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61 僕と君と、あの人たちとドーナツ
伊吹に電話してみたら、駅前のドーナツ屋で友達と一緒にいると言って、
「天空もおいでよ、疲れてなかったら」
いやいや、疲れてても行きますよ。真相を確かめたいから。
「遅い、いろいろ」
ドーナツ屋にいた伊吹の友達は、青木さんの彼女のつばささん。そしてその隣に青木氏?
「一緒に試合見に行ってたの?」
と伊吹とつばささんを指す。
「いや、帰りの電車で一緒になって、初めて気付いた」
そうでしたか。でも、本当なのか。
「試合、見てたの?」
「うん、全然わかんなかたけど、8番くん」
8番は、僕が今大会で背負ってきた番号だ。彼女がサッカー嫌いだと知ってるから、わざわざ部活や試合の話なんてしてない。本当に見に来てたんだ……。
店内で何も召し上がらないで座ってるのは悪いと思い、飲みを買って席に戻ったら、
「ここでジュースときましたか。しかもオレンジ。お子様だ」
青木さんの指摘から始まり、
「別に僕が何を飲んでもいいじゃないですか」
「コーヒーはおかわり自由なのよ、ばかめ」
伊吹がニヤッと怪しげな笑みを浮かべ、
「ホットに限る」
つばささんが不足を補う。
言われてみれば、みんなコーヒーだ。
しかし、言われっぱなしは悔しいので、伊吹に矛先を向けてみた。
「それを言うなら伊吹がドーナツ食べてるのも違和感がある!」
「確かに!」
乗ってきたのは青木さん。
「なぜポテトじゃない!」
伊吹はムッと眉をひそめた。
「それは、つばさが絶対に嫌だと言ったからよ」
「食べ終わるまで喋らないし、話しても睨んで無視するし」
ま、その通りだ。
「青木さん、どうするんですか?」
「なにがよ」
「就職か、進学か、です。とりあえずそんなことは考えたくないって言ってたけど、試合終わったし」
終わった直後でまだ早かったか、この話題。
「もうセンター試験は受けれないし、大学行ってまで学びたいこともないから、就職にしとくか。無駄に学費負担増やしたくないし」
意外と、考えてるのかな、この人。
ついでにつばささんにも聞いてみよう。この三人組は中学の同級生トリオだし、自分も来年は受験生? 就活生?
「つばささんは、どうするんですか?」
「私、学校が五年で、まだ二年あるの
「看護科で、そのまま上に行けるんだって」
学校の仕組みはよくわからんが、ナースのタマゴってことか? すごいな。なりたいものを目指してるって。
青木さんは、つばささんとどこまで考えてんだろう。
同席してても、この二人からは何も見えてこない。付き合ってることさえ疑いたくなる。
「やっぱ疲れた。帰る」
突然立ち上がる青木さん。
「お疲れ様でした」
「じゃ、私も。またね、伊吹」
「ええ」
つばささんを目で追うと、青木さんは自動ドアの前で待っていて、彼女が並ぶと手を繋いで出ていった。
「……カッコイイ」
さりげなく、カッコイイ!
「やっぱ、ホモだったか、オマエ」
ちちち、ががが!!
「ああ、普段はバカだけど、アイツの本当の良さは付き合ってみなきゃわかんないだろうね」
さすが幼なじみ。
「いろいろ、苦労してるから」
「苦労って?」
「……いろいろあるのよ、いろいろ」
全然わかんないけど、そんなふうには見えない。学費の負担増やしたくないって言ってたのもそれに関係してるのかな。
「試合、残念だったね」
突然で驚いた。まさかその話をしてくるとは思わなかった。
「え、ああ、うん……」
「あたしって、勝利の女神じゃないみたい」
「……敗北の悪魔だったのか」
伊吹は睨んでくるけど、ふと何か心当たりがあったのか、あっと声を上げた。
「そういえば、野球部、全然勝ててなかったし、あたしのせいだったのかな……」
とは言っても、百パーセントあなたのせいではないだろう。
「じゃ、そろそろ帰りましょ。疲れてるでしょ?」
「まぁ、そうですね。ちょっと待ってて。下の子におみやげ買いたいから」
普段は行かない、この店に来たついでに六個ほど。
「伊吹もいる?」
「いや、しばらく甘いものは見たくない」
少しだけ自転車で並んで走り、別れた。
「ただいま」
「おかえり」
「おかえり」
「おかえりー」
出迎え多いな。
「そら、テレビでてたよー。スゴイ!」
ああ、試合の中継、見てたのか。
「残念だったわね」
「うん。ああいう試合すると、自分の無力さがよくわかるわ」
サッカーがうまいと言われていい気になってたけど、自惚れでは試合に通用しなかった。油断は言い訳。たいしてうまくないのが現実。
「ちゃんと練習しないとな……あ、これおみやげのドーナツ」
恵がさっさとドーナツの箱を奪うと、大地と一緒にダイニングへ駆ける。母さんが慌てて二人を追う。
「ごはん食べてからにしなさい!」
……悪いことしたかな。
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2012.02.24 UP