13・釜 真部邸へ行こう


 盆休み前なので高速道路は空いている。
 唸れ! 二六(ニーロク)! といわんばかりにいい感じに飛ばしてます――といっても一〇〇キロだけど。後ろが渋滞してても、焦らず法定速度を守ろうね。
「早い早い。最高速どのぐらいでるかな〜?」
 ノーテンキなこと言って……レースにも出れるような車なんだから、甘く見てると即事故死だそ。
「兄さんの話によると、かる〜く二〇〇超えるらしい」
「ニヒャク……?!!!」

 とは言っても、そこまでスピードメーターの目盛りは刻んでいないけど。
 免許取得後、嬉しくて毎日のようにドライブに出かけていた兄さんはよく首都高速に行っていたとか。その頃は怖いものなんて何もなくてバンバン飛ばして走っていたらしい。
「さすがに、それ以上は踏めなかったらしいが……」
「やりすぎでしょ」
「ちなみに、RX−7は、スピードメーターの棒一本抜くだけですごいことになるらしい」
「棒ってなにさ?」
「スピードメーターの、これ以上いけませんよ〜の棒」
「わかりません」

 人から聞いた話だから、本当かどうかは知らないけど。
「高速って、自分で走るのは久しぶりなんだよなー」
「な? ドコで下りるか分かってる?」
「それは、事前に調べておいたけど? 地元に入っちゃえばあとは祐紀がナビしてくれればいいんだし。高速走るのが教習以来だなーと思って」
「路上教習ですら怖くてたまらなかったけど……」

 意外とどんくさいんだな。
「教官が、金払ってんだ! 飛ばせとか、もっと踏めとか……」
「なにそれ」

 祐紀が半ベソで高速教習を受けているのが目に浮かぶ。
「お前、女か? まで言われたぞ」
「ぶ……マジで?」



 目的地まであと半分ぐらい。
 そろそろ休憩でもしようかと考えていた時、後ろの車がべったり張り付いていることに気付いた。
「抜きたきゃさっさと抜けばいいのに……」
 と一人口ごもる。
 いつまで経っても抜く気配はなく、煽られているのではないかと思い少し頭にきたけど、ここで飛ばして事故しちゃ意味がない。無視しよう。
 ――しかし
 激しくクラクションを鳴らしてくるし、パッシングしてくる。
「なんだよ……勝負しようっての?」
 いくら気が長い僕でも、さすがにこれは頭にきた。
「あわわわ……安全運転でお願いします〜」
 祐紀の声も気にせず、ステアリングを強く握った。
 GT−Rをなめてんじゃねぇぞ! とアクセルを全開にする寸前、確認のために横目でバックミラーを見たがすでに後ろにその車はいなかった。
「え?」
「直! ヨコ! ヨコ!」

 後ろに張り付いていた車は追い越し車線の方にいた。
 真っ赤なフェラーリ F355。
 会話に夢中になりすぎたあげく、すぐに頭に血が上ってしまいあの独特な音にも気付けなかった。
 そして昇った血のせいで幼稚な判断を下した脳は、敵わぬ相手だと気付いたせいか、あっさりと冷静さを取り戻していた。
 運転手はこちらを見て手を振っている。左ハンドルだからね。
「うわー女の人だ〜。外車だよ〜」
 真横じゃ祐紀には、車種まで分からないようだ。
 甲高い音を上げあっという間に追い越し、ハザードを数回点滅させた。
「馬だ。何の車だっけ?」
 跳ね馬のエンブレム。下に車の名前書いてあるだろ?
「フェラーリ」
「おお! あれがウワサの……! あ?」

 首を傾げ、何か考えだした。気付いたか?
 そう、間違いなくあの人だった。


 フェラーリは、サービスエリアの方にウィンカーを出し、ミサイルのように入っていった。
 後を追うように、僕もサービスエリアへ。通り過ぎたら、地の果てまで追いかけられそうだし。
 フェラーリの近くに停めると、車から降りる。
 間もなく、フェラーリから降りて髪をかき上げた女性は……。
「姉さん……」
「久しぶりね。直紀」

