011 突撃! でんじゃらす・がーる☆ 【瑞希―2】
うふふふふふ。
もう、第一印象、サ・イ・ア・ク☆
写真で一目惚れして、念願の初対面でいきなり交際の申し込み。それもプロポーズミックス。
何をやってんだよ、あたしはー!!
って、嘆いたってもう遅いのよ。とほほほ。
さて、滞在中に名誉挽回なるか……。
それにしても……北都くんって何をやっててもサマになるわよね……うっとり。
うふふふふふw
「ものすごくいい顔して食べてますね、瑞希さん」
「それだけ、芹香さんの料理がおいしいんでしょう。おかわりもらえますか?」
「うふふ、やだ、正臣さんったら……」
「……人前だということを考えて、そういうのやめない?」
「思ったことを口にできるって、ステキなことだと思うよ? 私なんて、恥ずかしくて言えずに飲み込んだ言葉がどれだけあるか……」
お父様も帰宅され夕食の最中ですが、食事を口に運びつつ、あたしの視線はやはり北都くんに釘付け☆
確かに、お母様のごはんはとてもおいしいんだけど……北都くんがいるというこの食卓――味わって食べる余裕なんてない。
北都くんの容姿はお父様に似たのね……。ダンディなパパ。とってもステキw どこかのオヤジと違って。あえてウチとは言わないけど、ウチの父さんのことだけどね。年々、オヤジ化が進んでるし。
もし、あたしがこの家族の一員になれたら――って、それって、アレなんじゃないッスか。えと、あの、その。うふふふふ。いやは、お、およめしゃんにしてくらさいw
……もう、だめっ☆ 止まらない! 誰か止めて、この暴走。
それはともかく、先にすることをせねば……。
今、食卓を囲んでいるのは、あたし、おばさん、お父様、お母様、北都くんw そして、北都くんの弟、恒(こう)くん。
あたしたちがココに到着した時間は、スポーツ少年団の練習があったからいなかったけど、どうやら、ウチの妹と同じ小学六年生らしい。
北都くんの弟だからカッコイイと思ったでしょ? 違うんだよ。お母様に似たのか、童顔でいつもニコニコしてそうだし、背もそんなに大きい方じゃないと思う。あたしよりは明らかに小さい。
「今日は賑やかで楽しいな〜」
にっこにこだ。そんな笑顔を見ていると、こっちまで楽しくなってきちゃうよ。
「瑞希さんとおばさん、いつまでいるの〜?」
人懐っこい視線であたしを見つめてくる恒くん。何より声かな。声変わりしてないせいで、余計に幼さ強調。
北都くんがカッコイイ系男子なのに対し、弟くんはカワイイ系男子だ。危ないお姉さんに狙われないよう、注意してほしいぐらいの。
「三日、四日ぐらいお世話になる予定だよ。よろしくね」
「うわ〜い。僕、一度でいいからお姉ちゃんがいる生活がしてみたかったんだ〜」
……かっ、かわいい。くそ生意気なウチの弟とは全然違う! 次元が違う!
「よーし、たっくさん遊んじゃうぞー!」
と、あたしまで張り切っちゃう。
「あんまり、騒ぐなよ」
はっ、北都くん、そんな、冷たい……。
さすが受験生というか、マジメすぎるというか……。
「そう言わずに、北都くんも少し息抜きをするべきだと思うが……」
そしてお父様は、お母様からおかわりのご飯を受け取り、ありがとう、と言う。
「この辺りを案内して歩くぐらいいいじゃない? ね、瑞希ちゃん」
あたしがここに来た理由を知ってか、知らずか、そう勧めてくれるお母様。
「僕も一緒だからね〜!」
やたら大きなアクションでアピールする恒くん。
では、肝心の北都くんは……。
「……考えとく」
……イマイチ釣れない。
夕食も終わり、先にお風呂にも入って……濡れた髪をタオルで拭きながら、リビングへと戻った。
「お先にお風呂いただきました」
その言葉ってちょっと変だとは思ってるんだけど、母さんがおじいちゃんちに行ったときとか、そういうのを言うからマネしてみた。
リビングにいるのは、北都くんを除いた全員。テレビを見ながら大人たちはビールを飲んでいる。
「あ、瑞希ちゃん、立ってるついでに北都呼んで来てくれる? せっかくお客様が来てるっていうのに、あの子、相変わらず部屋から出てこないんだから……」
頬を赤くしているお母様があたしにそんな……そんなっ、ああっ。
いやいや、これは北都くんの部屋を拝見できて、会話ができるチャンスかもしれないぞ! ならば、この真部瑞希、頑張ってみます!
