38・釜 部員交流旅行 in関東 その前に……


 夏休み前のミーティングと言えば、我がサークルでは恒例となったが、まだ三回目の交流旅行についての話し合い。
 今までは剛田さんや細木さんが勝手に目的地を決めていたんだけど、毎度同じじゃつまらないので、今回は皆に意見を聞いてみた。

「新宿、原宿、池袋!! 買い物ツアー希望!」
「ディズニーリゾート!」
「お台場!」
「ビッグサイト! ですぅ〜」

 と、見事に意見が割れたあげく、誰一人譲らない。
 ちなみに、日時は古賀ちゃんが根強く押した、盆前。どうやらビッグサイトのイベント日時に合わせたと思われる。
 ということは、早めに宿を決めないと、予約でイッパイになってしまう。まぁ、前回、前々回と同じ所でいいか。
「……古賀ちゃんはもういいから、とりあえず目的地」
「新宿、原宿、池袋!!」
「ディズニーリゾート!!」
「お台場!」

 困った……。
「買い物に行きたい人、手挙げて……」
 ふんふん、一人ではないようだ。
 ディズニーリゾートとお台場も、各数名ずつ。これは、全員の意見を尊重して……。
「ホテルは前回同様、港区。その後の行動は、各自自由。でも集合時間厳守でお願いします。異議は?」
「「ありませーん」」

 千葉にも行けるし、ついでに兄さんの所に行くのもいいかな。
「旅行の日程が無事に決まって、浮かれている所に悪いんだけど、旅行前に地元の祭りのゴミ拾いボランティアを頑張りましょう」
 今回の旅行にボランティアが入っていない理由はコレ。ボランティアするときはとことんする、遊びに行く時はとことん遊んだほうがいい。両方を詰め込んだ、第一回目の遠征ボランティアは、遊びが消費できなくて散々だったからね。
「えと、今回の祭りのゴミ拾い参加者には、もれなく……祭りのスタッフTシャツをプレゼント」
 あはは、誰も要らないって? ――あれ? 今日、僕一人が喋っているような。いつも、隣でツッコむ祐紀は……。
 頷いているのだとばかり思っていたら、船こいでるのかよ。いつも通りの脚と腕を組んだ状態だったので、すっかり見落としていたようだ。マンガとかアニメだと鼻ちょうちんでも出ているんだろうな。よく知ってるだろ?
「……商学部の真部祐紀さん、至急学生課までお越し下さい」
 少し大きめの声で、隣で居眠りしている祐紀に、冗談で言ってみたんだけど……。
「はひ!!」
 と、変な返事をしていきなり立ち上がると、部室から出ようとドアの方に歩いて行く。
 肩を震わせている者、クスクスと小さな笑い声を漏らす者。室内は祐紀がどんな行動を取るか見守っているといった感じだ。
 僕も鼻で笑いながら見ていたが、そろそろいいかな?
「祐紀……ミーティング中に居眠りはやめてよ……」
「ふへ?」

 ドアの前で僕の方に振り返る。そして部屋を見回しているうちに覚醒したようで、目を見開き、顔を真っ赤にしていく。
「な、な、な、な……?!!」
 祐紀が慌てて頭を左右に振り回すと、それを合図にしたように全員が大爆笑。
「うわぁー! 何だよもー!」
 頭を抱えたり、体全体で大袈裟なリアクション付きで大慌て。まるで、本人はその気はないのに、面白いパフォーマンスをした動物園の生き物のようだ。
 ま、そんな祐紀のことは放っておいて、話を進めよう。
「夏祭りのボランティアは、八月七日の午後五時に、駅南口前集合。持ってくるものは、とりあえず軍手ぐらいです。屋台での買い物については休憩以外は基本的には禁止。他に質問はありませんか?」

 といった感じに、夏休み前最後のミーティングは終了。後は当日を待つばかりとなった。
 そういえば、一応ウチのサークルに所属している、藤宮はどうなんだろう? 今日は……って、ほとんど来ることはないけど。

「交流旅行? 行かねぇよ。実家に帰るから」
 アパートの近くで丁度発見したので話してみたが、この反応。
「いつから?」
「盆前、十一日か十二日あたりに、新幹線で……」

 藤宮の実家は千葉。
「え? 旅行もその辺りに出発だけど……もしかして、同じ新幹線だったりして」
「ははは、まさかぁ」
「じゃ、夏祭りのゴミ拾いぐらいは参加してよね。……でも、ビールは持参しないように!」

 前回、大変な事になったからな、コイツのせいで。
「……なんだよ、夏祭り全員でゴミ拾いかよ。行くのやめた方が良さそうだな」
 ゴミ拾いに来いと言ってるのに、既に妹ちゃんと一緒に行く予定だったようで、チッと舌打ちした。あまり二人で目立った行動取ってると、いつかバレるぞ?
「それでも、ゴミ拾いには行かないから」
 藤宮、夏のイベントには不参加……と。茶々入れて何もしないぐらい……いや、迷惑かけられるぐらいなら、来なくて結構。


 ボランティアと旅行以外の日といえば、バイト三昧の夏休み。
 今回は前もってオーナーに祐紀のことを話しておいたので、同じコンビニでバイトすることになった。仕事の時間も同じで、朝から晩まで、四六時中一緒に居る状態。その理由は、イトコの絢菜対策でもあるんだけどね……。
 夏祭り当日は、ボランティアがあるので午後三時に上がり、
「あ、直紀くん、おかえり〜w」
 準備しに帰れば、アパートの前で絢菜にまちぶせされ、あげく抱きつかれた。
「……一人で駅前に行けないものか?」
 僕の迷惑そうな顔と声は毎度無視され、回避策が見当たらない状態が続いている。
「その服装で何をしに行くつもりだ?」
 狙ったように、丈がやたら短いスカートにキャミソール……だけはさすがに着て出る勇気がないのか、上にブラウスを羽織っている。祐紀に比べると露出度高め。でもときめかないよ、僕は。
「ナンパされるよ」
「だったら、直紀くんが守ってね」
「……ヤダ」

