FILE:1−20 俺とカラオケとヤツら


 休日――マイちゃんとデート。
 彼女の要望により、カラオケへと行くことになった。
 カラオケ=個室。密室で密着して密事とかしちゃったりなんかしちゃったりして……こほん。何でもありません。
 よし、最近流行のラブソングもしっかり聞いて予習したし、カッコイイとこ見せて「キャー、だーりんカッコイイですぅ」と言わせたあげく、云々……いやいや、照れるなぁ。


 待ち合わせのカラオケ店前――いつも三つ編みにしているゆるやかなウェーブのかかった髪を風に揺らしているが、服装はいつも通り奇抜なままだった。
 要はマイちゃんを待たせているという状況である。
「ごめん、待たせて……」
 そう言いながら彼女のもとに駆ける俺。振り返る彼女は俺の姿を見つけてぱっと笑顔が咲いた。
「大丈夫です。カッコイイお兄さん、見たですから」
「…………」
 ここ、嫉妬するところだよね?
 ちょっとカチンときたけど、待っててくれたんだから、我慢だ。どうせ資料目的程度だろうし……という予想。
 何とか笑顔を向けてみたが、たぶん苦笑いになってんだろうな。
 受付を済ませ、フリータイムで部屋に入ると同時に、マイちゃんは検索機能が搭載された便利なリモコンを抱え、タッチペンで画面を押し始めた。
 歌う気満々だったご様子。
 俺はメニューを手に取って、まずは飲み物の欄に目を通した。
「マイちゃん、飲み物は――」
「うーろん」
 リモコンをじっと見て操作しながらの発言。ちょっとショック。
 俺もマイちゃんと同じウーロン茶を頼むことにして、合間につまめるお菓子の盛り合わせをフロント直通の電話で注文したが――マイちゃんはものすごい勢いで、歌う曲を探し、機械に転送し、イントロが流れ出すとマイクを握った。が、顔は相変わらず便利リモコンに向いたままで、空いている手はタッチペンを離さず画面をタッチしている。
 俺は全く相手にされてない。というか、マイちゃん一人で来てるのと同じような状態だ。
 便利リモコンは諦め、仕方なく本の方を開いて歌おうと思っている曲を探した。
 マイちゃんは歌が上手かった。だけど知らない曲ばかり連続で八曲も歌われると、こっちは全く楽しめなかった。
 あまりにも相手にされず、つまらないので、伴奏の途中で聞いてみた。
「これ、何の曲?」
 流れている音がうるさくて聞き返された。
「え? 何?」
 さっきよりすこし声のボリュームを上げて更に聞き返した。
「いや、だから、何の曲? これ」
「ゲームの主題歌です。――っていう、十八禁の」
 ……そんなん入っとるんかい!
 タイトルは聞き取れなかったけど、十八禁ゲームの主題歌であることが分かった。
 テレビ画面に歌詞が出ても、彼女はそちらを向くことなく歌う――というか、歌詞を暗記しているらしい。だから、リモコンをいじりながら歌い続け、俺がそれを触ることなく、本を広げなくてはならないという状況になっている。
 しかも、店員が飲み物や菓子を持ってきても、躊躇することなく歌い続けられるその根性に、さすがの俺も唖然とした。
 十八禁ゲーの主題歌なら、もうちょっと遠慮してくれ!


 結局、俺は二、三曲歌えただけで彼女の方が満足し、
「だーりん、そろそろ帰りますです」
 あの、俺、あんまり歌ってないし、歌っててもリモコンの液晶ばっかり見てて全然聞いてなかっただろ!
 とでも言いたかったのだが、マイちゃんの満足二〇〇パーセントの笑顔を見てしまうと、そんなこと、言えなくなった。
 それでも、あまりにも悔しいから……カラオケを出てマイちゃんの部屋へ行き、俺の上とか下で歌わせてやった。

