■TOP > 紅葉−コウヨウ− > 光陽―コウヨウ―もうひとつの『コウヨウ』3
■3
雄飛がバイトに入って、光陽が進んで世話係になった。
腹違いではあるが兄弟の二人。見るはずのなかったシーン。複雑なのは真実を知る者だけ。雄飛は知らない。そして、今後も知ることはない。
新人歓迎という名目で、私は雄飛を食事に誘った。本人に要望を聞くとバイキングがいいと言ったので、市内の店に一緒に行った。
やはり育ち盛りなのか、目を疑うほど彼は食べた。バイキングじゃなかったらと考えるのが恐ろしいほどに。
でも、理由は違うようだった。
「食べれる時に食べておかないと……いつ、食べれなくなるかわからないし」
一体どんな生活をしているのだろうと不安にさえ思った。
けれど雄飛は、職場では生き生きとしていた。
面接の時に見た表情が嘘のようだった。
そしていつまでもここにいてくれるような気がしていたが、そんなはずはない。
「大学に進学しようと思ってます」
彼はいずれ、ここから去る。短い間でも、雄飛は知らなくても、一緒に過ごすことができてよかった。
高校卒業して一週間、雄飛はバイトを辞めた。
しかし雄飛は、戻ってきて、私に頭を下げた。
「勝手ですみません。また、バイトでもいいので雇ってください」
大学に進学すると言っていた雄飛に何があったのだろうか?
理由を聞いて、彼の親にはただ呆れた。そして、その原因の根本である自分を攻めた。
「何かと親の名が必要になります。拒否されたら、いくら合格してたって手続きが進みません。就職して、家を出ろと言われました」
私が雄飛にしてやれることは、このぐらいしかない。
「……正社員として、ウチで働くか?」
雄飛は驚き、目を見開いた。
「正社員って、」
休憩室から出てきた光陽も話を聞いていたのか、入ってきた。
「先のことを考えて、バイトのままだといろいろと不便だよ。店長、社宅という名のアパートを手配しないとね」
「ああ、そうだな」
「アパート入れるまで、ウチに来てもいいぐらいだし、ね、店長」
「光陽……」
「今、進学の準備とかで空きないんじゃない?」
「それは大学付近だけだろ」
ついつい親子で話を進めていると、雄飛は複雑な表情で言った。
「……ありがとうございます」
それからすぐ、雄飛と一緒にアパート探しに出掛けた。
職場近くの1Kアパートに空きがあったので、とりあえずそこを借りることにした。
それから、ないとなにかと不便な携帯の契約にも行ったが、未成年の雄飛にはいろいろと手続きが面倒だったので、私の名義で契約し、使用料は毎月、給料から引くということにした。
ついついそこまでやってしまったが、雄飛には迷惑だっただろうか。
アパートに入れるようになっても雄飛は自宅から通い、少しずつ準備をしているようだった。
しかし、自転車では買えない必要なものもある。
「光陽、今日は雄飛の買い物を手伝いなさい」
「とりあえず、布団とか?」
って、ちゃっかり購入済みか。
「この前、泊まりに来るかと思って買ってたのに、来なかったからさー……」
喋りだすと長そうだったので、さっさと家から出した。
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2013.07.23 UP