FILE:2−2 第二次小ネタ大戦〜夢か現実か……


 俺はポストに入っていたピザ屋の広告を見ていた。
 お腹が空いているせいか、どれもこれもがおいしそうに見え、味を想像しただけで口の中いっぱいにヨダレが出てくる。
 最近はサイドメニューも充実していて、グラタンからデザートまで取り揃えていて、店によっては酒まで置いている。
 ――しかし、残念ながら財布の中身が頼りない。毎月、月末に生活費が振り込まれるのだが、今月はまだ一週間も残っている。贅沢はできない。
 入金を確認しだい、一人でRサイズのピザを食ってやる!
 そんな野望を胸に、今日は腹を空かせて寝ようじゃないか。
 夜は寝るだけなんだから、腹イッパイにする必要はない。
 そうだ……明日の朝、少しでもいいものを食べようじゃないか。
 だから、今は、我慢すべし……。

 ――グー。

 ……にしても、ハラヘッタ……。




  O SOLE MIO!


 指先までビシっと伸ばせ!
 ダラダラした踊りはかっこ悪いだけだ。ひとつひとつの動きにメリハリを!
 キメポーズも大事だ!

 高校の制服を着ている俺が、ゲーセンのパラパラマシンの前でアツく指導している。
 最近、流行のパラパラをゲーセンに通い詰めて誰よりも早く習得。今ではほとんどの曲を踊れるし、ゲーセンに行けば「教えてくれ」と男どもがわらわらと俺を取り囲むほど。
 学校が終わってから八時ごろまで、パラパラマシンの前で指導したり、ゲームを楽しんでスコアを競ったり……ちなみに俺のスコアは全国でも五本の指に入る程だ。
 人間、誰にでも特技はある。俺は――コレだったということだ。

「うおー、もうだめだ。腕が筋肉痛で上がらん!!」
 一人の男がそんな弱音を吐いて椅子に座り、腕の揉みマッサージを始めた。
 腕はいつも胸より上で動いているだけに、こんなことはしょっちゅうだ。俺も「velf○rre2000」を習得するまでにどれだけ筋肉痛を我慢して踊り続けたことか……。
「こんなダルい曲でそんな弱音を吐いていたら、いつまでもカスい男のままだぞ! 自分の体に鞭打って続けるのだ!」

 そんなセリフを吐きながら俺はアツくなる。……いや、実際にはどんなにできてもモテないものはモテない。俺がいい例だ。
 なぜ、そんなに冷たい目で俺を見るんだ……女性陣。
 「ミッ○ーマウスマーチ」とか「アイシ○ッテマス?」、「デ○ックス」、「PLAY WITH THE N○MBERS」なんて踊った日にはドン引きされ、「SEXY SEXY S○XY」に至っては、笑いが漏れる。
 ……そりゃそうだ。俺も恥ずかしいわ。

「野田さん、今日は『O SOLE MIO』踊ってください」
「よしきたー!」
 この曲はかわいく腰を振って踊るのがコツだぞ。女の子が踊ってる方が栄えると思うのだが、リクエストされちゃ踊らない訳にはいかない!
 百円玉投入。曲のセレクト画面でその曲を選ぶと――ミュージックスタート!

 俺は無我夢中で踊った。踊りまくった。
 ものの九十秒弱で終わり、後ろにいるギャラリーの反応を見るために振り返ったのだが――誰もいない。
 それどころか、店の中自体に人の気配を感じない。
 ゲーム機がうるさく音を発しているだけ。
 どうなってんだ、これ……。

 不安になって辺りを見回すけど、視界に入るのは機械だけ。

 ――思いっきりドン引きされた!?

 俺のショックは今までにないものだった。
 店から出たくなるほどのものなのか! そんなにヒドいのか!!

「おー、それみろ」

 真後ろからそんな声がしたので振り返ると、不快な笑顔を浮かべた赤毛の小多朗が、なぜか俺と同じ高校の制服を着て立っていた。


 ――オーソレミーオ!




「ぬあぁぁぁぁぁああああ!!!」
 目を見開く俺の目の前に広がっているのは、真っ暗な空間。
 どうやら、まだ真夜中のようだ。
 大きく溜め息を漏らすとベッドへ横になり、布団をたぐり寄せて目を閉じた。




  MAMMA MIA!


「静かな〜この夜に〜貴方を〜待ってるの〜」
 !! 待ってるのか! よーし、今日も頑張ろう!

