42・釜 聖神羅学園大学祭 準備編


 もうすぐ学園祭。今回は毎年恒例のチャリティーバザーと、七夕祭りで実行委員会から好評だった、構内のゴミ収集係りをすることになりました。

 その、ゴミ拾いに目を付けたサークルがいた。

 演劇サークルで忙しい藤宮を捕まえて、バザーの会計当番の希望時間を聞いていた――というよりも、勝手に決めていた時だった。
「たのもー!」
 ピシャっと音を立てて勢いよく開いた扉。ノックぐらいしろよ。ドアの前に立っている男は、少し緊張しているのか、視線は天井に向いていた。
 それに、たのもー、は違う。道場破りならぬ、サークル破りか?
「捜査一家サークルの知名度を上げる為に協力して頂きたい!」
 腕を組んで仰け反り、とても人に頼みごとをするような態度には見えなかった。
 捜査一家サークル? あまり聞かない名前だなぁ。
「えと……何の話ですか?」
「ああ、オッケーだ。でも条件がある」
「藤宮! 何勝手に返事してんだよ!」

 何も聞いてないのに返事をするやつがあるか!
「条件?」
 ちょっと、勝手に話し進めないでよ! 僕が会長だってばー!!


 ――捜査一家サークル。学園内のあらゆる事件を解決しているらしいが、実際にはよく知らない。構内でも特に話題にもならない。どちらかと言えば、僕らの方が有名だと思うぐらい。


 ――次の日、ミーティングでバザーとゴミ収集の割り当てを決め、捜査一家サークルの企画について話し終えた頃だった。またもノックなしでピシャっといい音がした。
「やぁ、おはようおはよう、諸君。この度は我が捜査一家サークルの企画を手伝ってくれるそうで……」
 この、やたら態度のデカい登場の仕方をしたのは、昨日も来た、捜査一家サークル部長、野田稔(のだ みのる)。実際に呼ぶ時は『でかちょー』と言わないと怒るらしい。
 ちなみに、おはようの時間はとうに過ぎている。
「では今回の企画について説明しよう! こたろーくん」
 と呼ばれて部室に入ってきたのは、同じく捜査一家の部員らしい。長身で、長めの赤毛を後ろで結んでいる。無言で手に持っている紙袋をずいと差し出すと、野田がまた喋り出した。
「今回は、コレを色ボケ探偵と俺とこたろー以外の部員に探させて、捜査一家サークルの腕試しというか……」
 しばし沈黙。野田は口をパクパクするだけで、目はきょろきょろと泳いでいる。
「探し物はなんでつか?」
 赤毛の男がぼそりと喋ると、野田はポンと手を叩いた。
「そうそう、さすがこたろー。……ってことで、コレを構内のゴミ拾いをしている時に、さりげなーく移動させてくれるだけでオッケー! 後はボランティアさんで適当に決めてください。それでは、健闘を祈る!」
 健闘するのは、そっちのサークルでしょ? 笑顔で退場しようとする野田に対し、こたろーは無表情でその後に続く。
「ちょっと待って、色ボケ探偵って何?」
 呼び止めると、野田はドアの前でピタリと止まり、ゆっくりと振り返った。
「みのんちゃん、かなり話をショートカットしたもんだから通じてないよ」
「みのんちゃんて呼ぶな!」


「ええと……うー」
 野田は腕を組んで、しばらく唸っていた。一体何を考えているのかは分からないが、かなりの口下手らしい。
 こたろーに向かって手をひらひらさせると、代わりに喋り出した。
「今回の企画は、捜査一家サークルと、探偵サークルの腕試し。その名も、探し物はなんでつか。ボランティアサークルさんには、ゴミ集めの最中にさりげなくブツを移動してもらうだけ。ちなみに、他の部員にはこの事は言ってないのでうっかり喋らないように。……と言いたいけど、上手く喋れないようです」
 なるほど。こたろーとやらの説明の方がよく分かる。でも、探偵サークルなんて、初めて聞いたなぁ。
「ちなみに、探偵サークルは自称であって、サークル認定もされていないし、一人しか居ません。更にその人は、みのんちゃんの弟くんです」
「ああ、やめて。アイツと兄弟にしないで!!」
 と頭を抱える野田。こたろーはまだ続ける。
「野田探偵に仕事の依頼の場合、捜査一家サークルの部室内にある、掃除道具入れをノックしてください」
 中に入ってるのか? まさかー。
「本人曰く、ソレが事務所らしいから」
 どんな人物なのか、拝見してみたいな。それより、仕事の依頼なんてあるんだろうか。
「あ!」
 隣の祐紀がポンと手を叩き、野田を指差す。
「法学部の双子ちゃん!」
「双子じゃねぇよ!」

