TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【60】


  60 冬の雪辱


 シード校である僕らの学校は、二回戦からの登場。
 ――ピッ、ピッ、ピー。
 試合終了。
 2−0で勝利。初戦突破!



 三回戦、0−0で前半を終了。後半もなかなか点に結びつかず、ロスタイム……二年フォワードの依田がゴールに蹴ったボールがポストに当たって跳ね返る。せっかくのチャンスが……と諦めた時、一年のフォワード田中がうまくゴールに押し込んだ。
 一点先取、そして試合終了。
 まずはベスト8。



 準々決勝。
 稲村のナイスセーブで危機を脱し、ようやく火がつき反撃開始。しかし、フォワードも手を焼く相手ディフェンス陣。僕も上がり、ボールが回ってくる。しかしすぐに相手選手にマークされ、突破のタイミングを伺っていると、ゴール前に飛び出した新藤発見。パスを試みたが、苦手な左足で打ったボールは蹴り損ね。しかし、そんな痛恨ミスは奇跡を起こす。
 へなちょこボールはゴールに転がり込んだ。
 これが決勝点となり、ベスト4。

「パス、来るかと思ったのに」
「あれは、カッコ悪い」
「蹴り損ね、ですもんね」
「うるさい!」
 勝ったのに、嬉しくなかった。



 準決勝。
 ここまで勝ち上がってきてるだけに、手強かった。
 突破できないディフェンス、攻め込んでくるフォワード。開けない突破口、ボールを戻す。なかなかチャンスに繋がらない。
 0−0で後半ロスタイム。ほとんどのやつが限界に近かった。
 そしてPK戦。相手フォワードが蹴ったボールは真っ正面。稲村はがっちりキャッチして止め、ガッツポーズ。
 次は、なぜか僕だ。稲村が前に止めてるから、少しは気が楽だった。確か、青木さん曰く、僕の右はボールのコースを読みやすいらしいので、あえて左で打ってみた。ゴール右上を狙ったのに、左下に飛んでった。おかげで、相手キーパーも狙いを外し、ゴールネットを揺らした。
 へなちょこボール第二弾。もしかして、今大会大活躍?
 PK戦の末、勝利したのは我が校。



 いよいよ決勝。
 肌寒く感じるけど、天気はいい。コンディションもいい。チーム全員、気合い十分。負ける気がしねぇ。
 各ポジション定位置。主審のホイッスルでキックオフ。

 ここまで勝ち上がってきたのは、半分ぐらいは運だったのかもしれない。
 決勝まで勝ってきている相手のディフェンスはなかなか突破できず、ボールが戻されていく。せっかくのチャンスもゴールに嫌われた。
 試合前の勢いが、前半でくじけた。

 後半、試合は相手に押されぎみ。守りにいっぱいいっぱいで攻める余裕さえなくなり、先制点をとられ、
 ピッピッピー。
 試合終了――二年連続出場の夢は断たれ、三年最後の試合が終わった。


 ロッカールーム、うつむくみんな。
 突然、青木さんがベンチの上に立って両手を挙げた。
「おまえら、まだ来年があるじゃねーか!」
「でも、青木先輩は!!」
 誰もが思ってることを稲村が口にする。
「国立は去年行けたし、このメンバーでサッカーできて楽しかった。久しぶりにフィールドを走れたのも、稲村のおかげだ。これからも頼んだぞ」
 まるで最後みたいな……最後なんだ。いつまでも一緒にサッカーできそうで、あまり考えたくなかった、青木さんの引退。
「本日をもちまして、わたくし、青木創はサッカー部ならびにキャプテンを引退し、新たなキャプテンを神原くんに任せたいと思います」
 ベンチから降りた青木さんは、二年のディフェンダー、神原のもとへ行き、左腕の腕章を渡した。それを受け取る神原。
「あ、受け取ったな、返品不可だからな、新キャプテン」
「が、がんばります! 今までありがとうございました!」
 すっかり湿っぽくなってしまった。
「天空ちゃんは下手くそだからもっと練習すること」
 え、僕はそっちなの?
「は、はい、がんばります」
 それから、とまだ続けて、
「浮気はしないこと。もう心配はないだろうけど……俺だけを見てろ!」
 やっぱりそっちか。湿度の高いロッカールームが陰湿な雰囲気に。
「やっぱりまだ……」
「冗談? 本気?」
 本気の冗談だよ!
「また遊びに来いよ」
「来てたことはあっても、行ったことないです!」
 あ……。
 ザワ、ザワワ……。
 なぜ、波のように引くんだ、おまえら。


 結局、誤解は解けず、試合会場からバスで学校に戻って解散。
 駐輪場で「お疲れ」と声を掛け合って帰っていく中、
「気付いてた?」
 僕は青木さんにそんなことを言われたが、特に心当たりはなく、聞き返した。
「何を、ですか?」
「熱い視線」
 青木氏、試合中になんつーことを。
「イブキ、来てたの、気付いてた?」
「え?」
 まさか。彼女はサッカー嫌いじゃなかったか?
「わざわざ電車で行ったのかな」
 今日の試合は市外だった。まさか、そんな、まさか……。
「じゃ、お疲れさん」
「あ、お疲れ様でした」

 ほんと、青木さんと話した後って、いろいろ考えちゃうな……。

 NEXT→ 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【61】

 義理の母は16歳☆ TOP




2012.02.24 UP