43・鍋 聖神羅学園大学祭


 やってきました、学園祭。
 しかし、副会長という役職が、自由時間を少なくしてしまった。仕方ない事だけど、ちょっと残念。
 バザー開始前に最終確認ミーティングと言えば、毎年恒例の……。
「いくらサークルの出し物と言っても」
「万引きは犯罪です」

 じゃん。
「我ら、世の為、人の為」
 じゃじゃん。
「捧げて見せます、売上金!」
 じゃじゃじゃん。
「「チャリティーバザー、ばんざーい! ボランティアサークル、ばんさーい! 万引き、はんざーい!」」
 何言ってんの、アンタら。
 ボランティアサークル、前職会長&副会長、参上。毎度の事ながら、筋肉率アップ。
 卒業してから、登場回数が減ったくせに、登場の仕方がハデになってきたというか……。
「じゃんじゃん、売るがいいわ、オホホホホ!」
 貴女も相変わらず、机の上に仁王立ちですね、柏原さん。
「さぁ、行きなさい、剛田、細木! 私のために、イケメン兄さんを捕まえてくるのよ!」
「「ラジャ!」」

 まともな挨拶なしに、部室から駆け出す二人。アンタら、本当にいい犬だこと。
「当番の時間、忘れないでねー、解散」
 直、それでいいのか!!!

 片瀬があまり顔を出さなくなってきたけど、バザーの当番、ちゃんと覚えているだろうか。
 心配の種が減ったはずなのに、気にしている自分。直が言う、人が良すぎる部分なのかもしれない。
 今回は、まともな当番には割り当てられていないが、バザーとゴミ収集の見回り、忙しそうなら手伝いをすることになっている。出し物を見て回っているだけに見えるかもしれないが、それも一応仕事のうち。なにかと、ゴミばかり気にしている……つもり。
「たこ焼きくださぁーい」

 うむ、今回もウマい。
 ゴミ箱の前で食べる事になっても、それは定め。仕方ないさ。
「直ちゃん、あーん」
「……ちゃん付けは久しぶりだね、あーん」

 ハフハフ言いながら、たこ焼きを食べる直もかわいい。
「捜査一家サークルの紙袋、見た?」
「全然」

 見かけたら適当に移動だったけど、肝心のモノがどこにあるのやら。まぁ、移動係りなだけで、探すのは捜査一家だし……どうでもいいか。
「誰かがゴミと間違えてゴミ箱に放りこんで、更には回収した後だったらどうする?」
「ゴミ漁りでもするんじゃないの? ちゃんと片付けまでしてくれなきゃ困るけど」

 直は全く興味なさそうだ。
 そして私は、たこ焼きを口に運ぶだけ。

 しばらくゴミ箱の前で休憩していると、アナウンスが聞こえた。
『仮装大会に参加する方は、演劇サークル部室までお越し下さい――』
 いや、去年はどうでも良かったよな……仮装大会。
 直の話によると、捜査一家サークルが仮装大会に出るのが条件で、今回の企画に協力したとか。まぁ、藤宮の独断らしいけど。
 ついでだから、捜査一家サークルとやらにどんな人材が居るのか、見学に行くとするか。



 仮装会場では、藤宮兄妹が前回同様、司会を務めている。
「それでは皆様、お待たせいたしました! 選手入場です!」
 何が選手なんだ。
 プラカードを持って捜査一家サークルの面々がぞろぞろと入場。
 今回は、愉快な森の仲間達……という仮装よりも着ぐるみショーだ。顔だけ衣装(?)から露出しているタイプで、子供受けしないであろう。
 プラカードを見ると、『難事件・珍事件 迅速解決! 捜査一家サークル』と書かれていた。ちゃっかり宣伝しているようだ。
 男ばかりかと思っていたが、一人だけハムスターらしき着ぐるみをまとった、背の小さい女の子が紛れていた。総勢五名。
 もう一人、別のプラカードを持っている人も居る。なになに……『探偵サークル 部員募集! するどい推理をする女性限定』と書いてある。何で女限定なんだ?
 探偵サークルは自称で、捜査一家でかちょー野田の弟だと言っていたな。アレがそうなんだろうな……と思っていると、手に持っていたプラカードを急に放り投げ、捜査一家の女の子に向かって突進! 公衆の面前であることを気にもせず、手を取る。
「恭子ちゃん、今日は一段とかわいいね。そろそろオレと……」
 捜査一家の赤毛の男が持っていたプラカードを、野田兄が奪い取ると、弟の頭めがけて叩きつけた。
「やめんか、ボケ!」
 という声とほぼ同時に、ドドドドとイヤな効果音が聞こえた。
「きょぉうこぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
 あれ? 細木さんだ。
 人ごみを掻き分け……というより押し退け、強引にステージに上がると、野田弟が口説こうとしていた女の子の前に割り込んだ。
 その表情と言ったら、私の入部以来の般若の面で……。
「きーさーまー、我輩の妹に気安く触るなー!!」