 鎌井優奈(かまい ゆうな)二十五歳。職業ナゾ。僕の姉だ。
「なんで分かったの?」
「だって、兄さんの車じゃない。飽きるほど見てたからすぐに分かったわ」

 兄さんが免許取った時からずっと乗ってたからな。いや、そうであっても……。
「いや、何で僕が乗ってるって……」
「兄さんが、あなたと電話で話してるのを聞いちゃってね」

 ……バカ兄貴。内緒だったんじゃなかったのか? 聞かれてるじゃないか。
「大丈夫よ。誰にも言ってないから」
 って言うヤツに限って、喋るんだよね。
「トイレ行って来る! ついでにジュース、買ってくるね……」
 話に入れないし、気を使ったのか、顔に汗をにじませている祐紀は、引きつった笑顔をこちらに向けてこの場から逃げた。
 トイレに駆け込む祐紀を見て、姉さんが予想通りの反応をした。
「あら、女子トイレに入っちゃったけど、アレ、変態? 盗撮マニア? ああいう友達と付き合うのはやめなさい」
「いや……勘違いしてるよ」
「まぁまぁまぁまぁ! まさか彼氏とか? 身も心も女の子になっちゃったのね……」

 トイレの方を見ながら、頬に手をあて『フゥ』と、ため息をつく。僕の話を聞けよ! 昔から変わってないんだから。
「そうじゃなくて……彼女。女だよ、アレでも」
 自分の彼女をそんな言い方、そういう風にしか説明できないことが少し複雑。事情も色々あって複雑だったし、一言で説明なんてできない。
 しかし、姉の性質上、何でも聞いてくることは明らかだったので、そんな言い方に留めた。が――。
 ……。
「あぁぁぁぁ」
 やはり事情が飲み込めず立ち眩みでもしたのか、こめかみを押さえてフラフラ。フェラーリに手を突いて何とか体勢を保った。
「直紀? あなた、何がしたいのか姉さんにはわきゃプーですわ……」
 どこで覚えたか分からない、変な造語使わないで下さい。
「男の僕が彼女連れてちゃおかしいのか? フツーじゃないか」
「だって、あなたより男に見えるのが彼女だなんて……」

 姉さん心配だわ〜とでも言いたいのか?
「放っといてくれ。僕は勘当された身なんだ。姉さんには関係ないだろう」
「でもね、お父さん……」
「聞きたくない! 僕はもう、あの家にも戻らない!」

 姉さんは驚いていた。家族に反抗なんてしたことのない僕が大きな声で反論するなんて思いもしなかっただろう。
 もう、いい子でいる必要はないんだ。感情を抑えることも、我慢することも、勘当されたことで、僕はそんな生活から開放されたんだ。
「そう……。でも覚えておいて。みんな、直紀のことを心配しているってこと……」
 そんなこと、もうどうでもいい。今更なんだよ……。

 姉さんはそれ以上何も言わず車に乗り込み、窓を開けて僕に言った。
「また、会えるといいですわね……」
 自分の車の前で立ち尽くす僕に、笑顔で手を振ってからゆっくりと走り出した。サービスエリアの出口に差し掛かると二度クラクションを鳴らし、再び甲高い音を響かせ……それも次第に小さくなる。
 その音だけを無意識に追っていた……。
 ――姉の笑顔は昔から変わっていなかった。


 しばらくして、祐紀が戻ってきた。
「あれ? お姉さんは?」
「ああ、もう帰ったよ」
「そ……」

 自分が僕の何なのか聞かれずに済んで安心したのか、硬かった祐紀の表情が少し緩んだ。
「十時過ぎか……まだ昼食には早いね」
「下りるインターの前にあるサービスエリアで弁当食べるぐらいが丁度いい予定なんだけど……」
「細かいね……」
「A型ですから」
「だろうね……」

