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  56 僕が俺だった頃


 小学三年生ぐらいから、格好いいから自分のことを『俺』と言い出した。同じ年に妹が生まれ、二年後に弟が生まれた。

 僕が幼稚園の頃までは転勤の多い父と一緒に転勤引っ越し族だったけど、僕が小学校に入学する前にこの家に定住。父さんだけ単身赴任でいなくなった。妹が生まれてからは子守や家事の手伝いもさせられてた。
 でも、小学校の高学年から中学生にかけて体が大人に近づくと、妹と弟を見る目が変わってきて、しだいに鬱陶しくも思えてきた。
 友達との関わりや部活が楽しくて、帰宅が遅くなることもあった。
 宿題もあるし、疲れることもある。それでも関係なしにまとわり付く二人が、大嫌いになった。どんなにあしらっても、すぐ僕に寄ってきた。
 確かその日は学校で何かあって、機嫌が悪かった。いつものようにまとわり付く二人を、怒鳴り付けて、突き飛ばした。
 妹は泣きそうなのを必死に我慢して黙ったけど、弟は柱の角で後頭部ぶつけて、怪我をした。三針縫う怪我。
 結構強く突き飛ばしたから、病院でも何度も嘔吐したりして、死ぬんじゃないかと思った。
 きっと、もう僕のことを恐かって、嫌いになって、二度と僕に近づかないんだと思った。
 なのに、笑顔で僕のところに来て、しがみつくんだ。遊んでくれって。妹も。
 信じられないぐらい、バカだって思った。同時に、自分の馬鹿さにも気付いた。

 子供っぽいけど、僕と言うことで、自分を落ち着けてきて、しだいに自身も人間的に落ち着いた気がした。

 だから二人は、僕の変化にはかなり敏感だ。


「大地の後頭部の傷、髪で隠れて普段は見えないけど、今も貯金箱みたいに残ってる」
「よく暴れなかったね」
「今回の敵は野球というスポーツだからな」
「……ごめんね」
「もういいよ、このことは。でも、僕のことを嫌いにならない限り、離れることは許さないから」
「……はい」
 やけに素直でちょっと調子が狂う。
 だけど、僕たちの距離は今までよりぐっと近くなったような気がした。

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2012.02.24 UP