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  57 復帰と復旧


 まだまだ暑いが九月、二学期。僕は久しぶりに野球部の部室に行き、キャプテンの十川に退部届を渡した。。
「短い間だったけど、お世話になりました」
「サッカー部に戻るのか?」
「んー、まあ、戻れたら」
「戻れなかったら、ウチでまた面倒みてやるよ」
「偉そうに」
 僕と十川は笑い合った。
 部室を出る時、神田橋が奥から大声で、
「試合の助っ人に呼んでやるよ」
 なんて言うから、
「ヒマだったら来てやるよ」
 って言ってやったけど、本当はすごく嬉しかった。


 サッカー部の部室。気軽に出入りしてたのに、辞めて以来となる。サッカー部員からの突き刺さる視線が痛い。
 青木さんはまだ残っていて、キャプテンだった。
「すみません、またよろしくお願いします」
 おずおずと差し出す入部届。かなりばつが悪いが頭を下げる。
「ホントに、天空ちゃんには困ったもんだね。好きな子に甲子園連れてってって言われたら、目の色変えて」
「え、ちょっと!!」
 伊吹のこととは言わなかったか、ズバリその通り。
「恋は盲目……俺は身を引くよ」
 だから、ホモフラグが! 一年がざわめく。
「青木さんっ!!」
 重く嫌な雰囲気からは脱したが、あらぬ関係だと想像され、また視線が痛い。

 そして部内では、野球が好きな女子が好きな東方くんになった。
「誰なんだ、何年だ、どのクラスだ、もう付き合ってんのか!!」
 新藤が、やたら食いついてきた。
 横にいるんだけど。
「天空、千本ノックに付き合いなさい」
「僕はサッカー部に復帰したので……」
「……うまくごまかしたな。さては、今日も野球部見学してるのかー?」
 って、捜索するのか、グランドの入口とは逆方向に走って行った。なぜか伊吹とは思われない。こんなに近くにいるのに。
「アイツ、失礼なやつね」
「……そうだね」
 グランドに入ると伊吹は左側、僕は右側のサッカー部の練習場に。
 一ヶ月遊んでたから、走るだけで息が上がり、ボールをうまく扱えず、イマイチな感じ。
「熱心に野球やったから、忘れちゃったでしょ? 思い出させてあげる、俺の体で」
「青木さん、相変わらず炸裂しますね」
「俺とお前の仲じゃないか」
 爽やかな笑顔なのに、セリフはいらんことを連想させる。
「やっぱりウワサは本当だったのか……」
 ヒソヒソ……って、やめろ!!
 青木さんのそんなトークで、サッカー部員たちとのわだかまりも自然となくなった。が、断じてそういう関係ではない。


 グランドの半分より向こう側は……引退して野球部マネージャーの荷がおりたはずの伊吹が、相変わらず野球部員をしごいていた。
「ダラダラしない、しゃきっとせんか!」
 そんな伊吹を見て、思わず笑みがこぼれた。
 本当に、野球が好きなんだな……。

 彼女は大学進学を考えていて、また野球部のマネージャーやるんだ、と張り切っていた。でも、
「大学野球って、どこを目指すのかしら?」
 僕が知るわけがない。

 一方、青木さんは自分の将来について、「なるようにしかならねぇ」と半ばぶっきらぼう。進学も就職もまだ考えず、今は冬の大会に向けた練習の方に集中したいようだ。



 センター試験の出願がどうこうという頃、クラスから実行委員の選出。一年の中で一番盛り上がるイベントが近づいていた。
 二日にわたって行われる文化祭。当日も楽しいが、やはり準備期間もおもしろい。
 まずは、ステージか教室などの室内か、第一回文化祭実行委員会にてくじ引きで決まる。
 我がクラスは……室内に決まった。
 良かった。去年はステージで大変なめにあった。けど、あれもあれで楽しかった。

「ああ、今年もやるよ、守護神危機一髪!」
 なぜか、部室でカップラーメンを食べてる青木氏。
「今年は守護神、稲村と二人だからね! 盛り上がるわー」
 去年、閑古鳥鳴いてませんでしたか? 野球部のバッティングコーナーと共に。まぁ、黙っておこう。
「クラスの方は、決まりました?」
 三回ほど頭を縦に振ると、ズズズーっとラーメンをすすり、きりのいいところまで口に入ったところで噛んで、飲み込む。
「あっさり決まったよ。室内、調理室でフライドポテト屋」
 ああ、フライドポテトね……すごく心当たりあるわ。
「あの人と、同じクラスでしたね」
「そう。あたしの意見に異見したら潰す、ってオーラも同時に出てて、決定するしかないんだよね、あれ」
「塩味、だけなんですか?」
「いや、粉末コンソメをまぶしたやつと、塩青のりとかやるらしい。フライドポテトにわざわざアレンジ加えるやつは、アイツしかいねぇ」
 『フライドポテトと私』というタイトルで、論文でも書いたらいいのに。
「イブキがフライドポテトを語る姿は……まるで選挙演説のようだった」
 選挙、演説?
 ――フライドポテトは、塩だけじゃないんです! コンソメや、青のりとも相性抜群です! 是非とも、フライドポテトにはコンソメ、青のりを、よろしく、お願いします。ありがとうございます、ありがとうございます! 沿道からありがとうございます! 朝からおわさがせして申し訳ありません。最後のお願いに参りました。明日の投票日には、是非、是非、フライドポテト、フライドポテトをよろしくお願いいたします。
 ……長い。
「是非、見たかったです!」
 残念だ。
 しばらくの間、青木さんと一緒に、ついつい遠くを見つめてしまった。



「室内で何するよ」
「青木さんクラスに便乗して、から揚げ屋でもするか?」
「だいたい軽食コーナーに両方あるじゃん。たぶんポテトは被るから廃止になるだろうけど」
「だよな……」
 部内でクラスの話をしたって、いい意見が出るわけがない。また明日のホームルームで、誰かがいい案を出してくれることを期待しよう。

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2012.02.24 UP