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8■秋季大運動会
二学期に入ってぶっ続けであるのが運動会の練習。教室で机について行う授業は最低限に抑えられ、とにかく授業時間ぶち抜きで行われていた。二学年合同の団体演技もあるし、全校児童がローテーションで運動場、体育館、教室で授業を行っている感じ。途中、教室で授業があっても体操服のままだ。
全校児童が少ないせいか、出場競技が多いような気がするが気のせいか。
「……多いわね、前は徒競走か障害走かどっちかじゃなかった?」
夕食後、学校で配られたプログラムを見せると、母がそう言ったから間違いない。
「それ家庭数だったから貰ってなーい」
と、カノンも寄ってきてプログラムを覗き込む。
「そっか、カノンはこれまで家庭数だったんだよな」
「うん、今日もついうっかり家庭数で手を上げちゃったけど、みんなに違うじゃんって言われた」
ということは、家庭数のプリントを貰わなくなることは、俺には今後も縁がないことなのか。
「お弁当、いっぱい作らないとね」
「あたしも手伝うー」
「なに入れようか?」
「えっとねー」
その辺り、俺はよく分からないので、部屋に上がって宿題を始めることにした。
□□□
まだまだ残暑厳しく、照りつける太陽。練習中に何度プールに飛び込みたくなったことか。
徒競走は並び方と入場、退場の練習、障害走はどういう内容か話を聞いて実際に競技練習。
五年は六年と合同で団体演技。この学校でも組体操だった。
四年のカノンは三年と定番のソーラン節、これも前の学校と同じ。
一、二年は今年流行してるかわいい振り付けで話題の曲を踊る。
全校で入場と準備体操、色別競技の練習。クラスは二つなので一組は白、二組は赤とシンプルに分けられている。俺とカノンは共に一組なので白だ。
昼休みは対抗リレーに出るクラス代表選手がバトン練習中。
それをこの時間は日陰である鉄棒のところで見ていると、カノンが友達と一緒にこちらへ来て、リレー練習をしているトラックの方を見た。
「たっくん今年も代表なんだね」
「毎年恒例か?」
「うん、速いでしょ?」
「ああ、徒競走練習でビビった」
いつもはヘラヘラ笑って人当たりのいい友人だが、練習でありながら徒競走を本気で走っていたあの瞬間のアイツは……真剣な表情で、むしろあの小さな身体からは想像のつかない速さには恐怖さえ覚えた。
そういえば、カノンと追いかけっこしてほぼ全速力で学校に来たことがあったけど、その時も普通についてきててケロッとした顔してたな。そういうことだったのか、と今頃気付く。
誰しも特技というものがある。俺は……自分の特技が何なのかよく分からんが。
「持久走も速いんだよ」
「そうそう、いつも名前出てるよね」
学校だより、学年だより、PTAの広報紙あたりか?
よし、今泉とかけっこや競争、追いかけっこ、鬼ごっこはやめとこう。俺も負けると分かってる勝負はするつもりはない。
そして練習も大詰め。午前中に省略しつつの予行練習、校庭の小石拾い、パネル作成、前日には父兄も参加したテント設営……そしていよいよ運動会当日がやってくる。
□□□
いつもより早く目覚めた九月最後の日曜日。ドアと窓を開けっ放しにしてるせいか、一階からのいい匂いが部屋にまで届いていた。
余りのおかずとか味見を兼ねた朝食としていろいろ貰おう。まずは顔を洗ってから。
「おはよー、うわ、すごい!」
食卓には所狭しといろいろなおかずがこれまでに見たことないほど並んでいて、カノンがそれらを弁当箱に詰める作業中。母さんはおにぎりを製造中。
「手伝いもしないくせに、起きてくるのは早いのね」
と母に嫌味を言われる。
「イベント好きなもので」
なぜかついつい、こういうときは普段なら絶対目覚めないような時間に起きしてしまうものだ。
テレビをつければ見たことない番組が放送されていて、ちょうど天気予報をやっている。
今日の天気は晴れ。最高気温の予想は三十二度、日中は熱中症に注意。雨の降る確率は0パーセント。
六時半に運動会の開催を知らせる煙火が上がると、平静を装いつつも俺のテンションは上昇。すでに体操服に着替えていリビングソファーで待機。
最後に起きて来たセイジさんは……新聞片手に座るところに困っていた。いつもはダイニングの食卓の定位置だけど、今日はテーブルには弁当がずらりと並んでいるせいで座ることは出来ても新聞を広げることもできず、コーヒーや朝食が出てくる気配もない。仕方なく俺の隣に座るがどうも落ち着かない様子だった。
「孝幸くん早いね」
「イベント好きだからね」
「しかし、ココ落ち着かないなぁ」
「いつも向こうだもんね」
と、ダイニングに目を向けると弁当組はラストスパート!