「はー……」
「僕も行く〜」
と、あたしが返事をし終える前に、手を挙げてこちらに笑顔を向けてくる恒くん。これは心強い。
「うん、じゃ、一緒に行こうか」
「わーい」
跳ねるように立ち上がると、パタパタとこちらに駆け寄ってきて、人懐っこい笑顔であたしを見上げてきた。
この子、絶対に小学六年生じゃない! と内心、少しでも思ってしまった。少しどころじゃないな。うん。
恒くんと一緒にリビングから出て、ここに来たときお母様が覗いた部屋の前に行く。ドアをノックしようと手を胸の高さに上げるのとほぼ同時に、恒くんが――
「お兄ちゃん、お母さんたちが来いってさ〜」
お兄ちゃんと言った後にはドアを開けていた。
あ、あたしの会話チャンスを返して!!
「ああ。キリのいい所までやったら行くって言っておいてくれ」
「は〜い」
――パタン。
ドアは恒くんの手により閉じられた。
……部屋にも会話にも入るスキがなかった!!
何? この虚しさは。
まぁ、ちょこっとだけ部屋の中は見えたけど……。いやぁ、男の子の部屋なんだね。ゴチャゴチャしてなくて、むしろスッキリしてた。必要最低限のみ! みたいな感じで。
それに比べてあたしの部屋は……何かと小物が飾られててゴチャゴチャしてたな。よし、帰ったら北都くんの部屋みたいにスッキリさせてみよう。……たぶん。……できない。無理。だけど頑張る。
それより、せめてこっちを見てから話そうよ。受験勉強なのは分かるけどさ。あたしのことには気付いてなかったでしょ、今。
そんなことをぐるぐると考えながら、リビングに戻ると、大人たちは何かの話題で盛り上がり、大爆笑していた。
それからしばらくして、リビングに北都くんの登場。あたしは急におとなしくなった。
視点も定まらず、あっちこっちをきょろきょろ――落ち着かない!!
「母さん、何か飲み物」
「自分でやりなさいよ。付き合い悪いんだから〜。うふふふ、それでねー」
酔っているってこともあるかな。お母様はそう言って会話を続行。ものすごく機嫌がいいみたい。お酒ってスゴいな、と思った。
みんなが座っているテレビ付近に腰を下ろそうとしていた北都くんは一時停止。表情を曇らせて腰を伸ばし、めんどくさそうにキッチンへと入っていった。
子供にはちょっと分からない話で盛り上がる大人たち。
で、子供たちは……黙ってテレビを見ていた。
大人の話題には入れないし、だからといって子供同士で話す話題もなく、こういう状態。
「……呼んでおきながら、特にすることないなら部屋に戻りたいんだけど」
北都くんはテーブルに手を突き、立ち上がろうとした。
な、なんだとぉ!?
「だーめーだーめー。お兄ちゃんいないとつまんなーい。最近、全然遊んでくれないし……」
北都くんの腕にしがみつき、止めようとする恒くん。引きとめ役ご苦労!
「あのさ、オレは受験生なの。分かる? 分かるわけないか。遊ぶ暇があるなら、応用力つけたいの」
受験生の主張は妙な説得力があって、納得させられちゃう。これは諦めるしかないのか! まだまともに会話すらしてないのにー。だからといって、どんな話をしたらいいのか、未だに分からないし……。
部屋にこもってばかりいる。受験生だから、日々の積み重ねが大事なんだとは思うけど、やりすぎな気がしてならない。息抜きだって必要だよ。
だったら、明日――絶対にどこかに出掛けなきゃ! 一緒に。
えーっと、えーっと……あー、ここの回りって何があるんだろ?
いや、知らなくて当然か。案内してくれるって話になったのは夕食の時だし。ならば、明日にしよう、という話をするのはどうだろうか。う〜ん、我ながらナイスアイディア!
