FILE:1−21 あたためますか?


「温めますか?」
 コンビニで弁当を買うと、決まって聞かれることだ。
 これを二人きりの部室――いや、署内で聞いたらどう思う?
 それを言ったのがマイちゃんなら、俺も笑顔で「あたためてw」と言うところなのだが、相手がアレだぞ、おい。
 長身で赤毛で無表情で、自分が楽しければ他はどうでもいいというマッチ棒こと炎摩小多朗。
「温めますか?」
 俺が何も言わず考えているとまた同じ質問をしてきた。無表情で。
 答えなかったら答えるまで聞いてくるだろう。だったらさっさと、小多朗のお遊びに付き合って、開放される方がいい。
 それでなくても、とても温めてくれそうにない表情をしているのだから。
「はい」
 俺がそう答えると、小多朗の表情が悪魔の笑みに変貌した。
 ……!! まさか、俺をそのまま電子レンジでチンするんじゃないだろうな。生卵だって爆発するのに、それはさすがに死ぬ!
 言った後で後悔し、怯える俺に、小多朗がゆっくりと近づいてくる。
「じゃ、温めてやる」
 とてつもなく、イヤなよかーん。

 いきなり、抱きつかれた。
「ひっ、ひぃぃぃぃいいい!!!」
 俺は情けなく声の裏返った悲鳴を上げた。
 決して温かくはない。冷や汗が体中から噴出している。
「ふー」
 何を思ったのか、耳に息を吹きかけられた。瞬間、なんとも言えないゾクゾク感が背筋を走った。
「うぉあ、やめろ!」

 その後、足払いで倒され、小多朗は俺の上に乗ってきて体中を触ってきた。触られまくった。抵抗しても触られまくって、くすぐられて、俺は呼吸もまともにできず、ヒーヒーとしか言えない状態になってた。
 その時――来てはならない人物が、ついに禁断の署内へと踏み込んでしまったのだ。
「だーり……うわん、いやん、ばかんw」
 そこ、怒れよ。頼むから、自分の彼氏の貞操の危機だぞ!?
「めっさ、萌えたぁ〜っw どきゅ〜んw うはうはw」
 萌えんな! ウハウハすんな!
「帰ってネタ詰めしよ〜っと。ではでは、お邪魔しました」
 何しに来た! 迎えに来てくれたんじゃないのか? つーか、助けてくれー!!
 しかし、言葉にならず、ヒーヒーとしか言えない俺は、「助けて」の一言も言えなくて……。
 閉じる扉を見て……涙が出そうになったよ、マイちゃん。
 ネタばっかり漁ってないで、俺も見てよ……。

 それからすぐ、小多朗は俺から離れ、
「飽きた」
 と一言だけ。
 温めましょうか? というセリフに意味があったのかなかったのか……いや、ない。何もない。
 小多朗は何事もなかったように携帯を取り出し、ゲームを始めた。


 しばらくすると、また小多朗が何か言った。
「冷ましましょうか?」
 逆パターン?
 つーか、この状況や怒りを冷ましてくれるのか?
「……冷ませよ」
 今度は何が起こるのかと思えば……。
 携帯を閉じてポケットに入れ、いつもの冷めた表情で数秒俺を見て、ふっと顔を逸らしただけだった。
 そして、何も喋らなくなった。

 ただそれだけなのに、この部屋がものすごく寒くなった気がした。

 ……冷まされた!

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