FILE:1−13 ビ○コ!


 昔からある、お子様に人気のお菓子。ごく一部、真ん中のクリームを嫌う。
 最近は色々な味のクリームがあって……羨ましい限りだ。
 そんな俺もビス○と共に育ってきた子供の一人。
 ビ○コ……たまに食うとウマい。だけど虫歯があるとかなりいい感じで痛む。
 さすがだ、某お菓子社。子供の心をがっちりゲットだぜ。

 しかし、しょせん子供はオマケ付きが好き。
 菓子よりオマケの方がデカいのは納得がいかん!
 なぜ、ラムネ一個なんだ! なぜ、ガム一個なんだ! まれにチョコレートひとかけら。


「はぁ……いい仕事してると思いません?」
 署の机の上に食玩を並べて見つめる強固は、頬に手を当て、うっとりとした顔でそれを見つめ、溜め息なんぞを吐き出している。
 並んでいる食玩は、小さな、それこそ『リ○ちゃん人形』用ぐらいのもので、コンビニ弁当やペットボトルのお茶、さらには割り箸までこまかく再現してあるフィギュア。
 確かにものすごくいい仕事をしている。しかし、残念ながらそういうものは日本で作られているものではないのだよ、強固くん。
 夢を壊してごめんなチャイナ。日本語と英語部分を逆にして、あいむそーりー中国。
 ……某氏とのメールのやりとりに似たようなことがあったが某氏にしかわからないので、このまま行こう。
 ――そろそろ話を戻すか。
 机の上には他にも色々なミニサイズフィギュアがある。
 ドーナツ、パン、薬、電化製品、野菜、菓子……えとせとら。
 外箱やそれらが梱包されていたであろう透明の袋は見事に床に散らかされている。まだまだお子様だな、強固よ。
「っていうか、それ、今、全部開けたってことは、全部を今日買ってきたということか?」
「……はい……。もう、お店で見てたらものすごく欲しくなって……。それに色々な種類があるし、どれにも絞れないから並んでいた全種類を一つずつ……はぁ……」

「それ、一ついくらなの?」
「二六三円。税込み」

 ……二六三円? 下に落ちている箱の数で乗算すると……二六三〇円!?
 お父さんとお母さんと筋肉兄貴に無駄遣いをするな、と怒られても知らんからな。
「見てください、この菓子折り。中のお菓子、全部ちゃんと作ってあって、プチプチまでちゃんと……うふふ」
 プチプチなんて子供みたいな言い方をするな。それはエアキャップという立派な名前だったはずだぞ。通称・プチプチだけど……。
 うーん。確かに唸りたくなるほどスゴく細かい。食べ物系を見ていると何だか食べたくなってきて、ヨダレが……。
「このコーヒーメーカー、ちゃんと箱に入ってたんですよ」
 小さなコーヒーメーカーが入るぐらいの箱を指差しているので、じっくり見てみた。
 ……ホントだ。電器屋で普通に市販されているもののような外箱もおまけなのか。細かいな。

「すみませーん、落し物、探して欲しいんですけど〜」
「よし、キター!」

 机の上にある食玩を一気に腕で払い落とすと、机の中からボールペンと依頼書(パソコンで作ったものを印刷しただけ)を取り出した。まぁ、例えるならラピュ○で宴会中の空賊(?)が机イッパイに食い物を並べていたけど、掛かってきた電話(違)のせいで女船長に払いのけられたあのシーンと同じ感じ。
「きゃー!!」
「落し物は何ですか? 見つけにくいものですか? カバンの中と机の中を探されましたか?」

 某名曲に似ているかもしれないが気のせいにしてくれ。
「ああ、まぁ、一通りは。だからまだまだ探す気なんですよ」
「それより、俺と踊ってみるか?」
「夢の中へ行ってみたくありません。ごめんなさい」
「……そうか……ふふん」

 なかなかいいやりとりをさせてもらったのでいいだろう。

 なくした物、学部と名前、連絡先を依頼書に書いてもらい、依頼者の女子学生は署を後にした。

 よーし、探してやる。ネコでも人でも物でも……。
 胸の高さで拳を握り、自分を奮い立たせた! が――、
「うふふw はぁw」
 気合十分な俺の勢いをくじく声が床から聞こえ、手を下ろし、腰から上はやる気なくだらり。思いっきり脱力した。
 両肘を突いて手は顔を支えているような感じで寝そべっていて、落とされた食玩をまた並べて見ている強固。足は交互に上にあがっている。残念ながらスカートの長さの関係で見えない。何が、とは聞くな。
「そこに並べて、踏まれても知らないからな」
 特に小多朗あたりが平気で踏みそうだし。
 ……あれ? そういえば、今日は来ないのかな。
 まぁいいか。たまには静かな環境で、依頼された仕事をきっちりとこなそうではないか。名誉挽回のためにも。
 さきほど記載してもらった依頼書に目を通して思わず吹き出しそうになった。

 ――連絡先
 プライバシー保護のため、記載しません。

 なんて書いてある。
 おいおい、どうしろって言うんだ。
 まぁ、学部と名前は書いてあ……あ!?
 あ、のまま口をあんぐり開けて止まった俺は、何とか目だけを動かし、もう一度その部分を見直した。
 学部は当たり前に書いてある。
 名前が『螺旋子』?
 ふりがなも打ってあって、『ねじこ』と書いてある。
 更に下には『HNだけど、これで通じるから』と書いてあり、その下……枠からはみ出た部分に、何かのウェブアドレスが書いてあった。残念ながらメアドではない。
 これは、ウチの大学専用の電子掲示板のアドレスだと思うのだが……。

 ん? 螺旋子。ねじこ。ねじ……ねじ……ナット、ビス……!!
 ビスコ!!

 ああ、久しぶりに食べたいから、適当に散策したあと、コンビニに直行しよう。
拍手だけでも送れます。一言あればどうぞ(50字以内)
  

   ←前へ   CL-S 目次   次へ→