朝食として弁当箱に入り切らなかったおかずたちがソファー前のガラステーブルに並んでいく。
「千恵さん、お箸とお皿と紙コップ、こっちに入れといたよ」
「ありがとう」
「あとお茶だねー」
「助かるわー。私一人だったら絶対忘れ物したあげく間に合わない」
慌ただしくなってる台所ですが男共はリビングスペースでテレビを見ながらのんびり朝食を取ってる。
「清二さんも手伝ってよ!」
「うん、でも邪魔になりそうだから遠慮しとくよ。弁当とか運ぶ係ということで……」
「そうだよ千恵さん、今ここに入られたってちょっと邪魔だよ。孝幸くんなんてもう、空気だよ。邪魔にもならない」
「でも姿は見えるのよ、ただ座ってるのよ。それもそれでムカつくわ」
俺はストレスの発散場所じゃございませんよ!!
お弁当作りを終えた女性陣の休憩を兼ねた朝食タイム。これまでのんびりしていた男二人がようやく動き出した。
「お皿洗いぐらいしてくれるよね?」
とお疲れで機嫌悪そうな母さんに言われて嫌だと言える訳がない。それどころか、あれほどのお弁当作りご苦労様でした! ということで、反論せず黙って素早くシンクで皿洗いを始めた。
俺はスポンジで食器を洗うのはどうも苦手なのですすぐ係で。
□□□
「今日は晴天に恵まれ、秋季大運動会を――」
予行練習では省略されていた校長先生の挨拶が退屈。
まだ何の競技もやってないのに、照りつける太陽がすでに尋常ではなく、熱いを超えて痛い。額に滲む汗が流れた。
『本日は大変気温も高く、熱中症になる恐れがあります。観覧者の皆様も水分補給はこまめにお願いします』
なんてアナウンスが競技の合間に入ってる。
児童席はテント下ではあるが、直射日光が当たらないだけで暑いものは暑い。そんなにプログラムを消費しないうちから水筒をカラにしてるヤツもいた。
人数は少ないので競技の進行は早い。さっき障害走やったと思ってたら、もう徒競走の招集が掛かる。
「いまたく、これは白組優勝かね?」
「今のところ白組優勢だね、ふじゆき」
まだ半分ぐらい競技はあるけど、我ら白組がいい感じで赤を引き離してる。
「二人ともがんばってねー」
四年の児童席から手を振るカノンに俺と今泉は手を振って応える。
徒競走の走者は男女別、身長が低い順、各クラス二、三人ずつの五人一組で走る。さきほどの障害走も同じような感じではあったけど、全く同じ対決にならないように調整はしてある。
まずは女子が走り、男子が走る。今泉は身長が低いので男子の第一走者だった。
「よーい」
――パァァン!
学年が上がると走る距離も当然長くなる。五年はトラック半分より長め。直線でそこそこスピードに乗ってしまうのでカーブで選手が団子状態になりスピードを落とさなければならなくなったり、あるいはもつれてこけたりしてしまう。それを抜ければまた直線。本部席前を全速力で駆け抜けゴールテープを切る、のが理想。
一レース目の今泉は問題なく、ぶっちぎり一位。それから徐々に走者の身長が高くなり、ラスト六レース目にして俺の出番がやってくる。
デカいと手足が長くて一歩の幅が大きいからお得なんて誰が言いました? そんなことは全くありません。
ゴールまでこけずに走りはしたけど結果、五人中三位。ダントツ速くもなければ遅くもない。
まぁ、練習の時から分かっていたさ。順位変わってないし。
五年徒競走が終わり、次の競技は三年の団体競技。
綱引きではあるがただものではない。綱を持って構えてからの引っ張り合いではなく、綱から離れた場所からよーいどんで綱の所まで走ってから綱を引いていくのだ。足が速いものが多い色が勝つのか、息を合わせて綱を引いた色が勝つのか。
各色の六年生応援団がテントの前に出て、旗を振り笛を吹き応援。児童席に戻ってきた五年の応援も加わり、競技は盛り上がる。
俺にとってはほとんどが見ず知らずの人だけど、運動会のこういう一つにまとまる感じ、やっぱり好きだな。
綱引きは赤組の勝利。そして次の競技へ――。
太陽はほぼ真上。時計は午前十一時四十五分。プログラムは予定通り進行し、午前の競技も残すところあと一つ。
もうちょっとでお昼、弁当はもうすぐだ!
