなかったし、あれは。やっぱり、気まずいよね。
ぼんやり見つめる二月の空は、少しよどんでいた。
「雄飛、帰りに――」
「悪い。今日もバイトだから」
「まだバイトやってんの?」
「結構お世話になったから、ギリギリまでやろうと思って」
「そっか……頑張れよ」
「ああ、また」
窓の外を見つめる私の後ろで、秋野とマツくんがそんなやり取りをして、別れた。
「マツくん、秋野ってどこでバイトしてるの?」
ついつい聞いてしまった。秋野を一番よく知るであろうマツくんに。
「ガソリンスタンドだよ。二年の時からずっと」
ガソリンスタンド……全然想像がつかなかった。
それに、ガソリンスタンドじゃちょっと見に来ましたって訳にもいかないな。
「県道の、スポーツ用品店前の……」
「ああ、だいたい分かる」
近くにコンビニもあった……マツくんがなぜか私の顔を見てニヤニヤしてる。
「雄飛はチョコレート、好きだと思うよ」
「え……?」
「手料理とかも好きそうだな。モミジちゃん、料理できる?」
「マツくん、なにを」
「だってさ……別々の大学になるし、雄飛頼めるの、モミジちゃんだけだし」
そ、うか。そうだね。マツくんと楓はこっちに残るんだもんね。
私、四年も向こうで秋野と一緒に居られるかな……秋野はカッコイイし優しいから、すぐに彼女とかできるかもしれないな。
「わ、私は……」
「帰るよ、テル」
職員室に呼ばれていた楓が戻ってきた。
「う、うん」
自分の机に置いてある鞄を取って、ドアの前で待つ楓のところへ。
私、楓みたいに美人じゃないし……秋野は楓みたいな背の高い美人と並んだ方が……。
「どうしたの、テル」
「いや、不公平だと思って」
「何が?」
「楓は美人すぎる」
マツくんが後ろで笑った。
「確かに、楓は美人の部類に入るが、性格に難アリ――」
「アンタの破綻っぷりよりマシでしょ!」
楓の鞄がマツくんの顔面に飛んでって、眼鏡も飛んでった。
「まぁ、否定はしないけど、そんなもんだよ。外見だけじゃ認め合えないものがある。決めるのは、ココだ」
と、自分の左胸を叩いた。
普段見ることがない冷たい目をしているマツくんに背筋が凍る、けど、マツくんが言ったことには納得がいく。
楓に飛ばされた眼鏡を拾ってかけると、いつものように人懐っこい笑顔に戻る。
「はいっ、では帰りましょうかね」
適当にまとめられ、楓たちと一緒に帰宅した。
決めるのはココ……だから胸がドキドキするのかな。
秋野のさりげない仕草、あの日のキスも、すごくドキドキした。
秋野は……どうだったのかな。少しでもドキドキしたかな?
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2013.07.23 UP