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7□カノンとお風呂と女の話
「お父さんと孝幸くん、ちゃんと話できたみたいだね」
「ええ、もっと早くにやっとけば良かったかな」
お父さんと孝幸くんがお風呂から上がった後。
千恵さんと並んで入ってる湯船。ナイショ話や男たちに聞かれたくない話がある時は、千恵さんと一緒にお風呂へ入って話してる。
「最初にこのこと話したとき、お父さん無理だよーとか言ってた?」
「うん、言ってた。何話したらいいか分からないからってすごい慌ててた。だからもう、今日は強制的にそういう方向に持って行ってみたけど、ちゃんと話できたみたいで安心した」
ふぅ、と息を吐きだす千恵さん。
一緒に住み始めてもう一か月を過ぎたのに、お父さんはなかなか孝幸くんと距離が縮められないままだった。どうもお互いに気を遣いすぎていたように見えてたけど、さっきようやく腹を割って話ができたみたいで、お風呂を上がってからもリビングで話してた。今までだったら孝幸くんはすぐ部屋に上がってたのに。
「いつも夕飯の準備や洗濯物取り込んでたたんでくれたり、ありがとね。でも、遊びに行ったりしてもいいのよ?」
「大丈夫だよ、好きでやってるんだから。それに遊びに行きたいときはちゃんと行くよ」
習慣はすぐには抜けなくて、千恵さんに悪いかなと思いつつも、ついつい家事をやってしまう。
「孝幸に手伝わせてもいいのに。まぁこれまで手伝いらしいことはしたことないから洗濯物の取り込みぐらい」
「ダメ、絶対ダメ」
千恵さんと孝幸くんがこの家に来て間もない頃の事件を思い出し、断固拒否しておく、それだけは。
「ああそうか、夏休みに……」
対策として自分の下着は部屋に干していたのだけど、雨の日だとなかなか乾かない。なので結局、ピンチハンガーの真ん中に、タオルで囲んで隠すような感じで千恵さんが干してくれるようになった。
「学校での孝幸の評判はどう?」
「あたしの学年だと背高いねとか、カッコイイねとはよく言われるよ」
「女子から?」
「うん」
「男子は?」
「男子は……別に話題にしてないかな」
どうも同性の転校生情報にはあまり興味がないみたい。学年も違うし。
「カノンちゃんは何か変なこと言われたりはしてない?」
「あたし?」
きっと、お父さんの再婚とか連れ子とか、そういうところを千恵さんは気にしているみたいだった。
「大丈夫だよ。友達はウチの事情分かってくれてるから」
「だったらいいんだけど」
「お母さんとお兄さんが増えて良かったねって言ってくれる子もいるよ」
何よりそれはあたしが一番嬉しかったりする。誰が何と言おうと、大好きな千恵さんと孝幸くんと一緒にくらしてるんだから。
千恵さんは安堵のため息をついた。
当人、家族の同意があって一緒になったけど、大人はやっぱり周囲の目が気になるんだね。
「さ、のぼせるといけないから、先に上がって」
「はーい」
今日もやっぱり、ひとつだけどうしても聞けなかったことがある。
――この先、家族が増えることはある?
増えるのであればそれは喜ばしいことのはずなのに、なぜかどこかでそれがイヤだと思ってる自分がいる。
お母さんが死んだから怖い? ううん、もっと違う意味で。
半分ずつの家族が一緒になったこの家に、お父さんと千恵さんの血を受け継ぐものに勝るはずがない、あたしと孝幸くん。何かを失う気がした。何かは分からないけど、直感?
だからこのままがいい、このままでいい。
それってあたしのワガママかな?
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2014.04.09 UP
2016.02.25 改稿