誕生日当日の土曜日・・・
目覚め爽快!(ああ、そうかい?)←滑。
着替えを済ませ、祐紀の安らかな寝顔を突付いて遊んでいた。
「んーんー・・・」
迷惑そうな顔をして、手で追い払おうとしている。・・・面白い。
「んう〜・・・」
布団から手が伸び、僕の肩を捕らえると、気だるそうに起き上がった。
「おはよ、祐紀」
「・・・んー、はよ・・・」
眠い目を擦っている祐紀を抱きしめると、それに答えるよう僕の背中に腕を回してきた。
朝から、蕩けそうなラブラブっぷり。
顔だけ僕の方に向け、甘い顔をした。
「誕生日おめでとう、直・・・」
「ありがとう・・・」
僕も笑顔で答えた。
しばらく、甘々な時間を満喫していたが、水を差すように携帯が鳴り出した。
ディスプレイを見たが、知らない携帯番号。一体誰だろう?
出てみて気分は一気に最高潮。
『アットマーク通運です、日本通販さまから、代引きのお荷物をお預かりしておりますが間違いありませんか?』
「はい」
『では、これから伺います。代金は・・・・』
ナイスタイミング!今日に間に合わないと思っていたが、日頃の行いがいいのかね?
「よし、早速ベッドをバラそう」
「えぇ?今から?」
「そ。買ったベッドが今から来るから」
「・・・本当に買ったんだ・・・」
「ほら、布団畳むから、祐紀は着替えておいで」
「うん・・・」
素早く布団を畳み、邪魔にならないところに避けると、ベッドの解体を始めた。問題はバラした後、ドコに置くか・・・。とりあえず、キッチンになるかなぁ。
スプリングマットを移動し、手際よくバラしていると、インターホンが鳴った。
「こんにちは。アットマーク通運です」
待ってました!と言わんばかりに心の中で喜悦する。
前もって準備しておいた、金の入った封筒を持ち、玄関へ急いだ。
玄関前には、大きいモノばかり。入るのかと少し不安になった。
料金を払い、伝票にサインすると、配達人2人が、キッチンへと運び込んでくれた。
「ども、ありがとうございましたー」
僕も軽く会釈をし、再びキッチンを見て思った。
広めのキッチンで良かった・・・。
前住んでいたアパートだったら、とてもじゃない。
着替え終わった祐紀も部屋から出てきた。
「うわ・・・デカ・・・」
一番大きなスプリングマットを見ながらそう言った。
「僕は、ベッドをバラすから、祐紀は梱包から全部出してくれる?」
「は〜い」
解体を終了し、部屋の隅に立て掛けると、新しいベッドの部品を取りに、キッチンへ移動・・・
散乱したダンボールに僕は、唖然。祐紀は赤い顔をして呆然としている。
祐紀が手に持っていたのは、僕がこっそり注文したアレだ・・・。
「い・・・イラネ!」
とゴミ箱の方に放り投げられ、我に返った。
「ハッ・・・!!ちょっとまてー!!!」
とりあえずその箱を取りに行き、おもちゃを捨てられそうになった子供のように、大事そうに抱えてみた。・・・念の為、おもちゃじゃないからね。
「なにすんだよぅ!」
「・・・いや、なんとなく・・・」
こちらを見ることなく、祐紀は作業を再開。僕もベッドの部品を部屋に運び込み、アレの箱は引き出しにこっそり忍ばせた。
どうにか、昼までに組み立て、セッティング、片付けを完了。
改めて部屋を見回すが、ベッドに部屋の半分は占領されている。寝る時ぐらいしか使わないからいいけど。
「いや・・・さすが直さま、布団一式も注文しているとは・・・」
「当たり前でしょ?」
「もし、私が注文してたら、マットの上に、シングルの布団使うか、焦って買いに出てるだろうよ」
だろうね。
昼食を済ませると、直に藤宮兄妹が訪ねてきた。
「準備が出来たら、電話するから」
「うん。じゃ行ってきます」
僕が出掛けている間に、何を作ってくれるのだろうかと、少し楽しみになってきた。
僕の車に乗り込み、市内のボウリング場へ向かった。
「また、溝掃除しちゃって、かっこわりー」
「うるせぇな!得意じゃねぇんだよ!」
何度投げても、ガーターを連発する藤宮。高校時代、ボールを扱うスポーツしていた割には、粗末なボール裁きだな。
「こうやって・・・・投げるんだよ!」
カコーンといい音が響く。
「よし、6連続ストライク!」
「・・・つまらん・・・」
ふてくされて、さっきからタバコばかり吸っている。
「やんないの?」
「また俺かよ?」
「ストライク出たら終わりだし」
「投球数少なくて、損だな」
・・・そうかな?