 潔癖。融通が利かないマニュアル人間。過去の記憶が芋づる式に出てくる。あーやだやだ。
 兄さんはO型だからいいんだけど、父さんがあんな性格なのは僕と同じだ。マニュアル通りじゃなきゃイヤだとか、自分の思った通りにならなきゃイヤだとかさ……。だから正面衝突しちゃうんだろうね。……って、なんでオヤジのこと考えてんだよ。……姉さんに会ったからか! 芋づるだ〜。
「頭、横に振ってどうしたの?」
「思い出したくない過去の記憶、振り落とせないかと思って……」
「それは無理でしょ。思いっきり頭ぶつけたらぶっ飛ぶかも……」
「運悪けりゃ、自分まで飛んじゃうよ……」

 あーもう、姉さんのせいだ! 僕がA型のせいだ! もう考えるな!
「では、改めて出発しますか」
「はいは〜い」


 予想通り、昼前にサービスエリアに到着。
 車内で取った昼食も終え、いよいよ――。
「今更なんだが……」
「……んん?」

 祐紀はジュースを飲みながら、僕の方を向く。
「……緊張してきた」
 心臓はバクバク、冷や汗だらだら。口元や頬がピクピクしちゃって笑顔のつもりがそうではないものになっていそう。
「前行ったときはレースでビラビラの服着て行ったくせに……こっちの方が恥ずかしかったっての」
 あれは、まぁ……やりすぎたと思ってるけど……。
「今日は目的があるだろ。その内容がだねぇ……」
「娘さんを僕にください!」
「ちがぁぁぁぁぁぁぁうぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!」

 何度もハンドルを叩き、更には額を思いっきりぶつけてみた。
「いやだぁん、うっそぴょ〜ん。もぉ、顔真っ赤にしちゃってさーカワイイw」
 頭を抱え、心の中で嘆いた。
 ――からかわれてる! この僕がぁぁ……。
 『同棲させてください』なんて言ったら、間違いなくちゃぶ台返し。もれなくパンチもセットでプレゼント……だろうな。ちゃぶ台返し返しをしないように気を付けなくては。【CL第七話参照】
「直……」
「あい?」
「崖っぷちだね……」
「……」

 なぜ笑顔?
「さぁ、行きますか!」
「はいはい」

 祐紀が前を向いたので僕もつられてそうする。
 そして運転体勢に入った途端、
「……地獄へ」
 なんて言い出したものだから、再び祐紀を見た。
 こちらには向いていないものの、その毒の入った笑顔は何?
 何で無言なの? その顔やめて! せっかくの決心が揺らいでしまう!!



 インターを下り、家までは祐紀にナビしてもらう。
 前回来た時は新幹線&電車だったからな。
 祐紀の誘導で見覚えのある通りに出た。
 ここまで来たということは、祐紀の家まであと少し。
「そこを……」
「曲がって三件目……だよね?」
「あ、そうか。前来た時ココ通ったもんね」

 辺りをキョロキョロしながら歩いていたからよく覚えている。
 で、お決まりの路上駐車。
 あれ、先客でもいるのだろうか? すでに真部邸前には一台路駐してある。
「……いかん、今日は帰ろう」
 祐紀は顔を引きつらせていた。
 僕の反応を楽しんでいたくせに、いきなりそれかよ。
「せっかく着たのに、また来るのめんどくさいじゃん」
「ダメだ。アイツがいる……」

 アイツって、誰だよ?


