8・鍋 林田を探せ!


 直のお兄さんが、ホテルまで卒業アルバムを持ってきてくれた。
 しかし、どえらく厚い卒業アルバムだね。広辞苑とまでは言わないけどさ……。
 早速、林田探しを開始。

 直は、『商業科のヤツ』だと言ってたので、商業科の名簿を探したが、林田という苗字のヤツはいなかった。勘違いだったかもしれない、と他の科も探すことになった。
 が、気が遠くなりそうな地道な作業……。
 普通科八クラス、商業科五クラス、工業科、衛生看護科、機械科……何でもミックス、欲張りマンモス高校?
 名簿欄にぎっしりと書いてある文字を目がおかしくなりそうなほど見て、『林田』という苗字のヤツを発見したら写真で確認するという作業を繰り返していたが……。

「林田って苗字であの顔、いないじゃん。勘違いじゃないの?」
「???」

 直も首を傾げ、不思議そうな顔をした。
「確か、商業科のヤツだったのに……全部探していないってどういうこと?」
「また、卒業前に転校したってオチじゃないよね?」
「それはないでしょ? 高三は、転入できないって聞いたことあるし」
「じゃ、辞めたとか……」
「三年の文化祭以降に学校辞めていたとしても、今は大学で同じ学年、同じ学部って……大体、大検って何月に試験があるのさ。それで間に合うの?」

 言われて見れば、ちょっと無理があるかな? でも商業科の林田にあの顔は居ないじゃん。
「大体、小学校のときに転校した理由が、親の離婚とかだったら苗字変わるじゃん」
「あいつ、母子家庭だったけど?」
「じゃ、再婚説」
「再婚? ……苗字変わるね……。顔で探せってこと? ウォーリーを探せじゃないんだから……だいたい、アレの素顔って……さっき見たけど、どこにでも居そうな感じだし……」

「素顔を見たというのなら話は早い! 直が探してね」
「僕が? 一緒に探してくれないの?」
「素顔見たことないし。せめて、下の名前が分かればねぇ……」
「……名前……?」

 直が思い出そうと記憶を辿っているとき、ふと思い出した。
「入部届けに、本名書いてないかな?」
「それはないね。僕も名前は『鎌井直』で出したけど何も言われてないし、名簿も未だに書き換えられてないよ」
「冗談でなく、『林田リンダ』で出してる可能性、大……」
「そういうこと。古賀ちゃんもペンネームで登録だよ」
「ペンネームね……」

 普通、ありえねぇよ。
 サークルの存在がボランティアで、その辺も追求しないのもボランティア……か?
「……たか……ゆき……って名前だったような気がする……」
「たかゆき? じゃ、名前で探そう! 名簿の所で……」


 再び、名簿欄と格闘することになった……。

「同じ学校なら普通気付くんじゃない? 小学校から同じだった奴とかが……」
「各科で校舎が違うし、市外の学校だったから小学校から同じだった人は数人だったから仕方ないでしょ」
「……そうですか」

 商業科で『たかゆき』という名前のヤツを探したいが、どの漢字が『たかゆき』と読むのか理解できなくなってきたので、結局、商業科の顔写真から探すことになった。
「このクラスには居ないね……」

 最後の五クラス目になって、直が一つの写真を指差した。
 写真の下に書かれていた名前は、
「藤宮孝幸……」
 ついに該当者発見!
 確かに、この顔にトッピングしたらカマリンダになりそうだ。
「ああ、この顔。なんかムカツク……」
 直からジェラシーオーラが出てます……。
「そうだそうだ。小学校が同じだった、林田孝幸だ。間違いないね……」
 その復讐に燃えたような顔は何?
「ブチのめす……」
 ああ、その顔で、そんなこと言わないで! 清楚なイメージが崩れる。もうかなり崩れてるけど。
「ああ、そうだ。話変わるけど、同棲しない?」
 ころりと表情を変え、にこやかな笑顔で人差し指を俺、直と交互に指す。
 今、何て言った? ドウセイ?
 え? ええ? ええええええ――――?!!!!
「ななななななにを突然……」
 あ、あ、う、そんなにさらっと言われるとパニックに……なってるー!!!(狂)

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