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58 二回目と最後の文化祭
初日は生徒による、生徒だけの文化祭なので、やはり楽しめず。やっぱり二日目。
クラスの出し物の当番は一番にして、昼前には伊吹と大きめのカーゴパンツの裾をひきずってる大志くんと合流。
単語帳片手にガリ勉モードの大志くんにはさすがに驚いた。
そういえば、例の一件から忘れたように家庭教師してなかった。受験生なのに、ごめん、悪いことしたな。
「また、勉強教えに行こうか?」
「是非お願いします。姉のために」
姉、伊吹?
「何かと愚痴とのろけが多くて、迷惑してます」
むしろ、姉の相手! っていうか、大志くん、キャラ違う。
「よし、まずは野球部行くわよ」
はっ、どこにでもついて行くであります。
今年もやっております、野球部によるバッティングコーナー。ピッチャーは神田橋、キャッチャーはキャプテン十川。
「今日は絶好調なんだ、負ける気がしねぇ」
神田橋、口も絶好調。どうなっても知らないからな。
「中学で野球部に所属していながら、万年補欠の右投げ、右打ちの弟よ。本気でかかってらっしゃい!」
バットを握り、構える大志くん。
投げるコースをキャッチャーに合図。キャッチャーミットはど真ん中に構えられる。
自殺行為だ。
何のひねりもないど真ん中ストレート。大志くんが見逃すはずがない。
体の重心が右に。左足が少し地面から離れる。
「ににん」
バットを振り、
「が」
ボールを捕らえて打ち返す!
「し!」
掛け算!?
ってか、今回も大きい。
「ほーむ、らんっ!」
自分で言っちゃったよ。怖いな、受験ストレス。
神田橋は「ばかな……」と言いながら打たれたボールを目で追って、膝を折り、うなだれた。
次は僕がライトフライぐらいのを打ち、伊吹も外野まで飛ばした。
「大志ならともかく、ちょっと野球かじったサッカー部員に打たれるとは何事だー! 練習がたらーん」
「は、はい……すみません」
神田橋は妙な三人組に負けた。すまん。
次は、同じグランドで暇そうにキーパー練習しているサッカー部による、守護神危機一髪! 今年の守護神は三年の青木さんと一年の稲村。
「たのもー」
「よし来たな! 返り討ちにしてやる!」
今回も伊吹さんはゴールならず、じだんだ踏んで悔しそう。僕も稲村の反射神経の良さに完敗。
そして期待の桜井大志。今年は……。
「ウエイト八キロのハンデ付きだぜ」
やはり、そのあきらかにサイズを間違えた服の下には相変わらずそんなものが!! しかも、今回は外す気はないと? 凄い自信だ。
しかし……。
「あたたたたた、股関節外れる!!」
遠心力か何かで、ボールを蹴った勢いで脚まで持って行かれそうになってた。
……痛そう。
仕方なく足のウエイトを外し、再挑戦。
結果は――ゴール前に倒れる新旧二人の守護神を見て、察してください。
いやホント、大志くんって何者なんだ。
「是非、サッカー部に欲しいですよね、青木先輩!」
「無理でしょ。アレは姉の支配下……いや影響で野球やってんだから。高校入っても野球やるんじゃない」
「当然じゃない! 当たり前のこと言わないで」
すっごい偉そうな伊吹だけど、やはり決めるのは大志くんじゃないだろうか。
「今からスカウトされるのは嬉しいのですが、受けても合格するかどうか……」
その通りだな。
そして、昼食タイム。
各々、事前に購入していた食べ物チケットを交換し、去年同様校舎裏に集合。
伊吹が大量のポテトを抱えてきたのは言うまでもない。
「そんな、フライドポテトばっか食わんでも……」
「違うわ。これが青のり、こっちはコンソメ、それは塩」
くくればフライドポテトじゃん。
僕がうどん食って、おにぎり食って、焼きそば食って、おにぎり食って、から揚げ食って、また焼きそば食ってても、伊吹は黙々といもを食っていた。
大志くんも一通り食べ終わったところで、「トイレ行ってきます」とここを離れたまま、戻ってこなかった。
多分、去年同様、帰った気がするけど、伊吹は黙々とポテトを食べているだけ。気にもしてない、というか、それどころじゃないはず。
「伊吹」
ポテトをくわえたまま、こちらを向く伊吹。そのポテトの反対側に食いついてみた。驚いて止まる伊吹。ポテトを食べながら伊吹に近づく、唇が触れた。
……コンソメ味。なかなかうまいかも。
「な、何本か忘れたじゃない!」
真っ赤になって怒る。やっぱり数えてた。
「別に何本でもいいじゃん、せっかくふたりきりなのに」
「ここは学校だぞ」
と怒るが、迫ってまたキスすると反抗してこなくなる。こういう時は、もう逆らってはこない。
「高校生の伊吹と一緒の文化祭は、今年で最後だから……」
「……そう、だね」
伊吹と過ごす高校生活も、あと四ヶ月か……。
この前まで夏で、暑かったのに、もう肌寒くて、冬が来ようとしている。
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2012.02.24 UP