藤宮は重い腰を上げ、ボールを手に取り、ボールの反れる方向を計算し、少し右よりから投げ、何とかピンに当てる事が出来た。
「おーおー!当たった!」
拳を振り上げて喜んでいる。始めてボウリングに来た子供じゃないんだから・・・。
ま、言うまでもなく、僕の圧勝だったけどね。
「おのれ鎌井め・・・今度はアレで勝負だ!」
勝手に勝負してるのはそっちだろう。
藤宮の指差す方に、卓球台がある。
「いいでしょう。かかってきなさい!」
「てめぇ・・・」
ワザと低めに返すと、空振りばかりしてつまらない。
「身長デカイのは、不利だったね」
身長差を生かし、圧勝。
ボウリング場に併設されている、ゲーセンにて・・・。
「今度はアレだ・・・」
まだやるのか?今度はエアーホッケー。
「高校時代、エアーホッケーの達人と呼ばれた、俺に勝てるか?」
ゲームスタート。
「お前がエアーホッケーの達人なら、僕は超人だね」
昔から、動体視力はいい方だったし。
「おのれ・・・次は・・・」
指差す方向にあるのは、パンチングマシーン?何キロか出るヤツ。
「よーし、やってやろうじゃないの〜」
腕を振り回しながら、マシーンの方へ向かった。
僕が先行で、はりきって・・・思いっきり・・・殴る!
「おー100いっちゃった〜」
唖然とする藤宮。
「小さな巨人か、お前は・・・」
人は、見かけじゃないんだよ。
僕に敵わないと悟った彼は、それ以上勝負を持ちかけてはこなかった。
車に戻り、ジュースを飲みながら休憩中。
「ここまでさせといて、今更何だけど・・・」
「うん?」
「お前、2週間はスポーツ厳禁じゃなかった?」
「・・・あ・・・」
久々に体動かせてたし、思わずはしゃいでしまい、すっかり忘れてた。
「何で早く言ってくれないの!」
「今、思い出した」
・・・まぁ、痛くなった訳じゃないから、大丈夫だろうと思うけど。
「どうせ、今日キメるつもりなんだろ?」
「何を?」
「とぼけちゃって。毎日一緒に寝てるのに何もないってことは、今日を狙っていたとしか思えない」
「はぁ?!!」
何の話しかと思えば、またお節介か。
「お前には関係ないだろ!」
「全く関係ないな」
・・・いちいち癇に障るヤツだな。
「ま、覚悟はしてるみたいだけど・・・」
「お前・・・いつからそんなに、祐紀と仲良くなったの?」
「仲がいいのはカノンとだよ。俺、未だに警戒されてるし」
そりゃ、第一印象が悪かったからな(僕も警戒しているよ)。それでも、そういうことは聞くんだね。
「餞別に、これをやろう」
と、ポケットのサイフから何かを取り出し、渡された。
「遠慮せず使え」
・・・ヤツご愛用のモノだろう。
手の中のモノを、見つめていると、
「・・・使い方、分かるか?」
ナメてんのか?
「まさか、やらハタ・・・じゃないよな?」
「やらハタ?」
またヘンな専門用語か?
「やらずのハタチの略だよ」
「バカにすんな!僕だって、そのぐらい・・・」
「ムキになるなよ・・・」
ささいな事で、とことん笑い者にしそうだからな。悪いヤツではないけど。
「で、最初はいつ?男?」
・・・聞くなよ。
祐紀から電話が掛かるまで、質問攻めをくらっていた。
「準備できたから、帰ってきていいよ」
そう電話が掛かったのは、午後4時半。やっと、この『お節介シモネタキング』から、開放される。
その後、すぐに帰宅。
アパートの階段を2階まで登った所で、後ろから肩を叩かれた。
振り返って見ると、ヤツは満足げな、いい顔をしている。
「いい報告、待ってるぞ」
「お前にだけは言わないよ」
人のことは放っとけよ、お節介!
藤宮は、そのまま僕の横を通り過ぎ、階段を登り帰って行った。
「ただいま」
玄関を開けると、クラッカーが勢いよく鳴り響いた。
「改めて、誕生日おめでとー」
よく見ると、祐紀の手には、クラッカーが5つ。一気に鳴らしたようだ。
後の掃除が・・・と思うのは、僕だけだろうか?
