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63 クリスマスイヴの東方家
そして終業式、クリスマスイヴ。
学校が終わるとまずは昼食。だが伊吹は大きな荷物を持っていた。学校は午前中で別に授業もなく、手ぶらでもいいぐらいなのに。……まさか。
「帰らないつもりでしたか」
「うん、朝出るときに今日はもう帰らないって言ってきた」
左様でございますか。まぁ、一回帰宅してからまたこっちに出てきてたら一時間ぐらい掛かるもんな。
今日は制服デートか。
「今日もハンバーガーとポテトですか?」
「いや、せっかくだからファミレスにしよ」
お、空気読みますね。
あまりファミレスに行く機会がないから、高かったらどうしようかと思ってたら、意外とリーズナブルでボリュームもあった。が、伊吹はやはりポテトを頼んでいたが、食べる最中もにこやかに、会話に応じていた。
「ど、どうした、何があった! 具合でも悪いのか」
「……ごはん粒、数えさせるわよ」
レベルたけぇ!
食事を終え……どこへ行くか考えてなかった。寒いから屋内がいいな。
「カラオケ行きますか? それとも映画ですか、モールでブラブラしますか、ドリームタウン行きますか!」
「……つまらん」
!!? な、つまらんと!!
「バカね。どこでもいいけど、カラオケとか映画じゃ楽しくない。手繋いで歩ければいいわ」
……そんなんで、いいのか。なんだ。
「じゃ、駅前の……」
ファミレスから一番近い、デパートに行くことにした。
が、そこで新藤にでくわした。お前は親睦会に参加じゃなかったか?
「駅前のカラオケに一時半集合だからさ、ちょっと時間つぶしに」
不参加だから、集合時間も場所も知らなかった自分が悪いのか、これは。
「また捕獲されたんだな、かわいそうに……」
伊吹と一緒にいて、なおかつ手を繋いだままだというのに、そんな風にしか見えないのか。
「ぶっ飛ばすわよ」
「すすすすすみません。消えます、去ります、さようなら、おじゃましました」
新藤は勘違いしたまますごいスピードで去った。
「そんなに付き合ってるようにみえないものかしら」
と新藤を目で追いながら伊吹はふくれていた。
ブラブラしてて疲れたから、三時を過ぎた頃、東方家に向かった。
「ただいま」
「おじゃまします」
玄関からダイニングあたりにいるであろう家族に、それとも家に? いやともかく、外から帰ったらただいま、だ。おかえり、と返事があって、大地がドアを開け顔を出してきた。すぐに顔を引っ込めて母に何やら報告している。
「いぶきちゃん来たよ」
恵が来ないな。
「着替える? 僕の部屋行って着替えたらいいよ。ちょっとダイニングに行くから」
「うん、ありがとう」
伊吹は二階へ、僕はダイニングへ入る。母と大地はテレビを見ている。再放送のドラマだ。
「おかえり。伊吹ちゃんも一緒だったの?」
「うん。まぁ」
ここまでの自転車移動ですっかり体が冷えてしまったので、キッチンで温かい飲み物――コーヒーを入れる。スティックの砂糖とミルクはどこだ。普段開けない引き出しを開けて、見つけた。自分のには自分好みにミルクと砂糖を入れ、伊吹の分はまだブラックで、ポケットにスティックシュガーとミルクを入れてマグカップを二つ持って二階に上がる。
部屋の前で一応、声を掛ける。ついでに、ドアを開けてほしかった。
「伊吹、着替え終わった?」
「うん、入っていいよ」
「両手が塞がってるから開けて」
ドアが開くと、私服姿の伊吹。何だか、かわいらしい、大人っぽさもある、スカート。ワンピース? 女の服のことはよくわからないけど、
「……かわいいっていうか、綺麗だね、そういう服着ると」
そんなこと言った自分が恥ずかしくなるけど、僕にそんなことを言わせるほどだった、のかも。
「……嬉しいこと言わないでよ! 殴っちゃう」
そういう照れ隠しはやめろ。
