4・鍋 ときに愛は二人を試してる?


 リンダから逃げようにも、結構強い力で手を握られていて逃げられそうにない。
 手の感覚も少し変になってきた……。どうにか油断させて逃げなくては……。
「あの……テコンドーって……」
「嘘にきまってるっしょ?」

 自分も含め、あっさり騙されちゃって……。
「さぁて、このままどこかに消えちゃおうか?」
「はぁ? 何言って……」
「鎌井はもうここには居ない。一時間ぐらい前に退場したからね」
「退場? ……アンタ、直と……」
「どういう関係かって? 今は言えないな〜。そうだな〜交換条件ならいいよ?」

 とか言いながら、満点笑顔なリンダ。
「交換条件? 何と交換すんだよ……」
「男と女の取り引きの代償は、体ってのが定番なんだけどね」
「バカ抜かすな! そんな取引に応じるか! クソアンポンタン!」

 やっぱこいつ、男だ。
「祐紀は……」
「おい、いきなり呼び捨てかよ」

 フフンと鼻を鳴らし、リンダは続ける。
「俺は男だよ? そしてあんたは女だ。そういう関係は普通なんだし……」
 すっげームカついたので、股間を思いっきり蹴り上げてやった。
「くは!!!!!!」
 目玉が飛び出しそうな顔をして、必死に痛みに耐えている。
 丁度、手を離してくれたので、ヤツから少し離れ、捨て台詞を吐いた。
「あーあーあーあー、痛いかこのヤロウ! アンタみたいなヤツがいるから、俺は男が嫌いなんだよ!」
 そして、入場門の方に向かって駆け出した。

 直が退場したんだったら、ここに居る必要はない!
 とにかく、直が行きそうな所を探した方が……
「って、直が行きそうな所ってドコだぁぁぁ」
 走りながら色々と考えてみた。
 渋谷か、原宿か、六本木か、歌舞伎町、永田町、目黒……? それ、ドコだよ!
 池袋とかもあるけど……。サンシャインか? 都庁? タワー。
 ――東京タワー!
 前に二人で行ったけど、一人で行くような所か?
 ――サンシャイン水族館……いや、一人じゃ行かないって。
 ええっとーあとどこがあるっけ?
 ――都庁、皇居、国会議事堂? 社会見学じゃないっての!
 あの、長寿漫画の派出所がある、下町?
 ――亀有?
 尚更、訳わかんねー。
 大体、直は漫画とか読まないし。
 なんつーか、自分で言うのも何だけど、……くどい。マジで。
 方向音痴の俺が、動き回って探して迷子になるぐらいなら、ホテルで待ってた方がいいかも。
 一番いい方法だとは思うけど、重大なことに気付き、足を止めた。
「――何線に乗ればいいんだっけ?」

 話にならねぇ。

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