「うへ?!! 細木さんの妹?」
 全然似てない。細木さんとは正反対だし。
「直、知ってた?」
 直も何とも言えない表情でステージを見ていた。
「――知らない。っていうか、似てない」
 仮装よりも面白いものを見たような気分だ。

「はーい、役者が揃ったところで、今回は劇をしてくれるそうです」
 今年もまた、藤宮目的の女性から黄色い声が飛んでいる。それに笑顔で手を振る藤宮。さりげなく華音ちゃんの表情が引きつっている。どこからか、カノンコールも聞こえてくるが、今の華音ちゃんの耳には入っていないようだ。
 兄妹揃って人気だこと。

「今年はつまらないですぅ」
 いつの間にか隣に現れた古賀ちゃん。手にはいつも通り、デジカメが握られている。つまらないとか言いながらシャッターを切っている。……藤宮兄妹でも撮っているのか?
「古賀ちゃんも出ればいいのに」
「今年は着ぐるみだとリンダさんが言ったので、お断りしました」

 コスプレはしても、着ぐるみは着ないということか。何でもやってくれそうで、そうでもないんだな。
「でも……稔くん、かわいいですぅ」
 ミノルって、誰?
 直にこっそり、ミノルとは誰の事か聞いてみると、捜査一家でかちょー、野田兄であることを教えてくれた。
「だーりーんw かわいいですぅ〜」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、野田兄に向かって大きく手を振った。
 えええ?!! 古賀ちゃん、野田兄がダーリンなの?
 ステージ上でソレに気付いた野田兄らしいクマも、マイちゃーん、とか言いながら手を振っている。
「……本名で付き合ってるの?」
「あい、あたりまえです」

 企画やら、仮装よりも、細木さんに全然似ていない妹が居る事よりも、その事の方が面白かったというか、ビックリだったわ。
 驚愕の事実! 乙女系腐女、古賀ちゃんに彼氏! しかも捜査一家のでかちょーさん!!
 野田兄は、古賀ちゃんの趣味とか知っているんだろうか……。


 森で奇怪な事件が発生し、それを解決するという、愉快な捜査一家の宣伝劇も終わり、蜘蛛の子を散らしたかのように、辺りから観客はいなくなっていた。
 それから、巡回を再開。ゴミ箱経由、バザー会場行き。
 バザー会場では、当番であるはずの藤宮がいつまで経っても来ないので、会計の手伝いをした。商品はほとんどなくなってはいたが、相変わらずジャンク品の山は、山のままだった。
 次の当番が来ると、私と直は、ゴミの見回りに戻った。ゴミ当番はきっちり仕事をしているようで、補佐するところもなく、ブラブラと歩き回っているだけ……いやいや、これも仕事だ。
 見回りばかりしているが、一度たりとも捜査一家のブツを見かけることがない。やはり捨てたんじゃないかな? と思っていた。
 ふと顔を上げると、人ごみの向こうに……見たくないセンサーが作動し、見えない位置へ自然に体が動く。
「うげ、あんな所に片瀬が……!」
 それでも、相手の位置を確認する為、人ごみの間から見つからないようにこっそりと様子を伺った。
 なにやら、オバサマと楽しげに話している。もしかしたら、片瀬の母親かな?
 そうなると、直が見つかってしまった場合、連れて行かれるかもしれないし。とりあえず、直を引っ張って逃げようとした。
「直、マズくない?」
 直は返事もせず、目を見開いて片瀬たちの方を見ていた。いや、立ち尽くしていたのかもしれない。
「……何で……こんな所に……」
 険しい顔をして歯を食いしばると、袖を掴んでいた私の手を振り解き、向きを変えて走って逃げてしまった。
「ちょっと、直!」
 私を置いて逃げるとはどういうことだ! ちっこいから、人ごみの間をすり抜けて逃げるのが早いって。(関係ない)


 すっかり見失ってしまい、直が行きそうな場所を色々回っていたが、見つからなかった。
 そんな時の為に携帯があるんだろ! 携帯をポケットから取り出し、リダイヤルで一発発信。
 ワンコール、ツーコール、スリーコール、フオーゥ……は! いかん!!
『……何?』
 電話に出た直の声はいつもより少し低かった。
「今どこに居るの?」
『……ごめん、少し……一人になりたいんだ……』

 それだけ言って、電話は切れてしまった。


 結局、一人で見回りをすることになってしまった。
 途中、捜査一家サークルの紙袋を発見したので、適当に移動させようと持って歩いている時……。
「見つけたぞ! 犯人はあの男だ!!」
 ぷちん。
「だ〜れ〜が〜男かぁぁぁ!!!」
 仕事を忘れ、奴らを地の果てまで追い回し、企画を台無しにしたのは言うまでもない。


 しかし、ヤツら――捜査一家の企画って、一体何だったんだろう。何がしたかったんだろう?
 ぶっ潰しておきながら今更だけど、探し物も何も、ブツを持ってたヤツを捕まえて、事情聴取するだけだったんじゃない? 怒るよ、本当に!

 いやいや、それはどうでもいいから、直だ。
 本当に、どこへ行っちゃったんだろう――。

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