17・鍋 真部祐紀のお料理地獄……


 夏休みも終わって九月も中旬。
 直と同棲を始めてから早一ヶ月――。
 おかげで料理も楽しく作れるようになってきた。
 得意料理は卵料理の王道、目玉焼きだ!

「……また、目玉焼き?」
「うん、失敗したら、プレーンのスクランブルエッグの予定だった」
「……もう……飽きた……」
 毎朝同じものは、さすがにマズかったか……。
「じゃ……明日から、ゆで卵?」
「卵料理はしばらくいらない!」
「……は……は〜い」
 そうか……日に日に機嫌が悪くなっていたのは、このせいか。(違うと思うぞ)
 他にも簡単な(重要)料理を覚えなくては。

 ――朝から食べれる、簡単料理。


「朝めし? 何食ってるって……なぁ……」
 ということで早速、大学構内にて発見した藤宮ご夫妻(嘘)に直撃インタビュー。
 藤宮が妹の方をちらっと見る。イヤな回答が返ってきそうな予感。
「和風に焼き魚定食だったり、洋風にパンだったり……野菜サラダとスープ付きで」
 まともな回答でよかった。
「料理オンチでも、簡単に出来るオススメ料理ってない?」
「オススメ……ですか?」
「お前、料理すんの? 心外だな〜」
 水さしてんじゃねぇ!
「ほうれん草とベーコンのバター炒め、なんて簡単じゃないですか? 缶詰のコーン入れると、色鮮やかでいいですし……」
「それ、包丁使う?」
 妹ちゃんの目が点になった。私はかなり真剣なんですけど……。
「ええと……ほうれん草とベーコンを、手でちぎれば、必要ないですけど……」
「よぅし! それ、イタダキ!」
「それをグラタン皿に移して、ゆで卵の輪切りととけるチーズ乗せて、トースターで焼いたりとかもありますよ?」
「うわ〜簡単! よし、では早速、お買い物! ありがとね〜」

 忘れないうちに買い物へGO!
 それにしても、お得でいい情報ゲットしちゃったな〜。


 ほうれん草、コーンの缶詰、バター……高いな? マーガリンと何が違うんだろう? でもバターって言ってたし。ベーコンはウチにあるからいらない……。あ、チーズ忘れる所だった!


 ――帰宅後、早速料理開始!
「まずは〜ゆで卵」
 最後の方に使うから、意外と最後にあわてて作ると思ったでしょ?
 直にも少しだけ手際が良くなったって褒められたぐらいだからね〜。
 フライパンを熱し、バターを溶かす。
 ほうれん草とベーコンを手でちぎりながらフライパンに投入!
 おおっと! コーン忘れてた! ……? この水は……どうするか?
 一応『炒め』と言ってたから、いらないな。捨。
 フライパンにばっさり投入! 豪快だ! まるで男の料理だ。
 一気に炒める……おや?
「ほうれん草の割合が、すごく少なくなってきたけど……?」
 独り言も漏れますよ。
 ナゼだ? てんこ盛りだったのに……。
 減ってしまったものは仕方ない。もう全部使っちゃったんだから。とりあえず、味見してみましょう。
「……何か足りない……」
 一体何が足りないのだ? これ以上は何も聞いてないぞ!
 コーンのバター炒めにほうれん草とベーコンを追加したような感じ……あ!
 居酒屋の、バターコーンには、確か塩コショウが……!
 適度に投入。
 味はバッチリだ。けど……なんか、ゴリゴリするな……?

「ただいま……。何してんの?」
 直のご帰宅だ! 本当は返って来る前に作り終わっていたかったのだが……。
「お、おかえり。ちょいと料理を……」
 直が立っている位置からガスレンジのフライパンや鍋が見えないように、隠すように立ってみた。
「なに? バター臭いけど……」
「それは出来てからのお楽しみってことで、もうちょっと待って」
「……? うん……」
 どうも何を作っているのか気になるらしく、私が隠しているガスレンジ辺りをじっと見ている直。部屋に入ったことを確認して、料理を再開。

 ゆで卵も完成。殻を剥き終わって、気付いた……。
「輪切りって……包丁使うじゃん……」
 直には散々、包丁を使うな、と言われている。野菜炒めだって、材料は手でちぎって使っているぐらいだ。
 でも、使わないといつまでも使えないままだ!
 恐る恐る、包丁を手にし、卵を一刀両断!
 そうか……反対の手を添えなければ切ることはないだろう……。

 数分後、見事なみじん切りが完成!
「輪切りは……無理だ……。修行が足りん……」
 乗せるだけだから、この際、形にはこだわるまい。
 炒めたほうれん草、ベーコン、コーンを耐熱製のお皿に盛り、ゆで卵のみじん切りと、チーズを乗せ、オーブントースターに投入!
 チーズに焦げ目が付くぐらいが丁度いいと思うが、それって何分ぐらい?
 食パンは五分で真っ黒にしちゃったし……。
 失敗しない為に、ずっとトースターの中身とにらめっこすることにした。

『チーン』

「できた!」
 トースターを開け、すぐに取り出す……いやいや焦るな!
 ヤケドしちゃ意味ないぜ!
 折りたたんだタオルでガッチリ掴み、テーブルに用意しておいた下敷き代わりの皿の上に乗せる!
「じゃじゃ〜ん、かんせ〜!! 直〜できたよ〜」
 呼ぶと、すぐに部屋から出てきた。
「何作ってたの?」
「コレです!」
 テーブルの上の物を見て、驚いた顔をした。
「……何? どうしたの急に……熱でも出たのか?」
「素直に喜べ!」
「嬉しいけど……嬉しい超えてブキミ……」
「失礼な! 文句言うぐらいならさっさと食べろ!」
「はいはい……。イタダキマス……」
 恐る恐るフォークを刺している……。
 一口食べて、ヘンな顔をして、首をかしげた……。
 ――ゴリ……ガリガリ……?
「祐紀……おいしいから、味には文句いわないけどさ……」
「うんうん」
 料理にうるさい直が褒めてくれたんだから、もう十分だ!
「ほうれん草、洗ってないね? 砂が混入してるよ……」
「?!!!」

『野菜はちゃんと、洗いなさい!』

 今頃思い出しても遅いよ〜!!!
 そうか……味見したときの、ゴリゴリは砂だったのか……。
「……まぁ……合格にしとく……」
「おおお! ありがとうございます!」
 卵料理以外で、はじめて合格もらっちゃったよ〜。
 と、喜んでいるのもつかの間。
「けどさ……包丁使っただろ?」
 ば……バレた!!!
「祐紀は独り言が多いんだよ。全部聞こえてたし。手、切ったりしてないだろうな?」
「手は添えなかったから切ってないし……輪切りじゃなくてみじん切りだし……」
 直は、フゥとため息をついた。
「ま、いいけどね……。使えるようにならなきゃ、作れる料理は限定されるし。で、こんなメニューどうやって思いついたの?」
「実はですね〜」


 さて、次は何にしようかな〜?
 また、妹ちゃんに聞いてみるか。

「……包丁使わないで出来る、簡単メニュー? ……うう〜ん……」
 注文が多いせいか、妹ちゃんは唸りっぱなしだった……。

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