午前の競技のシメは、低学年による『赤白対抗リレー』。一年から三年の代表が白組は白と青、赤組は赤と黄で全四色となり、各クラスの代表男子四名、女子四名が走る。低学年はトラック半周。
低学年だけにもつれてこけて、泣きながらも次にバトンを繋ぐ子もいた。
いよいよアンカー。一位はぶっちぎりで青のバトンを握る青タスキの白組。続く二位争いを白組と赤が繰り広げている。応援の声が一層大きくなる。
「いっけぇぇ、白組ぃぃ!!」
「赤! 赤! 赤!」
歓声が一段と大きくなる、二位、三位のゴール。結果は……赤がほんの少しの差で二位だった。
こうして午前の競技は終わり、昼食の時間になる。
ちょっと羨ましく思ってたこともあった。
いっぱいの弁当を囲んでる家族を見てると。
運動場の隅の木陰で二人が弁当を広げて食べれる程度のレジャーシート。
俺はずっと母さんと二人だったから、重箱三段ほどの弁当で、余った分はその日の夕飯。
貰ってもあまり嬉しくないものなのに、バトンのように握りしめて持って帰った参加賞の鉛筆。
母さんは俺が帰宅した頃には疲れて寝てるから、家で静かに運動会の余韻に浸っていた。
所属する色が勝つとすごく嬉しくて、負けるとけっこう悔しい。
前の学校は四クラスあったから四色対戦だった。赤、黄、白、青。
でも今日は……これからはいろいろと違う。
クラスが少ないから二色しかないけど、やたら参加競技が多くて、団体演技、団体競技はこじんまりした印象はあるけど。
セイジさん、母さん、カノン、俺……家族四人でたくさんの弁当を囲んで、好きなおかずを取って食べて、徒競走がどうだ、何年の団体演技がこうだと盛り上がる。
「孝幸、無駄に背高いだけで早くも遅くもないのね」
「無駄とはなんだよ無駄とは」
「バカみたいに食べるわけでもないくせに、どうやって伸びたのかしら?」
「俺は全てがスマートにできてるんだよ、そうに違いない」
自分で言うのもアレだけど。勉強もそこそこ飲み込みは早い自信はあるし、それと同じで食べた分も無駄なく成長に回す設計なのだろう。母さんは無駄だと言うが、どこにも無駄がないじゃないか。お得だ。
「カノン、何位だった徒競走」
「二位だよ」
「ほら孝幸だけ微妙」
「微妙言うな」
「まぁまぁ、結果より頑張ったことを評価してあげようじゃないか」
そうだそうだ! 何でも否定的なのはいけないぞ。やる気失う原因だぞ! 母さんに比べてセイジさんは子供の伸ばし方をよく分かってる。さすが、カノンをこんなにいい子に育てただけのことはある。
ということは、俺がそこそこひねくれてる感じなのは母さんのせいだな。
「そういえば水筒のお茶なくなったんだけど、補充するやつある?」
「あるわけないでしょうが!」
と即答の母に対し、
「あるよ」
とカノンが弁当の入っていた大きな保冷バッグからタオルが巻かれたペットボトルを出してくる。
「凍らせたお茶、保冷材替わりにしてたんだよー」
「母さん、見習うべきだね」
「ま、参りました!!」
「計算通り!」
カノンの先読み技術、素晴らしいです。
「天気悪かったら重いだけで邪魔になるところだったけど、良かった」
と満面の笑み。
運動会の競技者視点じゃないと、気付かないところだよなこれは。
弁当を食べ終わると、各所から友達がお菓子を持って話にやってくる。
今泉も例外ではない。
「孝幸のお母さん、若いねー、いいなぁ」
「そんなこと言ってたら、後で殴られるんじゃない?」
とは口で言ってても、嬉しそうな母さん。
母さんは日中仕事に出てるということもあり、今泉がこうやって対面するのは初めてかもしれない。
「でも、セイジさんと同い年だよ」
「おじさんいくつ?」
「二十五歳」
セイジさんそれはない。明らかにウソだ。バレバレすぎるウソだ。なのに笑顔で即答だ。
「三十五歳だね」
「三十三だよ!!」
「え? 三十三?」
なぜか母さんがそう声を上げて青ざめてる? まさか、自分がもう三十代だということに今初めて気付いてショックを受けたわけでもあるまいし……。
「厄年だ……」
「再婚が厄だったとか言わないよな?」
「それはないけど、厄払い行っとかないと、何かあってからでは遅いわ!」
今にも駆けだしていきそうな勢いの母ではあるが、とりあえず弁当を片づけている。
「気が向いたら行こう」
何かあってからでは遅いんじゃないのかよ!
