■TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【65】
65 二年の三学期
三学期が始まり、久しぶりに見る顔多数。伊吹もその一人だった。
「おはよう。元気?」
「うん、まぁ少し風邪ぎみだけど」
と鼻声で答え、鼻をすすった。センター試験前なのに……。
「あまり無理しないで、早く治せよ」
「……うん」
大志くん見に行くときに何か差し入れとこう。しょうが湯とか。
次の週には風邪も治ったみたいで、また野球部に顔を出していた。
土日は試験会場になってる大学でセンター試験だとローカルニュースで報じていた。
慌ただしく一月が終わり、二月になると大志くんがピリピリとハリセンボンのようになって、下手に声を掛けると目からビームが発射されそうな勢いで睨みつけてくる。高校入試はここまで人の人格を変えてしまうのか、それともこれが真の姿か……。たとえ真の姿であっても、あの人の弟だ。別に驚きはしない。
「入試、いつだっけ?」
「私立はもう終わって、合格しました。県立が三月です」
ああ、言葉にもトゲが……。
「どこの高校受け――」
「姉と入れ違いになるつもりです」
制服は使いまわせないけど、と補足。
ってことは、僕の後輩になるのか。やっぱ野球部に入るのかな。――と聞こうかと思ったが、そんな雰囲気じゃなかったから、合格したら聞こう。
二月半ばの放課後。なぜか呼び出された校舎裏。
差し出される平たい包み。
「二年になって、同じクラスになって、東方くんが……えっと……」
こ、これは、あ、今日はバレンタインか。
「好きです、付き合ってください!」
彼女がいることを公表してない僕が悪いのか? 別に隠してるつもりはもうないんだけど、誰も気づかないしなぁ。
しかしできれば、傷つけずに断りたい。けど、
「……気持ちは嬉しいんだけど……ごめん」
クラスメイトの女子、川上の顔は見れなかった。胸がチクリと痛む。
顔を伏せてここから走り去る川上。追ってはいけない。
傷つけずに断るなんて、無理だ。
戻り辛いな、教室。しばらくここで時間潰すか。
遅れて部活に参加すると、デリカシーのない男が一人、僕に寄ってきた。
「お前、川上とどこ行ってたんだ?」
触れられたくないことを……。
「バレンタインだもんな、もらったのか?」
「いや……」
コイツに全部話す必要はないな、相手のこともあるし。でも、あまりあやふやな受け答えすると、とんでもないことをしかねない。
「断ったから、それ以上聞くな、詮索するな。もしやったら……桜井さん呼ぶから」
新藤は大袈裟に震え、
「そうか、そうだよな」
足早にポジションに戻っていった。
まだ野球部の監督(?)をしている伊吹と部活帰りに一緒になった。
「今年も頑張って手作りしてみました」
献上するように高く掲げる。
「うむ、おいしくいただきます」
いつもと立場が逆になった感じだけど、ありがたく受け取る。
しかし、そんな場面を目撃した新藤を筆頭に十川は、
「毒殺か……」
「卒業する前に仕留めときたかったんだろう。野球部から逃げた東方を」
まてまてまて! なぜそういう方向に捉える、お前ら。
伊吹は新藤と十川を追い回していたのは言うまでもなく、捕獲され、失敗作を口に押し込まれていた。
「天空が食べる前に、お前が毒味しろ!」
「……あ、おいしいです、桜井先輩」
「義理でくれてやる、ありがたく思え!」
「ははー。ありがとうございます」
ひれ伏している二人。ほんとに、伊吹は……なんと言うか、好かれてるのか、意地悪なのか、女王様なのか、鬼畜なのか、ドSなのか……褒め言葉が見つからない。
もらった包みを見ると、包装紙がグシャグシャだ。細かいことは苦手そうなのに、納得できるまで何度も包み直したのかな。
でも、このお返しをする頃、三年生は卒業した後だ。
二月。もう、月の半分は終わってる。
練習を重ね、予行練習。
そして三月一日――卒業式当日を迎えた。
卒業生の入場。
卒業証書、授与。呼ばれる卒業生の名前。
お世話になった人たちが呼ばれる。
青木創――サッカー部に入ったときから、お世話になった、面白い先輩。
野球部の前キャプテン、野球部員。迷惑かけたけど、分かってくれた――仲間。
桜井伊吹――出会い、特別な感情、別れ、諦められなかった想い。今日まででもいろいろありすぎた。きっと、これからも……。
長い来賓の言葉。
卒業生退場。
式が終わる頃には尻が痺れてた。
在校生が生徒玄関から校門にずらりと並んで、声を掛けながら卒業生を送り出す。
知っている顔があると足を止めて言葉を交わす先輩後輩。
僕の前でも何人か足を止めた。
元野球部員。がんばれよって。
青木さんは抱き着いてきた。
「毎日、天空に会えなくなるー、いやだぁぁぁ」
本気で言ってないのはわかるが、最後にそれはないだろ。
こんな場面を見ていた人たちががざわつく。いるんだ、ああいう人。ホンモノは初めて見た。とか、得に女子からの視線が痛い。中に川上もいて、何だか納得したように頷いていた。違う、違うんだ!!
伊吹はただ、こちらを見て微笑むだけ。ここで掛け合う言葉はない。
卒業生を送り出すと体育館の片付け。
もう昼を過ぎてたから空腹で、何度もお腹が鳴った。今日は午前中日程だから弁当持ってきてない。
下校して向かったのは駅近くのファミレス。
テーブルには空になった皿が人数分+α。
「すみません、遅くなりました」
席にいるのは先日のドーナツ屋と同じ、中学同級トリオ。
「別に待ったって思ってないよ。もう店から出たいぐらいだけど」
「待ってください、まだ昼ごはん食べてない!」
ここでタイミングよく腹が鳴り、笑われた。
腹が減りすぎて、メニューの写真、全部がおいしそうで、なかなか決められなかった。横から早く決めろとせかされた。
そして、注文したハンバーグの和食セットとステーキの和食セット、シーザーサラダをぺろりとたいらげ、ドリンクバーもそろそろ飽きていた三人を唖然とさせた。
卒業記念だとかで、ゲーセンでプリクラを撮り、カラオケで盛り上がり、夕方、三人と別れた。
明日から、もうあの二人を学校で見ることはないのか……。
制服の後ろ姿は、今日が最後。
見えなくなるまで、三人を見送った。
少し寂しくなった学校は、少々はっちゃけぎみの生徒が増えた。が、三月二日から容赦なく、学年末考査が始まる。二年最後だが……面倒なことにならない程度に答案を埋め、無事クリアした。
そう経たず、高校入試、合格発表。
「受かりました、受かりました!」
大志くんから興奮ぎみの電話を受けた。
「おめでとう。四月からは先輩後輩だな」
ストレスから解放され、彼はまた、ぽわ〜んとした雰囲気に戻っていった。次はいつ覚醒するのだろうか。
卒業生から遅れること三週間強。
修了式の日を無事に迎え、高校二年が終わった。
NEXT→ 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【66】
義理の母は16歳☆ TOP
2012.04.03 UP