「きゃぁ! あれって社長じゃない?」
「社長だわ! 写真撮らせてもらわなきゃ!」
「すみませ〜ん」
 なぜか、カメラを手に持っている女の二人組みが目の前に立っている。
「写真、撮らせてください!」
 ……俺の?
「親不孝モノ、って言ってみてください」
 親不幸?
「元ソルジャー……クラ○ド、とかー」
 と渋めに始まり、甲高い声で終わる。
「キャーキャー」


 そう、ここは市内の某所。現在、同人誌の即売会でコスプレしている人間が会場を徘徊しているという状態だ。
 そして俺も――マイちゃんに着せ替え人形にされた。
 マイちゃんがオタクどもに取り囲まれているのを、少し離れたこの場所から見張っていたのだ。
 しかし、女の二人組みに俺まで絡まれた、ということだ。
 今日の俺は、ファイナル○ァンタジー7の若社長らしい。一応、知ってはいるが……なぜ俺が。
 同じくコスプレをしているマイちゃんとはジャンルが異なっている。
 俺はゲームキャラで、マイちゃんはアニメキャラ。

「レ○さんはいないんですか? ルー○とかイ○ーナとか、ツォ○さんとか」

「レ○は俺だぞっと……」

 聞き覚えのある、無愛想な声……まさか!!
 振り返ると、いつもの赤毛が背後に立っていた。今日は前髪がセットされてデコ全開になっていて、水中メガネ(?)も乗せてある。その上スーツ。小多朗らしくちょっと着崩している。
「お、お、お前、どこから湧いて出てきた!!」
「普通に入り口から入ったが、不満かね? 俺は湧いて出てこないといけないのか……っと」
 そんなことはないが……。急に現れると湧いて出てきたと思うだろう。

「我輩もいるぞ」
 頭をわざわざ丸刈りにして、サングラスにスーツ……全く似合わないがこの人、きっと強固のお兄様に違いない。
「がははははは」
 下品な高笑いがそれを物語っている。
「もう、お兄ちゃんは……」
 その側にいるのは、小さくて視界に入らなかった強固。髪を変な分け方をしてスーツを着ている。声を出さなかったらずっと気付かなかったであろう。

「キャー、いゃ〜んw ター○スの面々が〜」
「でも、ツォ○さんがいないわ」
「おれじゃダメッスか?」
 その声が聞こえた方に向くと、腰を落とした状態でありながらボールを脇に抱え、剣を持っているアカツキ。
 いつも通り髪の毛は真ん中で割ってあるが、毛先が外に跳ねている。
 ついでに、普段とあまり変わらず半パン。左右の長さが違うのは仕様だということもよく承知しているが……。
「チャンチャランチャンチャンチャンチャ〜ン♪ ユウ○!」
 ……同じシリーズであっても、『7』と『10』ではえらい違いだぞ。場違いだ。
 しかも、体が小さいので頼りない。似ているのは語尾だけだ。

「論外!」

 カメラ女にも軽くあしらわれている。

「ツォ○ならここに控えております、お嬢様方……」
 ここまで捜査一家が揃ったのだ。出てこないはずがない。
 最後の一人は、我が弟、充だった。しかも最後に出てきて女を口説くとは、いつも通りでワンパターン。
「キャーキャー、皆さん、並んでください!」
 そして、無視され滑る。
「いいですかー? 撮りますよー」

 イヤな記念写真が……収められてしまった。


 で、マイちゃんは、まだ人だかりの中で踊り、歌っている。
 その姿を遠くから見守る俺の横に来た小多朗が、とんでもない一言で俺を凍りつかせた。

「みのんちゃんの彼女は――」

「――ラク○さまー」

「ヤローどもに取り囲まれて」

「――ありがとーございますぅ〜」

「まんま、ミーアだな」


 ――マンマミーア!!




「ぐおぁぁぁぁああああ!!!」
 目を開けた瞬間、見慣れた自室の壁が視界に入った。
 なぜか乱れている呼吸。懸命に肩で息をしている。
 ベッドの上で、足元は布団が掛かっているので、勢いよく起き上がったということになりそうだ。

「おおおおおおお神○〜おお神○カンパーニー♪」

 隣の部屋から聞こえるそんな歌い声。
 決して俺たちの通う学校の校歌でもなければ、経営者とも全く関係ない。似ているが、他人の空似だ。第一、神○カンパニーは実在しない。
 某ガン○ムオタクが「ミッパイがどーだ、こーだ」と熱く語るもんだから、気になって、気になって、ついつい買ってしまったあの本と、充が最近になって思い出したように始めたゲーム――まだやってたのか。
 そのせいで変な夢を見たじゃないか! 今、何時だと思っている。
 くそぅ、外はもう明るくなり始めてるじゃないか!
 だけど、もう一回寝てやる!!
 呼吸が落ち着いた頃、また布団に潜り込み、夢の世界へ――ぐーすかぴー。




 午前八時。二度寝ならぬ三度寝をかました俺はようやく起きて、夢のことを思い出していた。
 「オーソレミーオ」に「マンマミーア」。
 昨日見ていたピザ屋の広告にあった、ピザの名前じゃないか……。
 夢にまで出るとは――そんなに食いたかったのか、俺よ。

 ――金が入ったら、絶対に食べてやる!
 そう、心に強く誓ってみた。

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