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■9−愛里
進学希望のプリント。
何も書かずに提出したら、放課後、先生に呼ばれた。
「そろそろ進学したい学校のこと、考えないと! 吉武さんの成績だと、商業か、中央高校と、滑り止めに私立の……」
ちゃんと言わないと、行かない学校の入試受けることになっちゃう。
「受けません。高校には、行きません」
「……え? じゃ、就職するの?」
「いえ……」
困ったな。ホントのこと言っても信じてくれるかどうか……。
「け、結婚します」
「は?」
ああもう、いやだー。顔が熱いよー。
先生の手が額にぺたり。
「……熱があるんじゃない」
冗談じゃないのに。
「あとで家の方に電話してみます」
「……はい」
あの人たち、あたしのことなんてどうでもいいのに。なんで分からないのかな。戸籍上、親なだけなのに。
先生が言った通り、夕方に電話があったので、母に子機を渡した。
「学校の先生から」
あんた、何かやったの? と言いたげな顔をしつつ、電話には母親面で出る。
「はい、吉武です」
普段の声と違って、声のトーンが高い。
何の話をするのか、その場で聞いていた。
「進学? 別に進学についての話は……そうです。だから、進学も就職もしません」
先生との電話が終わると、子機をあたしに渡してきた。
「結婚するんだから、進学も就職もしないのよね?」
「……うん」
それだけ聞いたきり、会話は途切れた。
聞く順番、間違えてる。
二学期終わりの三者懇談。母親面する同居人。先生と楽しそうに話してる。
「相手の方、どんな人なんですか?」
母にそんなこと聞いたって、知ってるわけがない。
あたしは母も知らない裕昭さんのことを口にした。
「三十六歳の会社員で、十七歳の息子さんがいらっしゃる方です」
先生と母は顔を見合わせたのち、驚いた表情であたしを見た。
「三十六?」
「十七歳の息子?」
よし、あたしの勝ちだ。何だか意味不明だけど。
でもまだ、息子さんには会ったことないんだよな。
「ヒロ……紘貴に会いたい?」
「はい、会ってみたいです」
しかし、ヒロさんは嫌そうな顔をした。
「僕にすっごく似てるんだよ、見た目だけ」
「はい」
「愛里の二つ年上だよ」
「はい」
「若い者同時、意気投合しちゃったら、破談ですか?」
「え、やだな、そんな心配ですか?」
「いや、それだけじゃない。ヒロくんは頭はいいし、家事もできて、どこに嫁に出しても恥ずかしくない子だけど、少々口が悪い。きっと僕をロリコンだの犯罪者だの言うに違いない」
「そうなんですか」
「……ロリ……そ、そうなるのかな……」
あ、ものすごく落ち込んでる。
「そういえば、ヒロくんには何も話してなかった……よし、このまま黙っておいて、脅かしてやろう」
「いいんですか?」
「だって、絶対反対すると思うし」
です……よね。
でも、いきなりで仲良くできるかな?
そして三月。あたしは中学校を卒業した。
それから程なく、両親が離婚し、母が家を出た。
父は相変わらず家に寄り付かず、たまにひょろりと帰ってはきていたが、あたしの様子を伺うわけでもなく、結局は一人でいるようなものだった。
だから、ヒロさんと一緒にいる時間がとても大切で、幸せだった。
そんなある日、
「仕事しない? 家でできる内職なんだけど、そんなにもうからないけど、時間潰しと小遣い稼ぎにはなるし」
ヒロさんの知り合いの人が、内職をしてくれる人を探してるとかで、あたしに言ってくれた。
「あの、車の配線の組み立て? どんな仕事か、話だけでも聞いてみて、できそうならやってみたらいいし」
「……そうですね」
数日後、家に見知らぬ男がやってきた。
「吉武くんの紹介で来ました、佐藤電子の佐藤です」
吉武くん? あたしも吉武さんです。ヒロさんが紹介してくれた内職の人だ。
「どんな仕事か、聞きました?」
「えっと、車の配線って……」
「そうです。こんなの、作ってもらいます」
と、出来上がったものを見せてくれた。
四角いプラスチックに色が違う線が五本さしてある。
これをこうして、どうこう、と丁寧に説明してくれた。単純作業の繰り返しになりそうだけど、難しくないし、何だか楽しそう?
「どうですか、できそう?」
「はい、やってみます」
あたしは、七月いっぱいという期限付きで佐藤電子さんと契約した。
その日から、仕事を始めた。
最新は一つ作るのに時間が掛かってたけど、時間も忘れて没頭していた。
ヒロさんからの電話で我に返る。
もうこんな時間。電話を終えると、急いで片付けて、身嗜みを整える。しばらくすると、ヒロさんが家に来た。買い物袋を持って。
夕飯を作ってくれて、一緒に食べた。でも、ヒロさんは少なめ。家に帰ったら、息子さんがご飯を準備してるから。
あたしも料理ぐらい作れるようにならないと……。
練習がてら自分の食事を作るけど……おいしくない。失敗ばかりで上達しない。料理の本を見てもよく分からない。教えてくれる人がいないと、やっぱり無理かな?
と、ついつい、コンビニやスーパーのお弁当やお惣菜に頼る毎日。
黙々と仕事をこなすだけ。
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2012.01.10 UP