まずは……、会話チャ〜ンス♪
「ね、この辺りって何があるの?」
腕に恒くんをぶら下げたまま、北都くんの視線はようやくあたしへと向けられた。
「……コンビニ、駅、本屋、洋菓子屋、小学校、交番、パチンコ、その他いろいろ、エトセトラ」
……がびーん。なにそれ。どこにでもあるじゃない、それって。
「僕が通ってる小学校が近くにあるよ〜」
何? 夏休みの小学校に行って、遊具で遊べとでも言うの?
恒くんも一緒に行くとなると、アタックチャンスなんてないじゃない!
「へ、へ〜」
もうだめ。今日は元気なくなった。
――二日目の朝。
鎌井家の客間で目を覚ますと、足元が妙に重かった。
起き上がって確認すると……隣で寝ているおばさんの足がそこにはあった。
昨日、かなり飲んでたからなー。それにしても、寝相が悪い。
布団は裏返っててぐちゃぐちゃ。敷き布団に対して斜めに寝てるし、頭と足に至っては布団からはみだしている。
おばさんを起こさないように布団から抜け出すと、まずは服を着替えた。それから、手鏡で寝癖のチェック……うん、これならセット前に人前に出ても大丈夫。後で洗面所に行ってちゃんと整えなきゃ。
顔を洗いに行く前に、布団をたたんで……おばさん、足が邪魔。ていっ!!
洗面所で顔を洗っていると、玄関の方から「ただいま」という甲高い声――恒くんだ。
こんな朝早くからどこに行ってたんだろう?
あたしは洗面所で普段していることを終えると、ダイニングの方に顔を出した。
「おはよーございます」
「あ、瑞希ちゃんおはよう」
「おはようございます」
「おはよ〜♪」
「……」
すでに鎌井ご一家が勢ぞろいしていた。
あたしの挨拶に、お母様、お父様、恒くんが順に返してくれたのだが、北都くんは……無言。無視ですか!?
いえいえ、こんなところでくじけませんとも。
あたしはテレビ付近に座っている恒くんの近くに座った。
「恒くん、どこに行ってたの?」
あたしが起きた時間にはもう出掛けてたってことになるし、今はまだ七時前。
「ラジオ体操だよ」
あ、そうか。夏休みだもんね。六年生といえば、印鑑持って行って、参加者の体操カードにペタペタと押してたよねー。ここのシステムがそれと同じかどうかは知らないけど。
あたしはあの体操が妙に恥ずかしく感じだして、二年になってからは参加してないけど。
まだ、首にかけたままの体操カードを見せてきて、
「見て〜皆勤賞!」
う〜ん、それは皆勤と言うべきなのかな? まだ夏休みは終わってないけど……今のところは、とでも付け加えるべきだと思う。あたしが意味を履き違えていなければ。
「お兄ちゃんも皆勤賞なんだよね〜」
……北都くんも行ってるんだ。何だか意外。
「恒が引っ張って連れて行くだけだろ。もうちょっと寝たいんだけどな……」
それでも、一緒に行っているあたりがなんとも……弟思いって感じが――はっ! 一番のライバルは恒くんか!!
それでなくても天然っぽくて、そのペースに人をハメちゃう要素が含まれてたりして、やっぱり何よりカワイイ恒くん。
あたしもいつの間にかヤラレてる!?
恒くんの笑顔……いや、存在自体を、このあたしが保証します。
――持っていかれるぞ! 気をつけろ。
本来の目的さえも忘れさせるとは……恐るべし、恒くんパワー。
「芹香さん、今日はうちの実家に行くんでしたよね?」
「ええ。あまりこっちに来ることないから、挨拶にって……」
ん? 何の話?
「そういうことだから、三人でお留守番お願いね?」
三人――恒くん、北都くん……あたし?
せめて恒くん連れて行って……いや、別に、何も申しておりません。思ったけど。ごめんなさい。
おばさんが起きてきたのは、お父様が出勤した後だった。
「じゃ、お留守番お願いね」
――バタン。
……お母様とおばさんは、北都くんたちのおばあさまのお家へと行ってしまった。
この部屋には、子供たちだけが残されている。
北都くんは相変わらず部屋にこもったままだし、恒くんだけがあたしの相手になってくれている。
本来の計画では、北都くんと楽しく会話して、何だかちょっといい雰囲気になって……キャー、いやんw なはずだったのに……現実は甘くなかった。
「――なんだよ。……瑞希さん、聞いてる?」
「あ、ごめん、ちょっとぼーっとしてた……かも」
恒くんの声すら耳に入らない。大変申し訳ない。
「えっと、何の話だっけ?」
最悪だな、こうやって聞き返すなんて。脳の片隅では北都くんワールド展開中だし。しかも絶対にありえそうにないやつ。
ええい、どっかいっちゃえ、この邪念。今、目の前にいるのは恒くんだぞ!
