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  【7】


 ――一月三日、月曜日。
 確か休みだと言ってた気がしたのだが、父さんは今日もいつも通り出勤した。
 昨日、久しぶりに車を運転して、あまりの便利さに思わず興奮。こっちに帰って一週間が過ぎてようやく、車を乗り回し始めた。
 早速ドライブがてら、午前中は咲良と買い物に行き、昼からジュースやお菓子の差し入れを持って病院へ行った。
 ガラス張りの新生児室には、最近生まれた赤ちゃんが十人ぐらい。
 泣いてる子のとなりでスヤスヤ眠る神経のずぶとい子とか、ばっちり起きてる子とか、たまに体がビクっとこわばる子とか、見てたらなんだか面白い。同じ時期にこれだけ生まれるものなのか。病院はここだけじゃないし、実際にはすごい数だな。
「ああ、かわいい」
「あれが昨日生まれた愛里の子だよ」
「欲しい」
「え?」
 俺は驚いて咲良の方を向くが、彼女はガラスの向こうの赤ちゃんに釘付けで、目が変に輝いている。
「あー、しまったなぁ。薬学部志望じゃなくて、お母さんになりたいって言えばよかったかなぁ」
「はぁ?」
「高校三年のとき、大学、どこいくのって話のとき」
「ああ」
 随分前の話だな。だけど俺が今の学校に進学を決めたきっかけになった、咲良の夢のことも知ったあの話。何も考えてなかった俺が、彼女と同じ夢に向かうことを決めた。あの日があったから、今があるようなもの。なのに……。
「お母さんになりたいって、言ってたら、お母さんにしてくれた?」
 咲良が暴走してる?
「ちょっと、待て、落ち着け」
 俺も落ち着け、落ち着けっ!!
 まだ学生だぞ。まだ二年、国家試験を受けるために六年学校行かないといけないのに、脱線できんだろ!


「おー、お腹がなーい」
 咲良はお腹がすっきりした愛里に驚く。俺も昨日はそんなこと気にしてる余裕がなかっただけに、生まれた子が入ってたことが不思議でならない。ドコニドウハイッテタノ?
 病室は個室で、結構広いし、洗面、冷蔵庫、トイレもついてる。
「でも、服の下は空気が抜けてのびのびの風船みたいですよ」
 と、愛里は苦笑い。うわ、若いのにかわいそう。
「でも、いいな。好きな人との子供……」
 窓の外、遠くを見つめる咲良。どうしちゃったんだよ、ホントに。
 なぜか愛里に睨まれてる。
「な、何だよ」
「ちょっと、気が利いたこといえないの?」
「はぁ? 何が」
「……鈍感!」
 ええ!?

 いや、だってさ、まだ……。


 帰りの車内。咲良はあれからずーっと遠くばかり見つめていた。
 ……まだ、早いと思うんだけどな。
 まあ、父さんや愛里に比べたら遅いだろうけど。
 いずれは、そうなればいいと思ってる。
 咲良と……。
 まだ、いつになるかわからないのに、約束って、していいのかな?

 信号が赤になった。

「咲良……」
「……ん?」
「いつになるかわからないけど……」
「うん」
「……一緒に」
「うん」
「ずっと、一緒に……」
「うん」
「……っ! ……ちゃんと聞いてる?」
「うん、ちゃんと聞いてるよ」
 目が合った。
 俺の、言葉の続きを待ってるような……そんな目で俺を見てる。
 まっすぐに見つめてくるから、たじろいでしまう。
 でも、いつまで経っても俺の口からは言葉は出てこない。咲良が目を逸らした。
「……青になったよ」
「……あ、ああ」
 車を発進させた。

 すっかりタイミングを逃してしまった。
 咲良も、何も言わないまま、彼女の自宅前に到着してしまう。
 しばらく沈黙。そして、
「ありがと、じゃ、また」
「……うん、また」
 気まずさを残して、その日は別れた。


 家に帰ると、一人だった。
 ……そうか。今日の夕飯は父さんと二人か。
 昨日はばたばたしてそんなことを考える余裕もなかったけど……久しぶりだな、父さんと二人なんて。前は当たり前だったのに。
 突然、メールが入って驚く。
 父さんからだ。仕事が終わったら愛里のところに寄って帰るから、八時ぐらいに帰る。家でご飯食べる。と書いてあった。
 のんびり作るか……でも、どうしよ。
 咲良が、引っ掛かってる。


 食事の準備をして、風呂の準備も終わった。父さんの帰りを待ってた。

「ただいまー」
 父さんが帰ってきた頃には、悩みすぎて潰れてた俺は、おかえりと言う元気もなかった。
 テーブルに伏せてる俺を見て、父さんはすぐに駆け寄ってきた。
「どうしたの、ヒロくん。具合悪い?」
「父さん……」
 俺は顔も上げず、伏せたまま言った。
「何?」
「学生って、結婚していいの?」
「急にどうした、赤ちゃんでもできちゃった?」
「……違う」
「じゃ、赤ちゃん欲しくなった?」
「……欲しがられた、気がする。お母さんになりたいって」
「あらまぁ」
「学校がまだ四年残ってるし、国家試験だって受からなきゃ意味がないだろ」
「そうだね。そのために勉強してるんだから。別に、大学生でも結婚していいと思うよ。実際、してる人だっているし、自分がしたい時期にすればいいじゃない」
「今はその時じゃないと、思う」
「……あまり煮え切らない態度だと、そのうち愛想つかされるよ」
 そんなんで、嫌われるの?
「じゃ、何だよ」
「ヒロくんはどうしたいの? 今や近い未来ばかり考えないで、もっと先の未来、どうありたいか。咲良ちゃんの答えは、もう聞いたんじゃない? でないとそんな話、しないでしょ?」
 わかってる、わかってるそんなの。
「ヒロくん、ご飯」
「俺、食べたくないから自分でやって」
 俺はのろのろと立ち上がり、自分の部屋に上がった。
 倒れこんだ布団。ついこの前も咲良と……。
 寂しい。
 家に帰った日からずっと、そう感じてる。
 一人の部屋は、寂しい。
 向こうでは、いつも一緒だったから、それが当たり前になって、だから考えることを後回しにした。
 今すぐじゃないけど、俺はこれからもずっと、咲良といたい。だから……いつか、




  ■■■


 咲良は湯舟に浸かりながら、考えていた。
 紘貴に悪いことをしたな、と思いはじめていた。彼にも彼なりのやり方というものがある。なのに私は、答えを急ぎすぎた。
 想いは同じだと思っていたのは、過信だったのかもしれない。
 だいたい、紘貴は昔から女の子にはそっけなかった。あの頃よりずっとましだ。
 一生懸命言葉を探してた。ストレートに言えないだけ。
 明日、ちゃんと謝ろう。後のことは、後で、一緒に考えよう、紘貴と……。
 口まで湯に浸かり、ブクブクと息を吐いた。

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2011.12.12 UP