そして夕方、夕食の支度をする時間。伊吹が落ち着きなくなった。
「手伝いとかした方がいいのかな、でも邪魔かな、どうしたらいいと思う?」
「いや、別に何もしなくていいんじゃない?」
「それじゃ気が利かないとか思われない? それ、印象悪くなるよね、ね?」
これはこれで斬新な伊吹さん。なんだか面白い。
「天空、恵迎えに行ってきて」
一階から母さんの大きな声。僕は母に聞こえるよう、大きな声で返事。
「伊吹も行く?」
「うん、でも、どこに?」
「公園か、友達んちだな」
一応、母に妹の行き先を聞き、伊吹と一緒に公園へ。
この寒いのに、公園で走り回る小学生の団体さん。僕の姿を見つけた恵がこちらにかけてくる。走り回ってたせいか、息が上がっていて顔が真っ赤だ。
「まだ五時じゃないよ」
「五時を過ぎたらすぐ暗くなる。もう帰るの。明日から冬休みなんだから、いっぱい遊べるだろ」
「うん」
小学生の団体に向かって、大きな声でバイバイと言った恵は、
「伊吹さん、今日泊まるんでしょ?」
「うん、そうだよ」
「じゃ、一緒に寝よ」
ちょっと待て、伊吹は僕と……で、許可されるか問題だな。
「でね、サンタさん捕まえて! 持ってるおもちゃ、全部もらうの!」
……それはそれで、いろいろとひどいな。さすがに伊吹も困ってる。
「でも、サンタさんはいい子のところにしか来ないんじゃなかったかな?」
「じゃぁ、天空は悪い子なんだね。全然サンタさんプレゼントくれない」
そんな、かわいそうなものを見るような目で見つめるな。
家に帰ると僕は子守りをせねばならない状態になり、伊吹は、
「何かお手伝いしましょうか?」
と緊張ぎみに、母に聞いていた。
「じゃ、お願いしようかな」
キッチンに並ぶ二人は、いつの間にか会話が弾みはじめていて、僕は安心した。
料理が出来上がって、食卓を囲む。今日は大量の揚げ物とクリームシチュー野菜サラダと、テーブルいっぱいに並んでいる。
「作りすぎじゃないの?」
「やっぱり?」
母さん、張り切りすぎだ。
「じゃ、いただきましょ」
「いただきます」
「いっただっきまーす」
「いったきまーす」
一斉に箸が伸び、から揚げを皿に取る。山盛りの一角があっという間に崩れた。
「ねーねー」
隣に座る恵が僕の袖を引っ張った。
「お兄ちゃんと伊吹さんはいつ結婚するの?」
「!? ……ぶ、げほ、げほ、がっ!!」
お茶の入ったグラスを掴み、一気に飲み干す。危うく鼻から食べ物が出るところだった。
「ば、バカじゃないの、高校生は結婚できないんだよ!」
恵に怒鳴るように言ってた。こんなこと聞かれるなんて思ってもなかったから、恥ずかしっつーか、よくわからん。
「いつでもいいけど、早い方が嬉しいな」
伊吹、ちょっ、何言ってんだ!!
「伊吹さん、恵と大地のお姉ちゃんになるんだよ」
と妹と弟は喜んでるけど、意味分かって言ってんのか。結婚って、結婚って……。
何だか頭に血が上ってんのか、クラクラする。そして更に母。
「伊吹ちゃん、天空と結婚考えてたの?」
もうやめようよ、この話。まだ早いって。
「天空はどうなの?」
やめてくれ!!
「もう、去年からそれを視野に入れて付き合ってる……って、親にいちーち報告するかっ!気が早いだろ」
恥ずかしさのあまり、怒るように言った。一度区切って深呼吸。
「でもいずれは、そうなればいいなと……」
本当の思い。これからのこと。
「大学には行かない、就職するつもりだから……って、もうこの話終了!」
やけになって食べる、食べる。誰も話を戻してくるなよ!
食事が終わり、母さんと伊吹が見事な連携プレーで食器を洗っていき、風呂は伊吹が一番に入る。次に僕が恵と大地と一緒に入る。
二人分、頭を洗ってやって、体も洗ってやる。湯舟には肩までしっかり入って、十分は温まる。
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2012.02.24 UP