26・鍋 クリスマス
街は、色鮮やかな飾りでいっぱい、いたる所で、クリスマスソングが流れている。
今日は、クリスマス・イヴ・・・。
今、直と一緒にお買い物中。
「やっぱり、鶏の足でしょ!」
「シチューも忘れずに」
丁度、カレーやシチューのルーが置いてある場所だったので、それを放り込んだ。
「ちょっと待ってよ。なんでビーフなの。クリスマスはクリームシチューでしょ!」
白いか黒いかの差じゃないか。同じシチューなのに文句言うのかこの男は・・・。
「いいじゃないの。たまには黒でさー」
「よくない!ご飯にかけて食べるつもりでしょ!不許可!」
以前、食卓に並んだ時に、ご飯にかけて食べたら、カレーじゃないとか、行儀が悪いとか、散々言われたからなー。おぼっちゃまだからかな?
「それなら、ハンバーグにかけちゃう。それならいいでしょ!シチューバーグってメニューもあるぐらいだし」
「鶏の足はどうしたの?」
・・・潔癖だなぁ・・・。
「買うよ」
「シチューバーグにするのに?」
「シチューバーグはスープ類にしちゃえば、問題ない」
食卓には、ご飯、メインのおかず、汁物、最低でもこの3つがないと、直は怒る。
私が料理を作れるようになってから、更にうるさくなった気がする。
「もういいよ。そこまで言うなら、全て任せるから・・・」
その顔にはうっすらと笑みが・・・まさか、私が料理担当に?!!
直はそのままどこかに行ってしまった。
よく考えてみたら、鶏の足って調理法わかんないよ。焼くだけでいいならそうするけど、妙なことをすると、何か言われそうだしなー。ここは、華音先生に聞いてみますか・・・。
『んなもん、適当に焼きゃいいだろ!切るぞ!』
華音ちゃんの携帯に出たのは、ダンナの方だった。しかも、やたら機嫌が悪そうだったけど、もしかして、お楽しみの最中で?昼間から元気だな・・・。
仕方ない、お惣菜の所にあった、調理済みのモノにしよう・・・。
シチューは、ビーフだから牛肉・・・安いこまぎれでいいか。にんじん、じゃがいも・・・たまねぎはまだ残ってたからいらない。ハンバーグは、ミンチで・・・。
買い物メモなしで、ちゃんと買い物できるようになったぞ!どうだ!
前はできなかったから、よく直に怒られたものさ・・・。
買い物を終え、袋に詰め込んでいる頃に、直は戻ってきた。
不満そうな顔をして、小言を言われた。
「そんなに適当に入れたら、全部入らないよ?」
「帰ったらどうせ全部出すんだから、入ってればいいの!」
「肉汁漏れ〜」
古賀ちゃんのセリフパクリか?・・・え?
「うわぁ!!」
『萌え〜』じゃなくて『漏れ〜』か!!
「直がどっか行っちゃうからこうなるんだよ!」
「八つ当たり?カンベンしてよ・・・」
迷惑そうな顔をしているが、どこか嬉しそうなカンジだ。
「だいたい、何してたの?」
「プレゼント、買いにいってたの」
手に持っていた、紙袋を見せられた。
プレゼント・・・って、私に?
でも私、この前指輪買ったので、金使っちゃったから、何も買えないのに・・・。
「セクシーランジェリー一式・・・」
「待たんかコラ!絶対着ないからな!」
「・・・買うわけないだろ、恥ずかしい。ま、帰ってからのお楽しみ」
何だろう?紙袋、結構大きいけど・・・。
帰りの車の中でも、その袋の中身が気になって仕方がない。
後部座席に置かれたソレを、ちらちらと何度も見ていた。
「ちょっと!肉汁こぼしたら、掃除させるよ!」
「・・・あい〜」
車の振動で傾きかけた肉の入ったパックの位置を戻した。
「一番下に入れればよかったのに・・・」
「以後、気を付けます・・・」
ふと空の方を見ると、かなり曇っていた。
外も、耳がちぎれそうな寒さだった。
もしかしたら、今夜あたり、降るかな・・・?
帰宅後、すぐに夕飯の準備に取り掛かった。
夕食を済ませ、私の部屋で、テレビを見ながら、つたない会話を交わしていた。
何かを思い出した様に、私は立ち上がり、カーテンを開けて窓に張り付いた。
真っ暗な外を、目を凝らし、あるものを探した。
「どうしたの祐紀・・・?」
「・・・雪・・・雪だよ。買い物から帰るときに振りそうだなって思ってたけど、本当に振ってる・・・」
部屋の明かりが届く範囲だけ、小粒の雪がちらちらと舞い降りるのが見えた。
直も私の横に来て、窓の外を見た。
「本当だ・・・」
しばらくその雪をふたりで見つめていた。
「そういえば、プレゼントって何?」
気にしていた割りには、すっかり忘れていた。
「僕がお風呂に行っている間に、開けてもいいよ」
目の前で開けられるのが、恥ずかしいような言い方だった。
直はそれ以上何も言わず、お風呂に入る準備をしに、自分の部屋に戻っていった。
もし、セクシーランジェリー一式だったら、風呂場に乗り込んで殴る・・・とも考えた。
直がお風呂に入ったのを確認し、直の部屋に置いてある、紙袋を丁寧に開け、中のものを確認した。
スカートだけは穿かないと言ったのに、入っていたのは・・・
「嫌がらせか・・・」
と思わず漏らしてしまった。
丈は長いが、どう見てもスカート。キツいスリットが入っている。
この私に穿けと言うのか・・・。
以前から、僕の前だけでも・・・と言っていた。
・・・直の前だけなら・・・
お風呂から上がった直が、驚いた顔をしたのは、言うまでもない。
本人でさえ、着てはくれないだろうと思っていたはずだ。
「どうだ!似合わないだろう」
直が選んで買ってくれた服を着ていたのだから、相当驚いたであろう。
直は何も言わず、戸を開けた状態で止まっていた。
「・・・いや」
ゆっくり・・・いや、恐る恐る?私に近づき、上から下まで一通り見ると、髪に手を伸ばし、優しく撫でた・・・
「・・・髪・・・もう少し伸びたら、すごく似合うと思うよ・・・」
嬉しさがにじみ出た笑顔でそう言ってくれた。
それが、嬉しくてたまらなかった。
最初からこの人と出会っていたら・・・私は・・・。
そう考えただけで、悔しくて・・・今更、後悔したって遅いって分かっているのに、私の全てを狂わせた、あの出来事が頭を過ぎり、今の私さえも壊してしまいそうだった。
「・・・何?泣く事ないんじゃないの?」
優しく私を包み込む直の手が、更に罪悪感を強くした・・・。
私は・・・貴方に愛される資格なんて・・・。
貴方が思っているほど、私は綺麗じゃない・・・。