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  飛翔――6




 俺は……普通の夫婦の間に生まれた、ごく普通の子供ではなかった。
 母親が不倫したときにできて生まれた、父親とは血の繋がりのない子供だった。

 三つと五つ上の姉がいるけど、これといって遊んだ記憶はない。
 父親だと思っていた人は、どんなにスポーツや勉強を頑張っても俺をまともに見てくれたことがない。それどころか、視線が合うたびに何ともいえない威圧感を感じた。
 見下しているというか、存在そのものを否定されているというか……俺が居ることを認められていない感じ。
 その理由を知ったのは、小学六年生の時。
 ひどく酔っていた父の心ない一言で、全てが崩れはじめた。
「オレの子供じゃないくせに」
 母も俺から視線をそらした。
 その日の深夜、まだ起きていた母に声を掛けたが、酒を飲んでいた母にきつく睨まれ、言われた。

「あんたなんか、できなきゃ……生まれなきゃよかったのに!!」

 俺の存在を否定する言葉。
 それも、産んだ人――母が口にした言葉だ。
 テーブルに伏せた母は更に続けた。
 俺が父親だと思ってる人が、父ではないということ。他にいるということ。
 それは、母が父以外の人と関係をもっていたということ。
 その頃には分からなかったけど、気付いた時はさすがに絶望した。

 そうなんだ、だから、俺を見てくれないんだ。
 どんなに頑張っても、父さんは認めてくれなかったんだ。
 家族なのにみんなが冷たいのはそういうことなんだ。

 納得もできることもあった。

 俺が、父親である男に似てしまったから、唯一味方だった母さえも、俺を見てくれなくなった。
 蓄積された何かが、崩れてしまったあの日から、何もかも、壊れていった。

 家族の誰とも似ていない鋭い目。隠すように前髪を伸ばしはじめたのも真実を知ってから。

 中学に上がると、家からも追い出されたようなものだった。
 庭に建てられたプレハブハウスが俺の部屋。庭に面した家の窓、カーテンが開くことはなくなった。



 どんなに頑張って勉強していい成績をとっても、スポーツを頑張っても、もう誰も俺を認めてはくれない。


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2013.07.23 UP