25・釜 記念日


 布団はひとつ、枕はふたつw
 ウキウキと布団を敷きなおす、怪しい男がここに一人・・・。
 部屋のドアが開き、デカイ女が顔を出した。
「パソコン、貸して」
「何で?」
「インターネットで調べ物」
「ここでやれば?」
「いや、ヒミツの調べ物」

 ・・・何だよそれは、僕が見ちゃいけないのか?
 それ以上は何も言わず、ノートパソコンを誘拐された。一体何を調べるんだろう?
 とりあえず、布団敷くか。
 今日もヌクヌクギュウギュウw・・・はぁ・・・幸せだな〜w
 妄想に萌える、怪しい男が・・・(以下略)

 僕の誕生日まで、あと4日・・・。



「・・・先に帰れとな?」
「うん、ゴメン、ちょっと用事があって・・・終わったらすぐ帰るから」

 いつもの待ち合わせ場所での会話。一緒に帰る為に待ち合わせをしているのに、先に帰れと言われたのは初めてだ。
 ちょっとブルーな、水曜日。小石を蹴りながら帰ってやった。

 一人部屋に戻り、布団のないベッドに寝そべって、カタログを眺めていた。
「用事って何だよ・・・」
 もうすぐ、僕の誕生日なのに。昨日はネットでヒミツの調べ物、今日は用事がある?僕に隠れて何をやっているんだか・・・。(ジェラシー)
 ケーキでも作る気ではないだろうな・・・。恐ろし・・・いや、キケンすぎないか?市販のショートケーキで十分だから、無茶はやめてくれ。寿命が縮む。
 誕生日・・・どうしようかな。ココでもいいけど、外食の方がいいかな?丁度、術後一週間目だから、酒も飲めるし。酒を飲むこと前提なら、外食はやめた方がいいか、帰ってから飲むか。
 ・・・と、考えていて、何事も計画的だなと、自分で思った。
 だから、『電卓付きマニュアル人間』って言われるんだろうけど、そのおかげか、僕の人生はほぼ計算通りに進んではいるが・・・。

「たっだいまー!!」
 祐紀ご帰宅。やたら機嫌がよさそうに聞こえたが、どういうことだろう?
「おかえり」
 ベッドから起き上がると、丁度祐紀が僕の部屋に入ってきた。
 ついでだから、土曜日どうするか、話し合う事にしよう。
「土曜日、どうする?」
「土曜?誕生日?」

 よかった。忘れてたら家出してやろうかと思ったけど。
「どうするって、何を?」
 ナゼか満面の笑顔の祐紀。
「外食にするかどうかって話」
 笑顔のままだったが、顔色が悪くなっていった。
「が・・・いしょくにするの?」
「ココでもいいけど、その方がいいかなと思って・・・」
「ダメ・・・」

 やはり、ケーキでも作る気だったのか!!
「外食するような金・・・ない。すでに今月ピンチだし」
 金・・・?
「それならおごるよ」
 手術費として貯めた金が、まだ少し残っている。
「誕生日に、おごるヤツがあるかー!!だめだめ!ココでするの!」
 ・・・そんなにムキにならなくてもいいのに、何かヘンだな。
 僕に内緒で、豪華な(?)手作り料理を作ろうと考えていたのかもしれなし。それならそれでいいのだが、元・料理オンチだから、初挑戦メニューや、突拍子モノを作りそうで怖いが・・・。
「お料理の先生も近くに居ることだし・・・、豪華な料理、期待しててね!」
 ちょっと、期待したくない。料理の先生って誰?僕じゃないような言い方したけど、誰かいたかな・・・?ネットで調べて、一人で作られるよりは、よっぽどマシだが。
「あはは〜たのしみ〜w」
 とりあえず、笑顔で言ってみた。
「予約しとこ・・・」
 と、携帯を出して、どこかに電話をはじめた。
 予約って何?
「もしもし、華音ちゃん?おはよ」
 おはよって、時間じゃないだろう?大体、ナゼ藤宮妹?
「土曜、大丈夫?・・・それと、ついでにダンナ借りていい?」
 ダンナって、藤宮?
「うん、そうそう。メールに書いてたアレ・・・」
 いつから、そんなに仲良しになったんだ?
「そういうことで、よろしく。土曜、待ってるね〜」
 電話を終え、携帯をたたんだ。
「カノンって、藤宮華音?」
「そう」
「ダンナって、藤宮孝幸?」
「そう。その言い方やめてって言われるけど、ダンナじゃん。アイツ、苗字で呼び捨てにすると、何か睨むし」
「いつからそんなに仲良しになったの?」
「料理教えてもらってたら、自然に」

 そうか、僕が教えていない料理は、あの子に教えてもらってたのか。
 夏、藤宮に聞いた話だと、料理は上手いらしいから、いいだろう。
「私が料理作っている間、直は藤宮と時間潰しててね。ちゃんとレンタル許可もとってあるから」
「・・・えぇ?」

 自分の誕生日に、アイツと過ごせというのか?