 もう、マイちゃんとはカラオケに行きたくない。




 ――平日、午後の大学構内。
 あまりにもヒマなサークルにつき、することもなく部室にいても退屈になってきた。
「カラオケ、行くか」
 バンドでベースを担当しているらしい小多朗が、相変わらず携帯でゲームをしながらの発言。
 先日のデートのリベンジ……という訳でもないが、俺はすぐに賛成した。
 部員の中でも選りすぐりの暇人しかいない部室――いつも通りではあるが、俺と充と小多朗。充も小多朗の意見に賛成し、俺たち三人は、大学から一番近いカラオケ屋へと向かった。

 先日の悪夢再び――。
 便利リモコンを離さない小多朗は、歌いたい曲を連続で入れてきた。あげく歌詞は丸暗記。どんどん小多朗のリクエストが溜まっていく。
 一方、俺と充は――昔からあるボタンだけのリモコン(たまに誤送信)と、最新の本を奪い合っていた。
「あ! それ、オレが歌おうと思ってたのに!」
「うるさい、知るか!」
「兄弟喧嘩がうるせぇ〜♪」
 臨機応変に替え歌にする小多朗。さすが、バンドマンというべきか?
「ビールを注文しやがれ♪」
 命令まで入るのか! まぁ、これは無視だな。自分らの年齢も考慮して、注文したけりゃ自分でやれ♪
 前回、マイちゃんと行ったときに歌い損ねた曲を二曲連続で入れてからしばらくすると、小多朗のワンマンライブはようやく終了。イントロが流れ始めるとマイクを手に取った。が、気分よく歌っていても……誰も聞いちゃいねぇ。
 一人はフロント直通電話で何かを注文してるし――小多朗。便利リモコンは持ったまま、完全に占拠している。
 食いつくように歌リスト本をめくっている――充。リモコン片手に、とにかく必死だ。
 俺の一曲目が終了。次に流れた曲も自分が入れたものだったので、思わずガッツポーズ。
 しかし、小多朗は黙って部屋を出て行った。トイレか、携帯か……。リモコン!!
 と思った時には既に遅く――まるでカルタ取りのごとく、勢いよく充がそれを取り押さえた。
 俺は表情を歪めつつも、歌うことに集中することにした。
 ――この曲は、サビがいいんだよ!
 いよいよ一番のサビに……と思ったら、戻ってきた小多朗に驚いてしまい、声が出てなかった。
 うおぁああ! 見せ場がぁあああ!!
 二番こそは……。

 よし、二番のサビだ!
 と思ったら、
 ――コンコン、ガチャ。
「失礼しまーす。ビールとから揚げ、お持ちしました」
 女性店員が入ってきた。
 俺は――立ち上がって、片手を振り上げた状態で止まっていた。
 ノリにノリすぎて、ついついフリが、だな。それを他人に見られてしまったこと、店員が俺に向けた視線がものすごく冷ややかなものだったので、顔がものすごい勢いで熱くなり、頭の中が真っ白になった。
「失礼しました」
「おい、昼間からビールなんて飲んでんじゃねぇ!」
「うるせぇな。俺は飲んだ方が、声がよく出るんだよ。欲しけりゃ頼めばいいだろ」
「誰が頼むかっ!」
 充と小多朗の口論はどうでもよかった。
 俺は空気が抜けた風船のようにソファーへ座ると、俯いてボソボソと続きを歌った。
「はい、リモコンげっちゅ〜」
「うわぁ! まだ探してる最中なのに、返せよ」
「や〜だ〜。まだ歌うもんね〜」
「ふっざけんな。歌いすぎだ!」
「そんなの、俺の勝手だろ……うわ、なにこれ。エロゲーの主題歌とキャラソンばっか入れやがって! 全部消してやる!」
「消したら、全部、アカペラで歌ってやる! 稔、歌う気ないならマイク貸せ!
 イジワルなんて言わないで〜あたしは素直になれないだけ♪」

「その無理のある裏声がキモい。やめろ、音痴!」
「つんでれ〜♪」

「つーかさ、みのんちゃん……ばっかみたい」

 小多朗の言葉の刃がぐっさりと突き刺さった。


 ――もう、カラオケなんて二度と行きません。
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