「そんな所に突っ立ってないで、入って入ってw」
満面の笑顔の祐紀。とりあえず、片付けのことは後にして、今は祐紀のやりたいようさせよう。
いつも食事を取るテーブルの上には、豪華に盛り付けられた料理が並んでいる。
「これ・・・」
「スゴイでしょ!」
「作ってもらったの?」
祐紀が肩を落とし、すぐに手を振り回して、
「ちがぁぁぁうぅぅぅ!!!私が作ったの!華音ちゃんは、現場監督!」
監督が居たとしても、祐紀がこれだけのものを作っただなんて・・・
「・・・スゴイ・・・」
としか言えない。
「まだ早いけど、始めよう。座って」
僕は、いつもの位置に座り、テーブルの真ん中に、ケーキらしきものを発見。
祐紀は、ビールを持って来て、僕の視線の先にある、ケーキについて、説明を始めた。
「ケーキね、バウンドケーキとかいうやつ」
「パウンドケーキでしょ?」
跳ねてどうするんだよ。
「そうそう。あれ、簡単なんだねー」
材料は、バターと小麦粉、卵、砂糖だったかな?ケーキの中では簡単な方だ。
「オーブンなんてないのに、どうやって焼いたの?」
「それが、トースターで焼けるんだよ。上がコゲないように、アルミホイル被せて焼くの。だいたい焼けたら、最後にアルミ外して、焼き色付けて出来上がり」
なるほど・・・。その技は、僕でも気が付かなかったな。
ビールの入ったグラスを渡され、
「それでは、直、20歳の誕生日、おめでとー!かんぱーい」
と言った直後に、一気に飲み干した。
「あはー。今日はいい仕事したわー」
祐紀の方がね。その姿に気をとられ、出遅れた。
「チューリップ、作れる?」
骨付き鶏肉のコトだ。酒のつまみに、大半が襲われた後だ。
「え?チューリップになってるのは買ったことがあるけど?」
「あれね・・・、手羽のこうなってる所を、こうやって・・・こうやって、ひっくりかえして、骨1本抜いて・・・」
現物で実演している訳じゃないからさっぱりわからないが、グロテスクな会話だな・・・。
「ブチブチとか、ボキボキって音がするの・・・」
祐紀の顔が怖くて、背筋が凍りそうになった。
祐紀の目つきがかなり怪しい。回ってるな。
先ほどまで、怖い顔をしていたと思えば、今度は笑いだした。
「直ちゃん、遠慮しないでどんどん食べてw」
それどころじゃないです。食べようと思ったものは、片っ端から奪われるし。
「どんどん飲んでよ〜。せっかくなんだからさ〜」
と、自分のグラスにビールを注いでいる。
・・・そんな状況で、どうしろって言うの?
その後も、祐紀の勢いは止まらず、争奪戦を繰り広げたりしていた。
僕の誕生日ってことは、すっかり忘れられているようだ。orz
食事(?)を終え、祐紀の部屋でテレビを見ながら、食後のケーキを食べていた。
祐紀は、酔っていないから大丈夫だと言って、キッチンの片付けをしている。
それにしても、ビールにケーキは合わないな。(当たり前だ)やはり、一旦コーヒーに逃げるか。
キッチンへ行くと、祐紀はああでもない、こうでもないと、ブツブツ言いながら、皿洗いをしていた。
「何言ってるの?」
声を掛けると、ビクっとし、赤い顔をして、僕の方を向いた。
「直こそ、何?」
「ケーキにビールが合わないから、コーヒーをと思ってね」
「言ってくれたら淹れたのに・・・」
「缶が出てくるかと思って・・・」
というのは嘘だけど、片付けの邪魔になるからね。
「インスタントがあるから、それはないよ」
前、缶を出して文句言われたものだから、それ以降はインスタントで対応している。
「冗談だよ。僕、どうせヒマだから、自分でやるよ」
そう言うと、祐紀は皿洗いを再開した。
「もうすぐ終わるから」
「うん・・・」
いつもだったら、次の日に持ち越すのに、一体どうしたんだろう?実にアヤシイ。
片付けを終えた祐紀が、部屋に入ってきた。
僕の隣に座ると、持って来た缶ビールを飲み始めた。
「実は・・・プレゼントがあるんだけど、シラフじゃ渡すのが恥ずかしくて」
「恥ずかしいも何も、僕しか居ないじゃないか」
「そうだけど・・・」
モゴモゴ言いながら、またビールに口を付けた。
渡すのが恥ずかしいプレゼント?処・・・?!!
勝手に想像して、こっちまで恥ずかしくなってきた。
もし、ソレだと、僕もシラフでは受け取れませんな・・・。
隣で祐紀が思いっきり頭を振っている。今度は何だ!
「いやいやいやいや、飲み過ぎて、渡しそびれるのがオチだ。ちょっと目瞑ってて」
何が何だかよく分からないが、目を閉じて待つことにした。
テレビの音に混じって、ガサゴソという音がし、静かになったと思ったら、手を取られ、何かを指にはめられた・・・。
見えなくても、感触でそれが何なのか、すぐに理解できた。
ゆっくり目を開き、指にはめられたものを確認した。
僕が祐紀にプレゼントした指輪に、良く似たデザインの指輪だった。
「サイズ、大丈夫?」
「・・・うん、ありがとう。大切にするよ・・・」
この前、用事があると一人で出掛けたのは、コレを探しに行っていたのだろう。
渡すのが恥ずかしいというのも、納得できる。
そっと祐紀を抱き寄せ、朝と同様、甘々な時間を過ごした・・・。
そんな、僕の誕生日・・・。