「……もういい」
捨てられた子犬みたいな表情であたしを見ている。ああ、どうしよう、ホントに……。
「そうだ。散歩に行こうよ。この辺りの案内兼ねて、ね? あたし一人で出ても、右も左も分からないし」
そう誘うと恒くんの表情がぱっと晴れた。
「うん、行く! お兄ちゃん誘って来る!」
恒くん……あたしのツボを抑えてるわね。
現在時刻午前十時過ぎ。天気は晴天。絶好のお出掛け日和です。
――気温と湿度を除けば。
みんみんみんみんみんみん。
じわじわじわじわじわじわ。
つっと伝う汗。
刺すような太陽の光。
ムッとする気温と湿度。
夏なんです、こんなものです。年々温暖化してますからね。
マンションのエントランスを出た頃には、汗だくになってました。
「あー、さっきやったところ忘れられそう……」
受験生らしい発言の北都くん。ちゃっかり来ているあたりが何とも……。
「たまには外に出なきゃね〜」
スポーツ少年らしい発言で恒くん。
「……日焼け止め忘れた」
お年頃のあたし。この日差しに肌をさらすのはどうか……なんて今さらながら思う。しかし、薄手であっても長袖なんて着たくない気温。……あちらをたてればこちらがたたず、の状態だ。妥協せねばなるまい。面倒なことをしてはダメだ。現状維持。
「とりあえず、コンビニが一番近い」
とか言ってさっさと歩き始める北都くん。それを追うあたしと恒くん。止まっていたら地面からのムンムンした熱が体を覆うようまとわり着いてくるので、それから逃げるように、北都くんの背を追った。
「こちらが有名な大手コンビニ、駅前店です」
そのぐらい、見れば分かるって。
自動ドアが開くと、心地良い冷たい風が汗ばんだ肌を冷やした。
マンション近くのコンビニ。いや、コンビニは全国に二十四時間営業で年中無休にて展開中なので、珍しくはないです。
用もないのに、ついつい店内をぐるり。どうしてもレジに寄らなきゃ出られない状況になるのは、コンビニマジックか?
「一四八円になります」
ペットボトルのお茶を購入していた。
袋はいらないです。シールでオッケー。
次。
「右手に見えますのが、最寄の駅です」
ええ、知ってますとも。あたしたちはその駅からマンションに行ったんですもの。
「そこのありますのは、洋菓子店です」
見れば分かります。ガラス張りなので店内丸見えです。……客が多いな。それはおいしいという証拠か。ああ、食べてみたいかも。だけど、おいしかったら虜になるじゃない! うーむ、買ってみて食べるべきか、ここは諦めるべきか……。
なんて考えているうちに通り過ぎまして――。
「あちら本屋」
見れば明らかです!!
「交番」
ご苦労様です!
「パチンコ」
どこにでも、年中無休で、相変わらずヒマ人多いね。
駐車場には大量の乗用車。
「ここ、僕が通ってる小学校だよー」
と、なぜか小学校に到着したんですね。
校舎の方には用がないので、自然と行く先はグラウンド方面。
小学生時代によく遊んだ、懐かしい遊具が運動場を囲むように配置されている。
やたらはしゃぐ一応六年生である恒くん。ブランコの方へ走るのであたしも自然とそちらに行ってしまう。
そして、乗っている。ゆっくりこぎだすと、ムンとした空気も少しは心地良く感じた。
ブランコは競争率高い遊具の一つなので、学校の昼休みではなかなか乗れなかったよなー、と二年前まで通っていた小学生の頃を思い出す。
「瑞希さん、どっちが高いか競争だよ〜」
ちょっと待って! そういうつもりはないんだけど……。
ああ、北都くん、待って!