 反対を押し切り、祐紀を車から引きずり降ろした。
「ギャーイヤじゃー!!!」
 大暴れする祐紀。躊躇せず、インターホンを押した。
「うわー!!! 何すんの! 鬼、悪魔!!!」
 ……何だソレは。
「はいはい……」
 玄関が開いた。出てきたのはお母さんの方だ。
 前回は、倒れたけど。
「……ええと……どちら様?」
 僕は視線を落とし祐紀を見る。
「あら、祐紀……ってことは……直紀さん?」
「はい。ご無沙汰してます」
「せっかく来てくれたのに……今、取り込み中で……」

 室内からはすごい罵声が飛び交っている。

「なんじゃ、クソオヤジぃ! どきやがれ!!」
「だまれクソガキがぁぁぁぁぁ!」
「あぎゃぁぁぁぁ……」

『コキン……』

「……」
 何事?
 お母さんの方を見ると笑顔で答えてくれた。
「ただの親子喧嘩よ」
 ただの……? うそぉん。
「今度は何したの? ……兄ちゃん」
 兄?!! 居たのか? 知らねぇぞ。
 ――って、僕も最近になって姉の存在を明かしたんだけど。
「玄関じゃ何だし、上がって。落ち着かないだろうけど……」
「はぁ……お邪魔します」

 玄関を上がったのと同時に祐紀のお父さんが客間から出てきた。
 急なことで驚いてしまい、体が強張った。
「……祐紀!」
「あ……タダイマ……」

 祐紀はまだ会いたくなかったと言わんばかりに苦笑いしている。
「今度はお友達かね?」
 あれ? 気付いてもらえない……悲しい。
「違うよ、この前連れて来た、びらびらレースの子……」
「ああ、総理大臣と同じ苗字のヤツか……」

 変な覚え方すんなよ……びっくりしたじゃないか!
「どうも、こんにちは」
「今日は何かね? まさか……」

 拳を握りブルブルと振るえだした。イヤな予感……。
「お前らまで同棲させろだとか言い出さないよな……」
「あはぁ〜、バレちゃいましたぁ〜?」

 とりあえず、明るく陽気に言ってみた。そんなことが通用する人ではないとは思っていたけど、自分の緊張を解す為にもあえてそうした。
「なおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!! なんて事言うんだお前はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 いきなり胸倉をつかまれてガクガクと揺さぶられた。明らかに祐紀の方が取り乱したといった感じだ。
 状況をわきまえろっての? まぁいいじゃん。違いますって言ったら切り出す自信ないし。
「まぁまぁ。本当の事なんだし。その話をしに来たんだからさ……」
 祐紀の手をそっと引き離すと、まっすぐ祐紀のお父さんを見つめた。これは冗談でも、半端な気持ちでもないと、目で訴えるように。
 お父さんは何も言わず、僕を客間に来るようアゴで促した。
「直……」
 心配そうな声。祐紀は僕の後ろをついて来ようとしたので振り返ると、服の裾でも掴もうとしていたのか、中途半端に手が出ていた。
「ゴメン、二人で話したいから……」
「でも……」
「そんなに心配しなくても、大丈夫だから……」
「……ん……」

 不満と不安に曇った顔をしていた。仕方ないよな。
 僕は、先に行ってしまった祐紀のお父さんの待つ客間へ向かった。
 客間のちゃぶ台の前に、ドカっと座っているお父さんと……ぶっ倒れているお兄さん。先程、乱闘(?)があった割には散らかっていない。
 お兄さんとははじめましてだけど、挨拶できる状態じゃないね。これは失神している。
「まぁ、座りなさい」
「はい……」

 お父さんの真正面に座り、じっと顔を見つめた。
 重苦しい沈黙。
 早く話題を切り出して欲しい、と待っているのだが、こっちから言わなきゃだめか。
 あ、そうだ。手に持ったままになっていたアレをすっかり忘れていた。袋から出すと、ちゃぶ台の上に置き、差し出した。
「お土産です。お口に合うかわかりませんけど……」
 買ってきた、お土産を差し出す。
「……うむ」
 会話が途切れ、また沈黙。
 ……ちゃぶ台の上にお土産の品。
 気を失って倒れているお兄さん。
 相変わらずの仏頂面なお父さん。
 冷や汗ダラダラ、心臓バクバクの僕。