 一体何を期待しているんだか。
 祐紀は何も言わず頬をぷーっと膨らませ、怒って先に帰っちゃったじゃないか。
 僕も早く準備しに帰りたいのに。
「ちょっと、離れてよ。準備しないと、間に合わなくなるだろ!」
 一向に離れそうにないので、ズルズルと引きずりながら階段を上り、玄関まで到着……。
「ああもう、これじゃ着替えられないよ」
「……脱がしてあげようか?」

 思いっきり噴出しそうになりながら、それを堪え、一気に引き離した。
「う〜ん、それはちょっとカンベン。じゃ、今日は来なくてもいいから!」
 と、また抱き付かれる前に早口で伝えると、部屋に素早く入り、鍵を閉めた。
「は〜、もう……」
 溜め息をつきながら靴を脱ぎ、顔を上げると……。
「ぶっ……」
 下着のままウロウロする祐紀の姿が!!
「な、なにやってんの、そんな格好で!」
「いや、シャワー浴びようと思ったんだけど、下着忘れただけ」

 まだ怒っているらしく、言葉が刺々しかった。
 それにしても……その下着、色気が微塵もない。


 アパートを出る頃、絢菜は汗を拭いながらしつこく待っていた。十六時四十五分には駅で皆が来るのを待ち、五時には掛け持ちを除く全員が揃った。
 駅通りは、既に屋台でいっぱい。六時からこの通りは交通規制で歩行者天国になる。
「金魚すくいに、強い紙と弱い紙ってあったよ」
「……っていうか、高いよね」

 あの紙とプラスチックが一個三〇〇円、強い紙が五〇〇円ってどうだよ。すくえなかったら大損じゃないか。
「うわー、たこ焼き食べたーい」
「七夕祭りの時も食べてたね。ダメだよ、タコ入ってなかったり、足じゃなくて頭が入ってる事が多いから」
「……詳しいね」
「高校の時、友達がテキヤでバイトしてたから」
「ああ、大阪焼きだぁ……」

 ヨダレ出てるよ? そういえば、時間が中途半端で何も食べてなかった。まだ開始までに時間があるし……。
「時間まで適当に食べますか。途中でお腹空いたとか言い出すと困るので、適当に腹ごしらえタイム。三十分後に本部前に集合で……」
「とうもろこしー!! イカ焼き、鳥焼き、ビール!」
 祐紀は食べ物ばかりに目が行って、話を聞いていない。――ビールだと?!!
「アルコールは不可! 生き物も不可! では解散!」
 約二名を除き、蜘蛛の子を散らすよう、お目当ての屋台を目指し、まだまばらな人ごみの中へ紛れてゆく。
「最近、カラーヒヨコ、見ないね」
「……動物虐待じゃないの?」

 最近じゃなくて、子供の頃の話だろ。
「絢菜、フランクフルトが食べたい!」
「……勝手にしろ」

 いちいち聞くな。僕はお前の保護者じゃないぞ。
 絢菜は返事はせず、駆け足で買いに行く……今のうちに逃げるか、と思ったんだけど。
「私もフランクフルト食べたくなったー!」
 とか言って、祐紀は絢菜の後を追ってしまった。せっかくのチャンスを潰すな!

 仲良く……はないけど、一緒に戻ってくると、歩道の隅で食べ始める……。しかし、絢菜は僕を上目遣いでじっと見ながら食べて……いや、何か違うぞ?
「絢菜! そんな……せつない顔して変な食べ方するな! 僕を見るな!」
 やめろ、やめてくれ! 僕までフランクフルトのように直立してしまうじゃないか!
 絢菜から視線を祐紀に移す。こっちもライバル意識でもしたように……立ってるから僕が上目遣いになっているけど。僕と目が合うと、狙ったようにペロリと舐め……背筋がぞくり、唾ゴックン。
「……発情した?」
「した? じゃないぃ!!」

 それから二人に説教を垂れた。始まる前にトイレに行くべきか、納まるのを待つか、と悩んではいたが。


 タバコ、ポイ捨てしないでー! 空き缶、ゴミを置いて行かないでー! 誰だ、道路で吐いたヤツは! うっかりもらいゲロしちゃって、掃除どころか汚してたりする、道路のゴミ拾い係り。
 こっちはアルミ、あっちはペットボトル、そっちは燃えるゴミ、と設置してあるゴミ箱前で、仕分けの監視とゴミ袋の入れ替えをする係り。
 交代で休憩を取り、祭り終了後もせっせと働き、全てが終わった頃には一時前だった。


「ご苦労様でした。時間の関係で今日は打ち上げができないけど、旅行の時にでもパーっとはじけましょう。それでは、次回は十一日の午前七時、駅の待合室に集合! 忘れたり、遅れたりのないようにお願いします。では解散!」
「「お疲れ様でしたー」」

 よし、ダッシュで帰るぞ!
「直、コンビニ寄って帰ろうよ。お腹空いちゃった」
「それどころじゃないでしょ! 早く――」
「帰らなくても大丈夫だよ。片瀬なら眠いとか言って十一時に帰ったらしいから」
「……あ、そう」

 そりゃ、飽きもせず毎日、朝早くからウチを観察してるから。見てない、知らないフリをしてるけど、僕らはアサガオじゃないって。夏休みの自由課題にもならないよ。

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