TOP > 紅葉−コウヨウ− > 飛翔――3


  飛翔――3




 友と恋。天秤にかけてみた。
 バランスよく左右に振れてたから、片方を皿から落としてみた。


 高校二年になっても、松山と同じクラスだった。
 あの一件以降、本人は改心したと言っていたが、まだ不謹慎な生活を送っていることを俺は気付いていた。アレもそう簡単に治るものではないようだ。
 それから、同じ中学だった那弥楓とも一緒のクラスになった。
 那弥はおせっかいて口うるさいが責任感が強く、男子の間では人気の美人だった。俺も、そんな那弥に対して恋愛感情を抱いていたが、ひたすら隠していた。


 朝、いつもの光景で今日も始まる。一年の頃からだが、相変わらず課題をやってこない松山は、朝一番に俺の席にやって来て、課題を見せてくれ! と言う。
 授業もあまり聞いていないようで、「奇っ怪な記号ばかりで意味不明だよ」と泣きながら写していることが多い。

 そして今日も、朝はこんな感じで始まる。
「ああああ、何て書いてあんだよこれは」
 俺の席で半泣きになってノートを写す松山。一字一字、じっくり見ないと写せないから、ものすごく時間が掛かってて、さすがの松山も焦りはじめていた。
「まっつん、また課題忘れたの?」
 この頃は松山を「まっつん」と呼んでいた那弥。彼女も毎度、覗き込んできては呆れたように言っていた。
「まっつん、何て読むの、名前」
 那弥の質問に松山は手を止め、
「ドリームフライヤー、ムショウです」
 かっこつけてるくせにふざけて答えたので俺が正す。
「イブキだろが」
「あれ、知ってたの雄飛」
 俺を誰だと思ってるんだ松山。一年の時、わざわざ俺の前で自己紹介してくれたんだからちゃんと覚えてる。


 こんな感じの、俺、松山、那弥の距離感が好きだった。俺一人だったら那弥と話すことなんてないから、松山がいて、那弥がいる、一緒にいるときの、近すぎも遠すぎもしない心の距離。恋としては……ひっそり想う俺には少し近すぎる気はしてたけど。


「雄飛ってカエデちゃんと同じ中学だったんだよね」
「ん、ああ。それが?」
「すごく気になって。美人だし、中学の時からあんな感じ?」
 嫌な予感がした。
「たぶんオレ、カエデちゃん好きだ」
 鳥肌が立った。松山が那弥に汚らわしい行為をする。吐き気がした。
「ダメだ」
「何でさ」
「お前の性癖で那弥が傷つく」
「……あれは、恋愛感情がないし、母への恨みだよ。できるわけないじゃん、好きな子にあんなこと」
 淡い想いを抱く親友の横顔。松山は変われるのかもしれない。

 でも、俺は、どうするべきなのだろう。
 松山の幸せを願うか、それとも、俺も想いを伝えるか。
 俺が想いを伝えたら、いろいろ壊れてしまう。

 ――ダメだ。

「ま、頑張れよ松山」

 想いを閉じ込めた。

 那弥は諦められる。
 松山は失いたくない。



 それから、松山は那弥に告白。二人はつきあうようになり、松山の癖も落ち着いたようだった。

 いつもの朝の光景は……少し変わってしまった。
 俺のところに泣きついてきていた松山は、那弥に宿題を写させてもらうようになり、楽しく話す二人の姿は羨ましくもあり……しばらく胸が痛んだ。

 だけど、これで……よかったはずだ。

 NEXT→     ■文月――文芸部と先輩OB      飛翔――4

 紅葉−コウヨウ− TOP




2013.07.22 UP