「あの……」
 どうにもこうにも始まりそうにないので意を決し、何とか声を押し出してこちらから切り出した。
「同棲の件ですけど……」
「同棲だとぉぉぉぉ!」

 いきなり怒鳴られて体がすくんだ。
 敏感に反応したのはぶっ倒れてたお兄さんの方で、急に起き上がり、僕を指差し……、
「貴様! どういう……あれ、女? 同棲じゃなくて共同生活だろう。脅かしやがって……」
 もの凄い剣幕だったが、僕の姿を見るなり勢いが治まった。
「寿……お前には関係ない、向こうに行ってなさい……」
 お父さんが静かにそう口にした。どうやらお兄さんは『寿(ひさし)』という名前らしい。
「なんだよ……ほんとに……」
 ブツブツと文句言いながら、お兄さんは客間から出て行った。
「確かに、前回の約束どおり、前よりは男らしくはなったが……」
 閉まったふすまが再び勢い良く開き、お兄さんが鬼の形相で舞い戻ってきた。タイミング悪いよ、お父さん。
「男だと? 最近の男にはムネが付いてるのか!」
 んなわけないでしょ?
 お兄さんのことは無視してお父さんは続けた。
「まだ、ソレは付いたままだな……」
 僕もお兄さんを無視し、お父さんとの会話を続けた。
「取るにもお金が必要です。すぐに用意できるような金額じゃありません」
「で? なぜ同棲だ?」

 やっと本題に入った、と少し安心していたのもつかの間。
「同棲なんか許さぁぁぁぁんんん!」
 お兄さんは一人ヒートしている。それも無視して、更にお父さんとの会話を続けた。
「バイト代だけだと時間が掛かります……。だから、アパート代、食費、光熱費、これを二人で出し合えば自己負担金額が減ります。残った分を貯めて手術代にしたいんです」
「キサマァァ祐紀は男みたいだが女なんだぞ! 認めるか!」
「寿……」

 お兄さんは一人でギャーギャー騒いでいる。お父さん、ついにキレたか? ゆっくり立ち上がり、お兄さんを容赦なく卍固め!
「ニギャァァァァ!!!!」
 お兄さんの体からはゴリゴリ、キシキシと耳を塞ぎたくなるようなイヤな音が漏れている。それでも容赦なく締め上げるお父さん。
「うるさいから、黙ってなさい……」
 お父さんの声は穏やかだったが、その行動からは明らかに怒りがにじみ出ている。
 散々締め上げられた後、ようやく開放されたお兄さんは肩で息をしていた。
 このままじゃ、何話してるか分からなくなっちゃうよ。真剣な話なのに。
「こんな身体、自分でも早く何とかしたいんです。お願いします……」
 お父さんの前で頭を下げてると、まるで、『娘さんを僕にください』って言ったような気分だった。
「そういう理由があるのなら……と言いたいが、私は……キミのこと、何も知らないのだよ。今すぐに『はい、いいですよ』とは言えない」
「僕……のこと?」
「ウチはともかく、キミの両親は、この事をどう思っている?」

 僕の……? 父との最後の風景が脳裏を過ぎり、心臓は強く、早く打ち始めた。
「私が許可して、勝手に同棲していたらキミのご両親は」
「家族には勘当されました。許可を取る必要はありません」
「……しかし」
「僕は結婚を前提に、真剣に付き合ってます。身体を戻すまで絶対に手を出したりしません。約束します!」
「……いや」
「誓ってもいいです」
「……そうじゃなくて」
「だったら、どうすれば許可頂けますか?」
「……それは」

 お父さんは僕の勢いに押され、それ以上言葉にできないようだった。
「どうしても親の許可が必要なんですか。それなら、取り合ってもらえるかどうか分かりませんけど、総理官邸でも、総理公邸でも、国会議事堂にでも電話してください。僕の父は……内閣総理大臣、鎌井宗次朗です」
 感情的になってしまった僕は、どうにか許可してもらいたくて必死だった。言いたくなかった父の名前を口にした所でようやく我に返り、思わず手で口を塞ぎ、その名を言ってしまった事を後悔した。
「総理大臣?」
「ま〜じ〜?」

 ――お兄さん、まだ居たのか?

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