■TOP > 紅葉−コウヨウ− > 光陽―コウヨウ―もうひとつの『コウヨウ』4
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車で雄飛のアパートまで来たのはいいが、いなかったらどうしよう、なんて考えはじめた。あと数歩で雄飛の部屋。
しかしたまたまドアが開いていて助かった。
「ちょうどよかった!」
玄関ぎりぎりの大きさの布団セット。雄飛の姿は当然見えず、向こうからもオレは見えない。
「なにやってるんですか?」
「いや、父さ……店長命令で、布団の差し入れです。必要だけど運ぶのに困るだろうからって」
なにもない部屋にとりあえず、布団セットを置いた。
「まだ買い物行くかい?」
「ええ、まだ食器とか日用品も……」
「じゃ、連れてってやるよ。車で行った方が早いだろ」
「でも、光陽さん、仕事は?」
「今日は雄飛の買い物サポートがオレの仕事。店長命令でね」
雄飛は困った顔をしていたけど、
「ありがとうございます、助かります」
オレの運転で一緒に買い物に行った。
そして、お節介なほど、一人暮らしに必要な物をアドバイスした。
「まずは風呂から、風呂桶、ナイロンタオル。掃除も必要だから洗剤にスポンジ。しまった、シャンプーや石鹸を忘れていた」
「トイレは、トイレットペーパー、掃除用の洗剤、ブラシ。芳香剤はいるか?」
「台所、食器洗剤、スポンジ、水切りカゴ、食器は箸、スプーン、フォーク、コップ、茶碗、汁碗、平皿……」
「結構必要なんですね」
「うん。なくなったら補充もしないといけないしね」
百円ショップなのに、すごい量にすごい金額になっていた。
時々、雄飛は仕事に出ていたし、アパートに寄ってはいるようだったが、なかなか家を出て一人でアパートに住まなかった。
徹底的な準備といい、かなり慎重な性格なのだろう。
ただ、一人でいるとき、辛そうな表情で何か考えてる雄飛は見ているこっちも辛くなった。
ゴールデンウイークを境に、雄飛は変わった。何と言うか、吹っ切れたのか、何か。よくわからないが、余裕さえ感じるようになってきた。
雄飛が入社して五年目の春。休憩室で一緒になった雄飛から付き合っている彼女と結婚すると聞いた。
「え、彼女いたの?」
むしろ驚いた。そんなそぶり全くなかった。気づかなかっただけか?
「まあ、彼女、県外の大学に行ってて、卒業して戻ってきたので……」
「実は同じ大学に進学するはずだったというありがちな、」
「そうです」
なんて単純な。自分が進学できなくなって、追いかけもせず遠恋。地元で頑張っていたのか……。
「ちょっと、光陽さん!?」
「知らんうちに彼女作って、オレより先に結婚するなんて!!」
「気づいてなかったの、光陽だけだぞ」
父が少し冷たい目でオレを見ていた。
お、オレだけ!?
なぜか目から汁が出てたよ。
でも、よかった。雄飛が幸せになってくれるなら……。
「光陽は彼女、いないのか?」
「いたら仕事帰りに会ったり、朝帰りしたりするよ!!」
辻村光陽、二十六歳、彼女募集中です。
それからそう経たない頃、雄飛は自身の呪縛から逃れるように、彼女の姓になった。
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2013.07.23 UP