FILE:1−8 青春とは……
「今日は天気もいいことだし、外でバレーでもしようぜ」
やる気なんて微塵も含まれていない、相変わらずの発音。
今日は脇に真っ白なバレーボールを抱えて登場の小多朗くん。なぜか本日の髪型はポニーテール。
いつからこのサークルを仕切るようになった。……最初から小多朗ペースか。いいご身分だな。
「苦しくったって、悲しくったって、コートの中では、平気だろ?」
平気だろって……。
不気味な笑みを浮かべる小多朗は、同時にボールを打つ体勢に。
……まさか、いくらなんでもこんな所でやらないよな?
――常識人ならば、の話。
小多朗がそんな常識を持ち合わせているはずもなく……。
「あたっくー、あたっくー、なーんばーわーん♪」
ボールを軽く放ると、思いっきり叩いた!
狭い部室でそんなことをして、起こることと言えば――壁に当たって跳ね返るボールをドッジボールの内野のごとく、逃げる、かわす。
「キャー!」
強固が頭を抱えて座り、
「どぅあ!」
パーカーが弓のように体を反らす。
「どりゃ!」
充が掃除道具入れから出したホウキで思いっきり打ち返し、更に勢いづいたボールは俺めがけて飛んでくる。
……えー?
――がっしゃーん。
しこたま顔面にめりこんだボールは、俺の後ろの窓ガラスを破って飛んでいった……はずだ。
俺はガラスが割れた後、後頭部から床に倒れた。
「みのんちゃん殺人未遂で逮捕」
「な、なんで!?」
「逮捕状は出ている。ネタぁ上がってんだよ」
「はぁ? 小多朗が先に始めたんだろが。オマエも同罪だ!」
「みのんちゃんさん、傷は浅いですよー」
「ガラス、誰が弁償するんスか?」
「部費から出そうぜ。どうせ使い道ないし」
「ちなみに、先程のボールは部費で買いました」
「な、なんだと?」
「うっそー。俺が自腹で買ってきた」
「とりあえず、医務室に行きますか?」
「大袈裟に救急車呼んでみたりして」
「そりゃやりすぎだべ」
待て、テメーら。俺が突っ込む暇もナシか。
「とりあえず、濡れたタオルで顔を冷やしましょう」
どこから持ってきたのか、顔に濡れタオルを置かれた。
「……これが例のホトケさんか……。外傷は顔面に何かが当たった痕と後頭部の強打。部屋に凶器らしきものはない」
おい、殺すなよ。
「よし、検死に回せ」
「キャー、刑事ドラマみたーい」
「じゃ、現場写真も残しますか?」
「先にチョークでみのんちゃん……いや、被害者の位置を囲んでくれ」
「らじゃ!」
俺は顔に乗せられているタオルを右手でガシっと掴むとゆっくりと体を起こした。
ここでも全員が、死体が生き返っただの、生ける屍だの、ゾンビだの言いやがる。
「でんじゃらす・もんすたぁ!! ぱーんぱーん」
後ろに下がりながら手指を鉄砲に見立て、こちらに向けている充。
それにゆっくりと近づく。
いつの間にか机の影に隠れているのは残りの三名。
小多朗が弓でも引くような体勢で立ち上がり、俺に狙いを定めた。
「ぐっばい、もんすたー」
ペチっと額に何かが当たった。
何がなにやら理解できず、辺りを見回し、最後に足元を見ると輪ゴムが落ちていた。
……。
「……さっさとガラス集めて掃除しやがれ」
俺がそう言うと、小多朗はものすごくつまらなそうな表情をした。
「はいはい、掃除始めるよー」
手を叩いて他の三人も仕方なくお遊びをやめて掃除にとりかかった。
俺は濡れタオルで痛む顔を押さえながら、椅子にでも座って監督でもしてやろうと思い、掃除の邪魔にならない入り口近くへと避難。
その時、見てしまったのだ。
微かに部室のドアが開いているのを!
そこから誰かが覗いていたことも!!
――まっ……マイちゃん!!!
思わず合った彼女の目は、笑っていた。