「孝幸のお母さんは三十三歳か……うち、四十手前だから」
「へぇ……」
でも、今泉には兄がいるらしいじゃないか、そんなもんじゃないの?
カノンの友達も入れ替わり立ち代わりやってきて、手作りのお菓子を振舞っている。
朝からあんなにバタバタと弁当準備してたのに、いつクッキーなんか焼いたんだろうか。謎は深まるばかり……そして今日もしつこくない甘さだ。
俺が出る午後の競技は高学年の団体演技、組み体操と騎馬戦。身長が学年平均より少々高いせいで、サボテンは相方を支える下、三人技もピラミッドも、上ではなく土台の中央だった。決して楽しくはない、辛い。
それに比べ、今泉は身長が低く身軽だということで、我がクラスの男子ピラミッドの頂上にいた。
当然、騎馬戦でも騎馬の前だったり、クラスメイトとの身長差で影響が出ないポジションだった。全くもって目立たない、背ばっかり高くて。
「よし、孝幸、あの赤行こう」
「了解」
今泉は俺が先頭に立つ騎馬の上で、大量の帽子を片手に握りしめ、赤帽子狩りに精を出していた。
……俺って、何だろう。
中学年団体演技はソーラン節と定番で、俺も前の学校で去年、一昨年とやったな、と懐かしく思う。
四年は青い羽織とはちまき、三年が赤い羽織とはちまき姿で踊る。
この学校は人数が少ない分カノンも探しやすく……何度目かの隊列チェンジで白組五年児童席の近くに来た。
途中で目が合ってしまい、カノンはなんとも言えない表情を浮かべつつソーラン節を踊っていたが、姿はすごくかっこよかった。
運動会の最後のプログラムは高学年の代表によるリレー。我が友、今泉がクラス代表の一人として参戦。高学年は全走者がグランド一周を走る。早い走者は一気に引き離すか追い抜いてくる。
まずは女子の部、四年からスタート。赤組一位でゴール。二位はギリギリ白。続いて男子の部。すでに掲示されていない各色の得点。できる限り自分のチームに点が入れば……誰もが思ってるはずだ。
「いけいけ赤組!」
「白、がんばれ!」
「赤! 赤! 赤!」
「白! 白! 白!」
児童席の応援も熱い。
バトンが繋がる。追い抜く。距離を詰める。
今泉が最下位でバトンを受け、走り出した。
体育の時も徒競走も、リレーの練習さえも本気ではなかったのか、その異常な速さに度肝を抜かれた。
児童席前を走り抜けた時の表情も、普段のあいつからは想像もできない凛々しさというか何というか。
今泉が走った一周で白組は首位に躍り出た。
そのままの勢いで六年、そしてアンカーへ。ぶっちぎり一位でリレーを終えた。
リレーの興奮が冷めないうちに閉会式。いよいよ結果発表される。
「成績発表です。千の位を入れてください」
得点係により、放送に合わせて千の位から得点板に表示されていく。百の位、十の位……。
ここで白組が沸いた!
「白組1564点、赤組1558点、本年度の優勝は白組、準優勝は赤組です」
六点差とはいい勝負だったな。
優勝旗授与。校長の話、PTA会長とかいうおっさんの話。
運動会が終わった。
あっという間にたたまれていくテント。消えかけたグランドの白線。さっきまでの熱気が嘘のように静まり返って、どこか寂しい運動場。
帰宅すると、母さんは空の弁当箱を洗うのに大忙し。カノンがすぐ手伝いに入った。セイジさんも撮影に駆け回りすぎたのか、リビングのソファーで寝ていた。
「今日は頑張ったから夕飯食べに行こうって」
「ほんと? やったー!」
朝から弁当を作り、炎天下にさらされ、走って踊って、撮影に奮闘して……ご褒美も兼ねてるようで、結局は総合的に疲れてるからそうなったんだろうなと思ったが、どこの家も同じような感じで、回転寿し、ファミレス、バイキング……どこの店もいっぱい。ようやく意を決して入った店でもずいぶん待たされた。
「四名でお待ちの藤宮さま、たいへんお待たせしましたー。席へご案内します」
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