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  51 退部、入部


 何かがふつふつと湧いている。
 怒り、哀しみ、嫉妬、妬み。ごちゃまぜになって、体を巡る。
 当たり前のことを鬱陶しく感じる。
 自分の制御が……できなくなってる。


 そんな中、ふと思いついた。


 『俺』も野球をやって、目指してみればいいんだ、甲子園とやら。
 しかし、サッカー部員の『俺』が生半可な気持ちでやっていけるような所ではないことも十分承知のうえで、やるからにはレギュラーを狙う。
 そのためにはまず……。




「今日、今時点で、サッカー部辞めます」
 部室内の全員が驚いた表情で俺を見ている。
 その一人である青木さんに退部届を押し付けてサッカー部の部室を出て、隣の部室のドアをノックした。
 野太い声で返事があったのでドアを開けると、まだ着替え中の野球部員のほとんどが手を止めて俺を睨みつけてきた。
 俺は臆せず強く睨み返す。そして、
「二年二組、東方天空。野球部に入部希望で」
 誰もが怪訝な表情で俺を見る。
 キャプテンに入部届を差し出すが、受けとってくれるはずもない。想定はしていた。なので近くの机に適当に置いた。
 後ろに人の気配を感じたのでそちらを向くと、怪訝な表情の伊吹さん。目が合うと口をキュッと結んだ。
「今日から野球部に入る、東方です。よろしく、桜井先輩」
 伊吹さんの表情が曇った。
 それもそうだろう。俺はサッカー部所属だが、自己紹介なんてもういらないほどよく知ってる仲なのだから。
 それでも何も言わず、目を逸らす伊吹さん。
 俺は再び部室に向き、キャプテンに入部届を押し付けた。
「グローブ貸してくれる? 俺、持ってないんだよね」
「ふざけんな! ひやかしなら帰れ!」
 と、今出した入部届を投げつけられた。


 二、三年の野球部員からは相手にされなかったので、一年生のグループに入れてもらってキャッチボールをしていたが……あまりにも俺のコントロールが悪いらしく、
「お前、練習の邪魔だ」
 と、キャプテンの三年に追い出された。
 グローブ蹴っ飛ばして帰りたい気分だったが、それじゃ意味がないし、上手くはならない。
 なので、一人で壁に向かって投げ続けてやった。なかなか思い通りにはいかず、何度も砂を蹴った。
 たかがボールを投げて打って走るものだと思ってただけに、余計悔しくなってきた。
今までが、ボールを蹴ってただけだったんじゃないのか?
「クソっ!」
 また砂を蹴った。
 やってやる、大会の頃には、俺がいたから試合に勝てたって、言わせてやる!
 見よう見真似で、がむしゃらにボールを投げ続けた。

 学校の帰り、スポーツショップに寄って、グローブと野球ボールを買った。
 ……屈辱だ。俺はこれに負けたのだから。
 でも、もう後に引く気はなかった。


 ――右肩が、少し重い。


 次の日、起きたら右肩が筋肉痛になってた。しかし、筋肉痛ごときに負けてられない。
 昨日、思いついたように始めた野球。経験者の部員相手にレギュラー取ろうってんだ。倍、いや、それ以上の努力をせねば。ルールだって覚えなければならない。


「お前どうしたんだよ、突然野球だなんて……」
 学校。二年二組の教室。同じクラスのサッカー部員、新藤が俺のところに聞きに来た。
 いちいち説明するほどのことはない。ただの、思い付き。
「国立行けたし、次は甲子園でいいんじゃないの?」
 目は合わさなかった。
 新藤は小さく、意味分かんね、と呟いて自分の席に戻っていった。以降、新藤と話すことはなくなった。


 今まで、一度も読んだことのない、新聞のスポーツ面、プロ野球の記事を全部読んだ。専門用語も多く、脳の拒絶反応もとにかくすごかった。
 授業中も野球のルールが書いてある本を熟読した。
 野球は九人でやるスポーツ。サッカーより少ない。
 もっと、もっと練習しなければ。
 部活が終わると、バッティングセンターに通うようになった。

 家でも素振りでもしようとバットを買って帰った日。母がそれを見て、青い顔をした。
「……まさか、誰か叩いてきたんじゃ……」
「……新品だよ。使ってない」
「いや、ちょっと待って! 何があったか知らないけど、撲殺だけは――!!」
 本気で怯えてた。
「違うし。今、野球やってんだよ、俺」
「…………は?」
 何かを聞かれていちいち答えるのも面倒だから、さっさと部屋に上がった。


 妹と弟が、俺に近寄らなくなってた。

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2012.02.24 UP