29・鍋 バレンタイン


「チョコが・・・チョコが襲ってくる・・・タ・・・ス・・・ケテ・・・・」
 2月のある朝。そろそろ起きようかな〜と、思いながらも布団の中でゴロゴロしていると、隣に寝ている直が、苦しそうに頭を振りながら、そんなセリフを言った。
 チョコ?そういえば、もうすぐバレンタインだけど、過去に何かあったのだろうか・・・。


「へ・・・へへ・・・チョコレートねぇ・・・」
 直が起きてから、早速聞いてみた。すっごくイヤそうな顔をして、いらないから作るな。と釘を刺された。
 別に、チョコレートが嫌いな訳ではない。この前も、私のおやつをつまみ食いしていたし。
「でもさ、何で急にチョコ嫌いになったの?」
「・・・嫌いじゃないけど・・・この時期は特別、拒絶反応が出るんだよ・・・あの人のせいで」

 あの人?
「そう、あれは・・・まだ家に居た頃の話・・・」
 直が自分から昔話するなんて、珍しい。とりあえず、つっこまないようにしよう。

 ・・・え?私が描写担当だと話が進まないって?ちょっとまってよ!久しぶりに・・・



 改めて、
  29・釜 バレンタイン昔話


「直紀〜wちょっといいかしらぁ?」
 自室で勉強中、ノックと共に威勢のいい声が聞こえた。
「どうぞ・・・」
 声と違って、控えめに開けられたドアの向こうには、姉が"超"ご機嫌な顔で立っていた。
 手にはお茶やお菓子の乗ったトレーを持っている。
「直紀、お茶持ってきたの。一緒にいかがかしら?」
「いただきます」

 この頃の僕は、拒絶しない人間だった。何でも言いなり。頼まれたことは、特別な理由でもない限り決して断らない。
 渡された紅茶に口を付けていると、満面の笑顔で、お菓子を進められた。
「今日のチョコレート、わたくしが作りましたの」
 僕も笑顔で、いただきます。と言い、チョコを一つ、つまんで口に入れた。
 ・・・ん〜普通のミルクチョコレート・・・。
「どう?わたくしの"愛"感じました?」
 何のことかさっぱり・・・。
「いえ、普通のミルクチョコレートです」
「・・・教授・・・わたくし、愛のこもったチョコレートが、作れませんわ・・・」

 遠くを見つめ、悲劇のヒロインのようなセリフを吐いた。
 教授・・・。そういえば、前に兄さんから聞いたような・・・。姉さんが大学の教授に目付けてる、って。
 姉さんの性格を知っているからだろうか。その教授がかわいそうな気がしてきた。
「こうなったら、アレしかありませんわね・・・」
 謎の発言を残し、僕の部屋から、出て行った。
 ものすごく、イヤな予感がする。

 鎌井優奈、僕より6歳年上の姉。無類の占い好き。白魔法だとか黒魔法とかいう、おまじないなんかも得意らしいが、どの辺までが本当の話かは謎。交友関係も謎。色々謎。
話し方、しぐさは女性らしいが、どこかトゲトゲしい気がするのは、僕と兄だけだろうか。

 もうひとつ、チョコレートをつまみ、僕は勉強を再開した。
 しばらく、勉強に集中していたせいで、どれだけ時間が経ったか分からないが、再び、ノックし、入ってきた姉。
 全身から、チョコレートの甘いにおいを発している。
「味見してくださいな。今度は自信がありますの」
 ズイと、目の前に出された、チョコレート群。
 姉の顔を見て様子を伺う。笑顔ではあるが、少しトゲがある気がする。
「いただきます・・・」
 とりあえず、食べる・・・何か変な味・・・。
「・・・何入れたのですか?」
「白魔法にありました・・・直紀にも好きな人、いらして?」

 何で僕のコトになるの?
「いませんよ・・・男子校ですし・・・」
「そう、ザンネンですわ。白魔法にあった、両思いになるおまじないですの。好きな方がいらっしゃらないのなら、教えられませんわ・・・」

 何か、混ぜたんだね・・・。
「ご自分で味見されましたか?」
「してますわ」
「・・・あまり、他人にオススメできません・・・」
「・・・じゃ、こちらはどうですの?」

 と、僕が取ったの隣チョコを進めてきた。
 違うのか?
 とりあえず、そっちを取って食べてみるが・・・何とも言えない味が、口の中に広がった。
「・・・何入れたんですか?」
「ウイスキーですわ。お父様のを拝借しましたの」

 ・・・お酒?僕、まだ14だし・・・
「僕の口には合いません・・・」
 自家製ウイスキーボンボン?味見する僕の年齢を考えて欲しかった・・・。
「直紀・・・バレンタインにチョコレートを頂いたことありますの?」
 今度は、僕に質問?最初のにして欲しかった気がするけど・・・
「手作りだけは、頂いてません」
 何が入っているか分からないから、怖くて食べれません。
「お返しはしました?」
「大変申し訳ないのですが、お小遣いの関係上、微々たるものしかお返ししてません。しかも、どこの誰か分からない方には、大変申し訳ないのですがお返ししておりません」
「ままま!隅に置けませんわね〜w」

 一体、何が聞きたかったのか良く分からないが・・・。
「手作りを頂いていないのなら、参考になりませんわ」
 ガックリと肩を落として、部屋を出て行った。
 しかし、一体何がしたいのだろうか・・・。

 それから、しばらく、姉のチョコレートの味見を散々・・・散々させられた。


「手作りは、イヤだ・・・絶対にイヤだ・・・」
「去年、貰ってたじゃん。手作りじゃなかったけど」

 ・・・アレ?
「古賀ちゃんでしょ?アレは・・・いや・・・」
 そういえばあの時、古賀ちゃんが二つ持ってきて、もうひとつはリンダさんからですぅ〜って・・・。
「あのバカ、何やってんだぁ?」
「アレって、ちゃんとお返ししたの?」
「ま、一応ね・・・」

 そういえば、古賀ちゃんは、ども、ありがとです。とだけ言ったけど、リンダこと藤宮は・・・
 『イヤ〜ンwカマちゃん萌え〜w』って・・・
「・・・ありゃアホか・・・」
「さっきから何独り言ってんの?」
「去年、藤宮からも貰った・・・」
「え?!!」
「祐紀から貰ってないのに・・・」
「いや、アレは・・・」

 それから長々と、祐紀の言い訳を聞くことになった・・・。

 今年のバレンタインの収穫・・・
 古賀ちゃん・・・今年もチ○ルチョコのバラエティパック。
 祐紀・・・現物支給。(燃え)

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