TOP > 紅葉−コウヨウ− > 光陽―コウヨウ―もうひとつの『コウヨウ』2


  □2




 新しいバイトが面接に来た日。会った瞬間、他人じゃない気がした。
 今までにもそういう勘違いは何度かあったから、今回もそうだと思った。
 寂しく過ごした幼少期。父が言った一言がオレの心の支えになった。

「母親の違う弟がいる」

 兄弟がいなくて、父さんは仕事で遅かった。家ではいつも一人だった自分に、弟がいるんだって。どこかに、いるんだ。
 ただただ、嬉しかった。いつかどこかでばったり会って、感動の再会なんてシーンを思い浮かべたこともあるが、実際には一度たりとも会ったことはなく、少々、非現実的な妄想の激しい人間になっていた。
 こうなったら、実際の血の繋がりなど気にせず、アレを弟にしてしまおう。
 脳内設定完了。



「ただいま」
 3DKの県営アパートの居間になってる六畳の和室。夕食のコンビニ弁当を食べながら妄想してたら、父さんが帰ってきた。
「おかえり、お疲れ様」
 父さんもコンビニの袋を持って帰ってきた。テーブルにそれを置くと、袋からビールとおつまみとカップ麺を出して、まずはビールを開けて飲んだ。
 オレは何も言わずにカップ麺を開けて湯を注ぎ、父の前に戻す。
「ありがとう」
 弁当の続きを食べる。
 父さんは懐から紙を出して広げ、ため息を漏らした。紙を覗き込むと、面接に来た高校生の履歴書だった。
「秋野雄飛くんの履歴書見て、何でため息? ホントは採用したくなかったとか?」
「違う! あの子を見て、何も感じかったか?」
 ただ事じゃない。いつも穏やかな父さんが声を荒げるなんて。
 感じたことといえば、たまにある、他人じゃない感じ。
「あの子は……」
「例の腹違いの弟、だね」
「……気づいていたのか?」
「いや、妄想」
 父さんは首を横に振りながら頭を押さえ、またため息を漏らした。
「……冗談じゃなく、ホントに?」
 父さんはまたため息をついて深く頷いた。
 ……ってことは、本当に、腹違いの弟。
「運命だね、ですちにー! それとも仕組まれた再会?」
「多分、たまたまだ。とりあえず、私のことは黙っておけ」
「……オレは兄だと言うなってことだね」
 父さんはそうだ、と首を縦に振る。
「家族に嫌われているそうだ。早く自立したいと思うほど。……私のせいだ」
 履歴書をたたんで封筒に戻すと、割り箸を割り、カップ麺の蓋を開けて掻き混ぜ、一口目をすすった。

 感動の再会(?)には程遠い、複雑な事情。その中心円に片足ほど入ってるだけのオレも、自分なりに複雑な思いだった。

「……お兄ちゃんだよって、言いたかったのに!」
「お前の父親のせいだって、叩かれないか?」
「嫌われちゃ、もともこもない。おせっかいなよい先輩にでもなろう」
 そうやって見守るのも悪くない。やっと弟に出会えたのだから。


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2013.07.23 UP