林田の部屋に入る。俺の部屋と間取りが同じだから変な感じ。
 部屋のドアを閉めると直が言う。
「溺愛」
「フン、好きに言え」

 林田は、開き直って(?)自分のベッドにドカっと座る。
「今の……彼女っすか?」
 俺がそう聞くと何故か直が大笑いしだした。
 直は何か知っているのか? それとも俺、変なこと言った?
「いも……いも……ププププ……」
 直、訳わかんないよ……。イモ? ププ? オナラ? この連想は間違ってるな。
「笑いすぎだ! 中途半端オカマ!!!」
 ついに林田もキレた。でも、オカマの時点で中途半端だよ……。
「一体何なのさ……」
 中途半端なのはお前らの会話の方だ! 気になるじゃないか!
 こっちは気になりすぎて発狂寸前。
 その時、ドアをノックする音。
「先ほどはスミマセン、驚かせてしまって……」
 入ってきたのは先程の押し倒した彼女。飲み物を持ってきたようだ。
「……ああ、こういうの……理想の彼女だよね……」
 何も言わなくても茶が出てくるなんて……。とちょっと顔を緩ませていると、
「「お前が言うな」」
 林田と直がハモって俺に突っ込んだ。
「……え……ええ? おれぇぇぇ?!!」
「そろそろ女だということを自覚しなさい」

 そんな体の直に言われても、微妙だな……。
「でも、そのナリで、スカート穿かれたらキモイ」
「お前にだけは言われたくない……」

 オカマの演技してたくせに。お前も十分キモかったぞ。
「でさ……彼女一体何者?」
 彼女が一瞬ビクっとしたような気がした。
「あ、私、買い物行って来ます……」
 即退場。
 林田は彼女が出掛けたことを確認し、改めて話を始める。
「……いもうと。血は繋がっていない。同じ大学だ。以上」
「……異常……プ……」
「テメェ……さっきから癇に障ることばかり言いやがって……」

 直の頭をがっちり掴んで再びアイアンクロー。
「気のせいだよ。あははははははは」
「妹? てっきり彼女と同棲中かと思っちゃった」
「俺は藤宮孝幸、義理の妹とラブラブです。いつも『だ〜か〜ら〜血は繋がってない!』って……言うじゃな〜い……ジャ〜ン……でも、世間から見ると異常ですから〜ざんね〜ん! 禁断の兄妹愛斬りぃぃぃ」

 波田陽区?
 直の痛恨の一撃! ……え? それって……
「ちょー溺愛してるんです」
「血は繋がってない」
「親には内緒です」
「血は繋がってない」
「いくところまでいっちゃいました。後戻りはできません」
「血は、繋がっていない!」
「禁断の近親相姦……」
「血は繋がってないって言ってんだろうがコラ!!!!!」
「やるかコラ!」

 直と林田は戦闘態勢!
 それにしても身近にそういうのが居るってのがスゴイね。ドラマとかマンガだけじゃないんだ……。
 って、感心している場合じゃないぞ! 大変だぁ!!


 直のプロレス技が炸裂する前に、林田の部屋から離脱!
 俺の部屋へ。
「思った通り。掃除とかめんどうだから、コッチの部屋は使ってないと思ってたんだ」
「何か、イヤな言い方……」

 どうせ俺は大雑把なO型ですよ……
 それより、直の切り替えの早さに驚くよ。

「ああ、ちょっとからかっただけだから。僕は全然怒ってないよ。……それにしても、あの反応が……プププ……」
 思い出し笑いしだした。
 思い出し笑いするヤツは『エロい』と聞いたことがあったな……。
「近いうちに祐紀の実家、行こうね」
「フツー許可しないよ」
「まあ、僕が男だからね」

 遠い目をした直。髪が短くなったせいか、男に見える。いや、今までもこれからもずっと男だけど。
 視線を少し下げると『胸』……男にはほど遠い物体。
 このギャップが何とも言えない。
「娘さんを僕にください! って言ったら即OKだったりしてー」
「…………」

 さすがにそんな発言を何気なくさらっと言われると、唖然とするしかないんですけど。
「……ウソだよ。いや、ウソじゃないけど、今はしないよ。身体戻した後にね……」
 でも、それって……。
 直の顔が真っ赤になったと思ったら、急にあたふたしだした。頭抱えたり、頭を横に振ってみたり。
「……ええと、だから、その、今のナシ! 忘れて。早とちり。……フライング。予行練習……」
 そう言いながら手をブンブンと振り回している。
 こんな直は初めて見たよ……。なんか、かわいい……。
「フフ……。忘れるのは無理だから、返事は保留にしておくよ」
「うう〜」
 真っ赤な顔のまま、しかめっ面の直。
 うっかり口が滑ったとはいえ、本音が聞けて嬉しかった。

「ああ、もう、今日は帰る!」
 直は、すくっと立ち上がり、荷物を持って玄関へ。
「え? え〜ゴハンは〜?」
「……たまには弁当にしよう」

 疲れてるし、まあ仕方ないか。
「では、また明日」
 直が手を上げ、逃げるように部屋を後にした。
「うん、明日……?」
 何だろう?




 ――次の朝。
 携帯の着信で目が覚めた。携帯を取る前に時計を確認すると、もう十時前……?
 うっかり寝過ごしてしまった。
「は〜い?」
『迎えに来たけど、出てくれる?』
「あ〜ごめん、寝てた……すぐ準備する……」
 とは言ったものの、鏡を見て仰天した。
「な……なにこれ……」
 どうやって寝たらこんな寝癖がつくのだろうか。
 これは洗わなきゃ直りそうにない、そのぐらいスゴい。
 洗髪前に電話しとこ……。機嫌損ねると怖いから。
「直……ごめん、すっごい強烈な寝癖で、洗わないと直りそうにないんだ……時間掛かる……」
『じゃ、林田んところで時間つぶししてくるわ。準備できたらワンコして』
 林田……いい所に遊び相手(?)がいて助かった。
 さて、大急ぎで準備しなくては……。

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