第二部 Ratfink / Repulsion


  31・釜 鍋VS新人


 大学に入って3度目の春……。
 新入部員確保の為に、勧誘……と言いたいが、
『ボランティアは押し付けるものではない! やりたい者は勝手に来る! 宣伝だけしとけばいい!』
 前会長・剛田さんの方針のままで、ボランティアサークルは独自の道を歩むのだ……。
 剛田さんと細木さんの卒業で、僕が会長、祐紀が副会長に任命された。一番古株だからね……。
 会長が変わっても、『自腹』も変わらない。



 用事がなくても、入部希望者が来るかもしれないので、バイトまで休んで部室で待機している。
 未だ、新入部員ゼロ。
「あーバイト行ったら金になるのにー。時間もったいねー」
 ここ一週間、同じことばかりして、同じ愚痴ばかりこぼしている。いつも一緒に居てくれる祐紀も、今日に限って来ないなんて……。
「なにやってんだー。ヒマでたまらん……」
 話相手ぐらいいた方がいい。
 こんなことなら、ヒマそうなヤツを適当に捕まえてくれば良かった。

 ずっと椅子に座ってるのも楽じゃない。
 立ち上がり、体を伸ばすと、窓の方を覗いて見た。
 部員集めに駆け回る者、それから逃げる者……。
 あ、藤宮……また女子をメロメロにさせてるよ……。妹ちゃんにチクっちゃおーかなー。
 まぁ、ムリに入部させてもすぐ辞められるのがオチだろうけど、待っているバカもここにいる……。
 ため息をつき、もう一度辺りを見回すと、第三棟から部室棟に向かって走ってくる、長身の彼女を発見した。
 しばらくすると、部室の戸が開き、入って来たデカ女。
「ごめんごめん、宣伝に回ってたら、丁度、入部希望者がいてさ……用紙に書いてもらってたんだ」
 ふーん……入部してやろうという物好きがいたんだ……。自分もそうだけど。
「ほら、これ。やっと一人入ったね〜」
 祐紀に入部希望用紙を渡され、一通り目を通すが、これは……!
「1年の女の子だよ。直と同じ心理学で、あとで来るってさ……」
「ダメだ! コイツだけは、不許可!」

 いきなり大声で叫んだものだから、祐紀は驚き、目をぱちくりさせていた。
「な……んで?」
「誰だ……僕がこの大学に進学したことを漏らしたのは……」

 頭を抱えて机に伏せた。
 兄か、姉か、母か! 親父は普段、家に居ないから違うだろうな。
 何かトラブルが発生すること間違いなし。
「知ってる人?」
 知ってるも何も……机に伏せたまま、打ち明けた。
「僕の……イトコだ……」
「……えええええ!」


 片瀬絢菜(かたせあやな)母の兄の子、つまりイトコ。
 しかも……
「しつれーしまーす……。直紀くん! 久しぶり〜」
 僕を発見すると、椅子に座っているにも関わらず飛びつき、豪快に転倒した。
 昔からちっとも変わってない。
 これまた、厄介なヤツが来たものだ……。
「ええい、うっとうしい! 離れろ!」
「やーだー。もう4年は会っていないのに〜。オジサマが、勘当したって聞いたときは、気を失っちゃった〜。直紀くんに会いたくて、親の反対を押し切って、ココの大学に来たの〜」

 あ、そう。箱入り娘を地方大学に入れるとは、面倒な事をしてくれたものだ。ちゃんと引き止めてくれればよかったのに。
「アパートもね〜お隣さんなのよ〜」
「「え?!」」

 冗談じゃない……。こんなヤツが隣に住んでたら、ストーキングされてるみたいで……ヤりづらいじゃないか!
 毎日のように乱入されて、僕の性欲が爆発寸前まで追い込まれ……しまいには、暴発……お、恐ろしい。
 いや、居座るに三万点かな。どちらにしても、末路は同じか。

「お父さんは、セキュリティ万全のマンションにしろって言ってたんだけど、直紀くんの部屋の隣だったら、大丈夫だろうって」
 まだ喋ってたのか?
「誰に聞いたんだ? 僕がこの大学に進学したこと……」
「オバサマです」

 ……犯人は母さんか……!!!
 待てよ? 勝手に引越したことを知ってるのは、兄さんだけだし、もしかして……。
「直紀くん、部屋に全然居ないんだね〜」
 前のアパートに住んでるなら、問題外!
 それより、まだ誰も入ってないのか? フツー契約時に気付くだろう? 隣も空いてるんだから……。
 未だ僕の上にへばりついたまま、離れない絢菜。
「ちょっと、祐紀、コレ剥がしてく……れ……ませんか?」
 僕に向けられている、祐紀の視線は、冷たく、怒りがにじみ出ていた……。
「助けて下さい……祐紀さま……」
 無言のまま、絢菜を引き離し僕を起こすと、今度は祐紀が僕にへばりついてきた。
「私のモノに、気安く抱きつかないでくれる?」
 どこかで聞いたことあるようなセリフだが……まあいいか。
 僕も祐紀の体に手を回し、抱き合っている格好になる。
「……とまぁ、こういうコトだから、キミの入る隙間はないから。入部も取り消しでいいね?」
 口をぽかーんと開けて、立ち尽くす彼女。
 これで引いてくれれば万々歳なんだけど。
「な……おきくんに……ソッチの気があったなんて……」
 マテ! ショックの受け方間違ってるぞ! 全くなかった訳でもないが、それは過去の話だ。
「……」
 抱いている祐紀が小刻みに震え、僕の手を振り解き、立ち上がった。
「私は……女だぁぁぁぁ!!!!!」
 今まで、同じようなこと言われても、笑ってかわしてきた祐紀が、今回ばかりは大爆発!
 両者はにらみ合い、火花を散らしている。
「だから、僕は祐紀以外の人は眼中にないし……」
 祐紀の左手を取り、その横に僕の左手を並べる。
 薬指には、約束の証が光っている。
「僕ら、婚約してるの。分かる? 結婚前提なの。毎晩エッチも欠かさずしてるし、一緒……」
 うっかり一緒に寝てるって言いそうになった。そんなこと言ったら、同棲している事がバレてしまう。
 聞きたくなかったことを聞いてしまったのか、絢菜は両耳を塞ぎ、首を振った。
「……そんなこと、知らない! オジサマもオバサマだって、一言も……」
「知るわけないだろ! 僕は勘当されてるし、いちいち報告する必要もない! これでももうハタチだぞ。自分のことは、自分で決めてる!」

 絢菜の顔が、曇ってきた……言い過ぎたか?
「私の知ってる……直紀くんじゃない……。言葉遣いもなんだか汚くなった気がするし……きっとこの男女に毒されたんだわ!」
 ……おい、待てよ……。
「私が直紀くんを、その男女の魔の手から、必ず開放しますわ!」
 勝手に妄想暴走するなー!!!
 絢菜は祐紀にビシっと人差し指をつきつけ、宣戦布告!
「直紀くんは、私が……」
 ――バシッ
 ……キレている祐紀は、その手を叩き落した。
「出来るものなら、やってもらおうじゃないの!」
 こ……怖い……。
 また、僕らの前に、邪魔者が立ちふさがるのであった。

 両者の無言のにらみ合いは、帰る寸前まで続いていた……。

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