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SS6□バレンタインとスケコマシ
「いつも藤宮くんと一緒にいるよね」
「渡さないよ」
宅配業はやってない。
バレンタインは毎年、けっこうな量を貰ってはクラスのモテないくんたちに妬まれる。
これまでは中間に入るような依頼はなかったのに、今年は違った。
二学期から相方になった藤宮孝幸――オレより頭ひとつ背の高い、残念なイケメンくん。モテそうなくせに、発言がどうもそれに見合わないとかでどちらかと言えば男子からは人気だが、女子の反応は微妙。
なのに物好きはいるものだ。昼休みに隣のクラスの女子に呼び止められ、そんなこと言われたらだいたい察しはつく。
「じゃ、呼んでもらえる?」
まぁ、オレを間に入れたがる理由はわかる。彼女はクラスが違う、いくら学年二クラスでも転校して五ヶ月の孝幸は知らない可能性が高い。突然、知らない異性が話しかけてきて構えない男がいるだろうか。孝幸は間違いなく、しどろもどろになる。慣れてなさそうだから。
でもこれまでに一度も貰ったことがないと言っていたから、ほいほい受け取るに違いない。これは面白くない。実に不愉快だ。記録は伸ばしてなんぼ。
「ごめん、アイツ好きな子いるから……」
本当に申し訳なさそうな顔をしつつ、ひどいセリフを口にする。
――オレって悪魔だなぁ。
集合場所の運動場北側で、ドッジボール。そのグループに孝幸もいる。
孝幸に好きな子がいるかなんて知らない。転校してきて半年も経ってないし、何かとオレが一緒にいるせいか、周りとの関わりがまだ深くないせいか、そういう段階ではないのかもしれない。でも、その孝幸を想っていそうな子は知ってる。
よく知る子。
その子が幸せになるためなら、オレは何だってする覚悟だよ。自分の想いを殺してでも、いい人を演じよう。
カノンちゃんは今日、必ず孝幸にチョコを作って渡すはずだ。
オレは……これまでは貰ってたけど、今年はおこぼれが貰えれば万歳だな。期待はしないでおく。
学校帰りもオレはいくつかチョコレートを渡されたけど、孝幸はひとつたりとも貰っておらず、愉快にも程がある。
その日、結局カノンちゃんはチョコを持って来ることはなかった。
「華音ちゃん、好きな男でもできたのかな?」
「知らないよ」
「だって、来ないじゃん!!」
「だから知らないってば」
「これまで毎年来てたじゃん、チョコ持ってさぁ!」
「拓馬ウザい、オレが貰ったチョコでガマンしてろよ」
「卓弥冷たいイヤミな奴!」
中学三年の兄、拓馬も収穫なく、唯一期待していた人物からもついに見放された感じで……なんとも、オレの周りには愉快な人物が多いこと。退屈しないで済む。
□□□
孝幸は予想通り、かのんちゃんからチョコを貰ったらしく、次の日の朝はご機嫌な顔をしていた。それを察し、オレはこう言う。
「オレ、貰えなかった」
拓馬の不機嫌具合をマネしてみる。
「かのんちゃん、毎年うちにチョコ持ってくるんだよ、オレのと拓馬の分。拓馬なんか仰け反りすぎて立ちブリッジしてたよ」
まぁ、そこまではしてなかったけど。かなり面白い具合に話を盛ってみた。
すると孝幸は勝ち誇ったよう、笑顔を滲ませる。これは確定だな。
「その顔……孝幸は貰ったんだ」
「ああ、分かっちゃう?」
「イヤミだね」
「大量に抱えてたやつに言われたくない」
まぁ、そうだな。だいたい、貰えそうなところまでぶっ潰してしまったんだから。
あの子、結局孝幸に渡さなかったみたいだし。ちょっとやりすぎたかな。
でも、そのおかげで感動があるはずだ。
「初チョコはいかがでしたか?」
「嬉しかったしおいしかった」
「お返し、頑張って」
どっちかって言うと頑張らないといけないのはオレの方。誰に貰ったか一部曖昧になってるから。数は数えたんだけど、それとお返しする人の人数が数人合わない。
「卓弥の方が数多いんだからその方が大変だろ」
「全員にキスしとけばいいんだよ」
それが一番楽なんだけど、痛むのは自分の心だけ? いやいや、ほとんどが明らかに友チョコだからそれは無理なんだけど。
まぁ、からかおうと思っての冗談でござるよ。
なのに本気に捉えてしまったのか、孝幸が止まった。
面白いけど誤解されても困るので訂正しておこう。
「まぁ、それはないけど。オレがいっぱい貰ってることはみんな分かってるから、飴とか一口チョコとか配ってるよ」
じゃないと小遣い足りないから。
「去年からキスも採用してるけど。もちろん、同意の上で」
孝幸の反応が面白くてついついからかってそんなことを言ってしまう。
「かのんちゃんにはしてないよ。……何か喋りなよ。顔真っ赤にしちゃって」
「かわいい顔してコイツ! このスケコマシ!!」
「かわいい容姿はせっかくだから活用しないと」
スケコマシときたか。褒め言葉だね。
でも今年のホワイトデーは、本気でキス枠設けようかな。
……しまった、本命からは貰ってなかった。
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2016.03.30 UP