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62 高二の師走
「あっという間に十二月ね」
「そうだね。センター試験、一月の中旬だっけ。まだ野球部突っついてて大丈夫なの?」
「……十二月って話してんのに」
なぜか不機嫌になってきた。え、十二月?
「今年も残すところ、あとにじゅ――」
ごきゃん☆
後頭部を拳で殴られた。
「ちょっ、何を――っがっ!!」
すねっ、すねは痛いっ!!
「哀れ東方。触らぬ神に祟りなし! ……ぎゃっ!!」
「お前もストレス発散のために叩いてやる!」
「おおおおおたすけ〜」
ばかめ新藤、一言多いんだよ。
しかし、十二月って……、
「あ……」
部活開始前から時間が経ち、部活終了後。
「ふん、やっと気付いたか」
まだ機嫌が悪い。
「それより、大丈夫なの? 部活出てても」
「気分転換よ。ちゃんとやることはやってるわ」
ならいいんだけど。
「で、気分転換にクリスマス、正確にはイヴだけど、泊まりに行ってもいいかしら?」
……は?
「どこに?」
「あなたの家」
「僕んち?」
「そう」
独断でよければ即OKを出すところだが、
「聞いときます」
帰宅すると、妹と弟に取り囲まれ、夕飯が終わったら妹が宿題が分からないとか言うから教え、
「だから、8の段は掛ける数がひとつ増えると8ずつ増える。今までもそうだろ」
九九は何とか覚えたのに、文章でしくみを説明するような問題になるとわからなくなるようだ。
「にいちがに、ににんがし、にさんがろく……」
横で年長クラスの園児が九九を!! まあ、恵が練習してたのを覚えただけで意味なんて全然わかってないだろうけど。
宿題が終わると風呂。
切り出せないまま部屋に上がり、九時を過ぎてようやく妹と弟が寝静まる。
一階に降りてダイニングのドアを開けると、台所に立つ母が物音に気付き、声を掛けてきた。
「どうしたの? トイレ?」
「トイレぐらい一人で行ける!」
「あら、天空だったの。大地かと思った。二階に上がったら降りてこないのに、珍しい」
「ちょいとお話がありまして」
改まって話するのも、何か恥ずかしいが、これから話すことも何か恥ずかしい。聞かずにダメでしたって言おうかとも考えたが、
「実は二十四日に彼女がここに泊まりたいと申しまして……いかがなものかと、聞こうと思って」
何か言葉遣いがヘンになってる。
「彼女って、伊吹ちゃん?」
コクコク頷く。
「ダメならダメってはっきり言って」
「……別に、いいんじゃない?」
いいのかよ、いいのか、そんなもんか!
「なに? ダメって言った方がよかった?」
「いや……」
複雑なんだ、なぜか。
電話で即報告。
「許可出ました」
『あ、そうなの。やった』
喜んでた。
まぁ、僕も正直嬉しいんだけど……。
冬休みに補習を組まれては困るので、期末テストは各科目七割ぐらい点を取ってみた。
「やればできるじゃないか、東方。この調子で頑張れよ」
残念ながら僕は褒められて伸びる子じゃない。本気でやれば学年トップに踊り出てしまうが、まだ我慢。
今回もトップは吉武紘貴。三年になったら、その座は譲ってもらおうかな。誰もが驚く姿を想像するだけて、笑えてくる。
早いもので、十二月も中旬を過ぎた。
「今年もやりますか」
「去年のカラオケ、盛り上がったよな。延長断られたけど」
「何の話ですか?」
「ああ、一年は知らないのか」
「サッカー部では毎年クリスマスに親睦会してるんだ。去年はカラオケで、今年もそれでいいかなって話」
「わぁ、楽しそうですね」
しまった、そんなことすっかり忘れてたというか、参加してなかったから記憶にさえなかった。
「今年は二十四日の午後からやろう。部活終わってからじゃ時間が遅くなる」
え、二十四日、午後!?
「東方、今年は来るよな? 去年は青木先輩とどっか行ったけど」
また余計なことを。一年の視線が痛いじゃないか。いや、待てよ。
「すまん、今年も……」
ざわついた。
「やっぱり青木さんか」
「本当にデキてるんじゃ……」
「あの、彼女とデートです」
正直言っても、反応は変わらず。
「青木さんが彼女だったのか。逆だと思ってた」
「だから、違うってば」
誰も聞いてくれないし、信じてくれない。なんて悲しいことかな。
そんな勘違いもあって、うまく親睦会から逃げれたけど、全然誤解が解けない。青木さんのせいだ。
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2012.02.24 UP