 木曜日。
 毎日、一緒に寝るのも楽ではない。
 日が経つにつれ、僕の体も限界を訴えだした。
「おはよ。土曜、GT−Rで出動、楽しみに・・・どうした?」
 朝の講義室、僕より後に来た藤宮が、土曜日の事を話そうとしたが、それよりも僕の顔色が気になったらしい。
「・・・へ・・・へびの生殺し・・・」
「・・・はぁ?」

 理解できないであろう。一緒に寝ているなんて、一言も言ってないから。
「講義終わったら聞いてやろうか?」
「・・・やだ」

 どうせ、前みたいに『さっさとやれ!』と言われるぐらいだろう?

「バッカだなー。寝静まった頃にこっそりするのが醍醐味だろ?初心を忘れちゃいけないぞ」
 講義終了後、速攻で逃げようと思ったが捕まってしまい、構内の食堂で取調べ中。
 藤宮の意外な回答に、こっちが驚いたぐらいだ。
「こっそりって言っても、隣に寝てるし、途中で気付かれでもしたら・・・」
「ちょっと、ムラムラきちゃって・・・アハwでかわせ!」
「できるかぁ!!!」

 テーブルを思いっきり叩き、大きな声で怒鳴ったので、周りの視線がこちらに向けられた。
「じゃ、風呂に入っている時は?」
「ああ、そうか。なるほど・・・」

 密室だ。更に覗かれる心配もない!
 藤宮は急に、真剣な顔になり、小声で・・・
「間違っても、お湯で流すなよ」
「お湯?」
「・・・そう。後始末が大変な事になる・・・浴槽内は厳禁」

 何かあったのか・・・?
「それって・・・体験談だね?」
「・・・うん・・・頭の中が真っ白になった直後にアレは、真っ青になるぞ」

 ちょっと冒険してみたい気もしたが、ヤツの表情から大惨事が起こる事を察した。いや・・・
「僕を陥れる為の演技じゃないよね?」
「大丈夫。嘘、偽りのない、ノンフィクションだから」

 それならいいけど。



 金曜日
 今日の講義は、午前中に終わったので、午後からアパートの自室で、のんびりしていた。
「明日、どこに行く?」
 これが、祐紀との会話だったら良かったのに、目の前に居るのは・・・
「・・・どこでもいい・・・どっちかって言うと、お前なんかと行きたくない」
「仕方ないじゃん。俺だって、真部にカノン持って行かれてヒマだし」

 目の前の藤宮は、僕の発言に顔色ひとつ変えなかった。
 いつもなら怒鳴っているはずなのに、どうしたんだろう?
 肝心の祐紀は、藤宮が言った通り、華音と買い物に行くと言って、出掛けている。
「僕の誕生日を何だと思っているんだ・・・」
「そう肩を落とす事はない!きっといいことあるさw」

 そう言って、フフンと鼻で笑った。
 いいことねぇ・・・。
「お前、何か聞いてないの?」
「なにを〜?」

 顔がやたらニヤけている。何か知ってそうだ。
「祐紀に何か言われたから、明日僕と出掛ける気になったんだろ!」
「そうかもしれないけど〜違うかもしれない〜」

 絶対知ってる・・・。
「祐紀に何言われたの?」
「それは言えないな。お前らの為に、協力してやってんのに、言える訳ねえだろ」
「はぁ〜?!!」

 思ったより口の堅いヤツだな。まぁ、祐紀がそうしたのなら仕方ないか。
「明日・・・とりあえず体を動かしたいから、ボウリングに行く・・・」
「・・・疲れてどうすんだよ・・・」
「へ?」

 呆れた顔をし、それ以上は何も喋ってくれなかった。
 祐紀が帰宅するまで、ずっと僕の部屋に居たけど・・・。

  (次ページに続く)

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