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  53 過失


 そして、いよいよ大会メンバーが発表される日。ピッチャーから順番に発表され、八人目。
「センター、東方」
 部員たちがざわつき、批判の声が上がった。
「こんな初心者が使えるわけないだろ、考え直せ」
「……悔しいけど、今の野球部に必要な戦力だ。内野手でやるにはコントロールが気になるが、あの脚力と運動神経、使わないのはもったいない。サッカーで鍛えてきた脚は確かなんだ」
 見てるやつはちゃんと見てくれている。これで試合には出れる。が、こんなことで自主的な練習量を減らすわけにはいかない。所詮、俺は初心者。今の野球部が県内だけでなく、全国に匹敵する戦力があるのか。上には上がいる。国立のフィールドで戦い、散った自分だからこそ。更なる高みを目指すなら、努力を惜しまない。
 いつだって、どんなに頑張ったって後悔するんだから。



 大会用のユニフォーム。サッカーと違って堅苦しい。慣れないせいか、少し動きづらい。バットの振りが少しもたついて、練習中何度も振り遅れた。また大会までに慣れなければいけないことが増えた。



 六月から始まった県大会。時折、試合が雨天順延になったが順調に勝ち上がっていき、七月最初の土曜日、いよいよ決勝戦の日を迎えた。
 これに勝てば、甲子園。野球のために夏休み献上してやる。
 試合の流れも良かった。一点リードで迎えた九回の裏。相手の攻撃もツーアウト、一塁。最後の打者を仕留めて県大会優勝、甲子園出場が決まる、そんな場面。
 追い詰められたバッターの打球は、大きく、まっすぐ、センター方向に飛んできた。
 キャッチしてゲームセットだ!
 ボールから目を離さず、落下ポイントまで走る。俺なら追いつける。しかし、壁に阻まれ、体が跳ね返る。

 ……え?

 ボールはスタンドに飲み込まれた。
 一際大きな歓声が上がった。
 相手チームに二点入り、ゲームセット。
 最後の最後で、負けた。


 球場から帰るバスに乗り込むみんなは、やはり元気がなかった。
「甲子園、連れていけなくてすみません」
 バスに乗る時、一番前の席に座っていた伊吹さんに頭を下げた。
 伊吹さんは、伏せて声を張り上げて泣きだした。
「別に東方は悪くない。オレたちだって、全然結果だせなくて、常連校の名折れチームになって……だから東方の入部はかなりいい刺激になった。決勝までこれたのは東方のおかげだ」
「そうだよ。最後の打球、諦めずに追う姿はかっこよかった」

 何を言われようと、結果は準優勝。
 野球部三年の夏は終わった。
 俺がが野球をやる理由もなくなった。


「天空、本当に野球やってたのね」
 夕方のニュースが報じる、最後の場面。ボールを追っているカメラに、ボールを追って壁に激突して跳ね返って倒れる俺が何度も繰り返し放送されてる気がして怒りが込み上げてきた。



 七月二週目、誕生日がきて十七歳になった。この日を迎えるのは、今の自分には苦だった。

 中旬に期末テスト。やる気なくて、答案を三つずらして全部書いてやった。
 テスト返却では、各教師に「なぜ答案の答えがズレてるんだ、ズレてなかったら百点だったのに」と言われたが、そもそも意図的にそうしたので、
「へぇー、そぉー」
 とそっけなく返事しておいた。教室内はやけにざわついていたが。
 全教科0点なので、当然追試決定。放課後に決行されたが全部期末と同じテストだったので、短時間、かつ満点で全て終えて、無事に夏休みを獲得した。



 一方、サッカー部は俺がいなくても、勝てるチームになっていた。
 一年にキーパーを任せた青木さんはDFで出場して県大会制覇。インターハイ出場が決まっている。

 彼女との関係は……決勝で負けた申し訳なさから、俺が彼女を避けるようになった。もう、どうにもなりそうにない。
 野球部にもサッカー部にも、自分の居場所はなくなってしまった。


 何もかも失った一学期が終わった。

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2012.02.24 UP