 腕を振り回しながら怒る野田を、こたろーはチョップ一撃で黙らせた。
 どこかで会ったことがあるのだろうか。祐紀は何かと男友達が多いし……嫉妬?
「何? 知ってるの?」
「まぁ、知ってるというより、見た事ある程度。共通科目の何かで一緒になって、講義中に兄弟喧嘩しちゃって、途中で退場させられたから覚えてるよ」
「う……」

 事実らしい。その表情から、退場させられたのは一度だけではないように思える。
「……えーと……まぁ、奇怪な事件が起こりましたら、是非、我が捜査一家サークルにご相談ください!」
「はいはーい、しつもーん」

 手を振り回しながら立ち上がる古賀ちゃん。
「その紙袋の中身、何ですかぁー?」
 シンと静まり返る部室。……いや、微かにカチカチという音が……紙袋から?
 その音に気付いた部員が、一斉に引き、慌てて部室の隅に逃げたり、廊下に出たり……。
 僕はその場から動きはしなかったけど、まさか、爆弾なんてことはないよね?
「これ?」
 こたろーが紙袋を目の高さまで持ち上げると、一部から微かに怯えた悲鳴が上がった。
「オレの目覚まし時計だ、気にするな」
 ニッと笑顔で答える野田。それに対し、我が部員の反応は、言うまでもなく――。
 二人は逃げるようにボランティアサークルの部室を後にした。

 それにしても、『探し物はなんでつか』って企画、すごく適当じゃない?
 発見次第、好きな所に持って行けと、こちらも適当な指示を出しておいた。
 どうやって探し出すつもりなのかは、当日にならなきゃ分からないし。

 ……やっぱり、学園祭といえば、OB、OGも来るんだろうか。
 何より、そちらの方が心配の種だったりする。


 ミーティングを終え、バザーへの協力を求める文書を構内の掲示板に貼っていると、肩を叩かれた。
 振り返ると、ニコニコ笑顔の藤宮。顔を戻し、画鋲を刺す作業に戻る。
「出ないよ」
「何も言ってないじゃん」

 言わなくてもこの時期だから、大体の予想はつく。
「仮装でしょ? 出ないよ」
「……ゆうちゃーん?」

 祐紀にターゲットを変えたようだ。
「絶対にヤダ」
 顔をしかめて、完全に拒絶。
「古賀ちゃんにコスプレさせたら?」
「写真撮る方がいいって断られた。まあいいや、今年はいいカモがいるから……イジリ回してやる……」

 クックックと不気味に笑いながら去っていった。
 捜査一家サークル御一行――ご愁傷様です。
 文書を貼り終え、他の貼り紙に目を通す。すると、下の方に捜査一家サークルの宣伝があったものの、上に何枚もの貼り紙が重ねられよく見えない状態だった。


 たったの数日で、いかにも不要そうなモノが部室にどんどん溜まっていく。掲示板効果、恐るべし!
 まるで廃品回収の収集場のようになってしまった。このままでは、後始末に困りそうなので、急いで貼り紙の交換に走った。

 まず、バザーに出せそうなモノと無理そうなモノを分ける。出せそうなモノを分類し、値段を決める。
 無理そうなモノは……とりあえず、ジャンク品として、一つ十円で会場の一角に置くだけ置いておこう。始末の際に金が掛からなきゃいいんだけど……。
 ……あれ?
 すっかり慣れてしまって忘れてたけど、最近、絢菜を見かけなくなったような……。
 別に変な理由じゃなくて、何か引っかかるような……そんな感じ。
 学園祭で、問題が起こらなければいいんだけど――。

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