彼は一度呆れた顔をして溜め息をつき、辺りを見回すと、大型遊具が影を作っている方へと歩いて行ってしまった。
ある程度、恒くんの相手をしていたのだけど、やっぱりこの気温と日差しで日なたにいるのはかなりキツい。
影に入って休憩しよう、って声を掛けようと思ったら、数人の小学生がこちらに向かって走ってきた。
「恒〜」
「あ、やっぱり恒じゃん」
「一緒に遊ぼうよ」
どうやら、恒くんの友達らしい。
「うん!」
いや、もう、あたしなんてどうでもいいですか。
こちらを見向きもせず、友達と一緒にグラウンド中央部へと駆けていった。
やっぱりちょっと寂しい。だけど、いい方向に考えなきゃ。だってさ……。
あたしはブランコから降りると、北都くんが座っている影の方へと行き、少し離れたところに腰を下ろした。
……汗ばんだ肌にはりついた髪の毛が気持ち悪い。
カバンからハンカチを取り出して丁寧に、時間をかけてふき取る。
だって、何を話したらいいのか分からないから、こうやって時間でも稼がなきゃ……。
横目で北都くんの横顔を窺うと、こめかみの辺りから汗が伝っていた。
いくらここが影だと言っても、直接、陽が当たらないから涼しい印象を受けるけど、日なたとの気温誤差はないに等しい。
あたしはカバンからもう一枚のハンカチを取り出すと、北都くんに差し出した。
「良かったら使って」
ここから、会話を弾ませるチャンスだ!
北都くんは差し出したハンカチとあたしの顔を交互に見た後、ハンカチに手を伸ばしながら小さく「ありがとう」と言った。
ハンカチを手に取ってしばらくそれを見つめると、少し下を向いて額から汗を拭いた。
……うん、やっぱり何をやっててもカッコイイ。
見とれているとあたしの視線に気付いたのか、北都くんは一度動きを止めてこっちを向いたので、目が合ってしまった。
きゃーきゃーきゃー!!
心臓はすごくドキドキしてるし、じっと見られて不快に思われているかもしれないのに、なぜか視線を外せない。
「……何? ちゃんと洗って返すから」
あ、ハンカチのこと? 洗わなくても結構でs――殴り。
思考がアブナイ方向に行きかけてたぞ!
さっきコンビニで買ったお茶でも飲んで、とりあえず落ち着こう。せっかく二人になれてイイカンジだと個人的には思うし……。
黙って見つめているのも怪しいし、こっちも心臓がバクハツしちゃいそうだったので、鳥みたいに首をカクカクと不自然に動かしながら、カバンに入れていたペットボトルのお茶を出した。
「……あー、やっぱりコンビニでお茶ぐらい買ってくればよかった」
あたしがペットボトルに口をつけるのと同時に、そう言いながら、北都くんは背中からばたりと倒れ(?)大の字に寝転がった。
飲まずに離し、見つめるのは手に持っているコンビニで買ってきたお茶。ちなみに飲みかけ。
あ、飲む? なんて反射的に言いそうになったけど、すぐに思考はあちらの世界へ――。
……それ、ヤバイ。なんていうか、何がヤバイって、あたしがヤバイ。かかかかかか、間接、キキキキキキ――。
いやぁんw
お茶を持ったままではあるが、両手で顔を隠すように覆い、頭を左右に振る、振る、振りまくってシェイク!
――何を考えてるんだ、あたし!!
ああ、何だか痛い視線が頭に突き刺さってるような気が……。
「オレ、帰るけど、お前どうする? 恒と一緒でいいなら、一人で帰るけど」
いや、こんな日差しの中で友達と遊んでる恒くんを待つなんてとてもじゃない。ミイラになっちゃうわ。
「あ、帰る」
振ってた頭を止めて北都くんの方を向くと、もう立ち上がって服に付いた草や砂を払っていた。あたしも慌てて立ち上がり、軽く砂を払うと、さっさと歩いて行ってしまう北都くんを追った。
「恒、オレら先に帰るからな」
「は〜い」
「昼にはちゃんと帰って来いよ」
「わかってる〜」
遊びに夢中の恒くん。ホントに分かってるのか、分かっていないのか、そんな曖昧な返事だった。
それより、注目すべき点は……オレらって、あたしも入ってる? うふふふ。
まぁ、帰りにも会話らしい会話なんてないまま、来た道を戻るだけで……マンションに到着。
静かなエントランス。
エレベーターを待つ男女の中学生。
……エレベーターの密室。ぎゃーす。
いえ、何もありませんでしたが。なぜか北都くんから一番離れた隅っこにいました、あたし。
更には……マンションの一室――鎌井家には、お年頃の男子と女子がふたりっきりって、って、って、って――――!!