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  47 高校一年最後の一ヶ月


 二月最終日から学年末考査が始まったが、三月一日は卒業式だからテストはお休み。また二日からテスト……って、別に二日からの日程でいいんじゃないのか? 卒業式を挟む理由はなんだ! という疑問で始まった、いよいよ高一最後のテスト、学年末考査です。
 卒業式の次の日は、登校時の生徒が少なく思えた。普段は自転車がおさまりきらないほど止めてある三年の駐輪場は、残骸のような放置自転車だけ残されてすっきりしてるし。

 しかし、バレンタインのお返しはどうすべきだろうか。何も決められないまま半月が過ぎてしまった。このままじゃまた半月もあっという間に過ぎてしまいそうだ。
 うーん、うーん。
 ……よし、とりあえず、テストが終わったら真剣に……たぶんだめだ、決まらない。山根さんはともかく、伊吹さんは不満があったら絶対言いそうだ。
 どうせ今はテスト期間で部活がないし、考えて決まらないんだから、帰りに見に行ってみるか。

 って、テスト中は思ってたんだけど、

「天空、お昼食べに行こっ」
 駐輪場、すごいタイミングで、捕まった。字余り。東方天空、心の俳句。


 ドリームタウン内、某ハンバーガーショップ。日課のように、ポテトの本数を数え、手帳にメモ。これが終わらないと、まともに会話してくれないので、黙って待っていた。おかげで都合のいい質問に辿り着けた。
「何か欲しいものとかないですか?」
 バレンタイン前、甘いものが大丈夫か聞かれたのを参考に、率直に聞いてみた。
「欲しいもの? そうだなー、」
 ホワイトデーを意識せず答えてくる。僕みたいに分かってながら気付かないフリをしてるのかもしれない。
「婚姻届に署名捺印が欲しいわ」
 ……は?
 ……え?
 ……えええ!!?
 直球がぶち当たってきたような衝撃が頭に起こった。
「な、な、何言ってんですか!」
「早く、十八歳になってね、あたしが二十歳になる前に」
 そこは大丈夫だろ、学年一つしか違わない……伊吹さんが一年浪人して入学したとか、ダブってたりしてなければ。
「なによ、その顔」
 言いたいことが出てるらしい。分かってそうだから、喋る必要はないだろう。
「あたし、今十七歳だから、ダブったりとかしてない」
 一つ年上の彼女かと思ってたら、サバ読まれて二つ年上でした、ということはないようだ。
「それを聞いて安心しました。ところで、ラーメン食べてきていいですか?」
 ハンバーガーのセットと単品バーガーを食べていながら、待っている間に隣の店のラーメンが食べたくなっていた。
「馬鹿の大食い」
 飽きれ顔の伊吹さんは席を立ちながらそう言いながらも、僕に付き合ってくれた。


 味噌ラーメン、バターコーンとチャーシューのトッピング。
「いただきます」
 ラーメンは味噌に限る。たまに豚骨、醤油、塩……おいしければいい。今日は味噌で。

「ごちそうさま、でした」
 おなかいっぱいで幸せ〜。
 ……しまった。ラーメンの誘惑に負けて肝心なこと、忘れてた。
 ラーメンを食べ終わってようやく思い出した。
 伊吹さんからそれに対する話を切り出してはこないだろうし、また同じ質問をするのもどうかと思い、お返しは自分で考えるしかないと諦めていたとき、
「セクシーな下着が欲しいわ」
 彼女のほうから突然そんなことを言ってくる。
 セクシーな、下着?
 ドリームタウン内にある女性下着売り場をふと思い出す。あれは完璧な女性の領域。
「無茶言わんでください!」
 声を荒げずにはいられなかった。僕はホワイトデーのプレゼントの参考にと聞いた質問だから、僕がそれを購入し、プレゼントすることが前提となる。下着なんて絶対無理だ。
「でも、見たいでしょ? 天空好みの下着姿のあたし」
「ぐっ……」
 この前のことといい、健全な高校生の会話じゃねぇ。




 結局、その件のことは伊吹さんの無茶振りであやふやになってしまい、帰宅してからしまった! と頭を抱える始末。
 明日は一人でドリームタウンに行こう。


 しかし、一人で考えられるはずもない。女子がよくいる店は、男一人じゃ入りづらい。
 通りすがりで見たって、収穫にも参考にもならんし、なにより女子の視線が気になる。やめろ、僕はただの通りすがりだ。

「なにやってんの、東方」
 ぎゃあ! と悲鳴をあげそうになりながら振り向くと、
「今日は青木さんか……」
「何だよ、いちゃ悪いか」
 そういう訳じゃないけど、
「青木さんもバレンタインのお返し探しですか?」
 あの日、時間がどうこう言ってたからなんとなくそう思えた。
「東方も?」
 思わず見つめ合う。
 こんな身近に同じ悩みを持つ人がいるなんて、何で気付かなかったんだろう。
「よし、一緒にさがそう!」
「はい、先輩よろこんで!」
 心細さ軽減。むしろ、なんでもこい!
「青木さんはつばささんから何貰ったんですか?」
「手作りチョコ。お前は?」
「同じく手作りチョコです」
 何の捻りもないな、と思ってしまうが思うだけにしておく。チョコを渡す日だから、贅沢言っちゃダメ。
 そして、昨日のことを話した。
「欲しいものをそれとなく聞き出そうとしたんですが、婚姻届に署名捺印とか、セクシー下着とか言うんですよ」
「そりゃ分かってからかってんだよ、伊吹は」
「……やっぱりそうですよね」
「指輪はどうだ」
「十二月に買わされたし、サイズ知らない」
「え、そうなの? 知らなかったな。サイズか……聞いたらバレるな」
「無難にネックレスとかどうですか?」
 我ながらナイス。
「いいね、でも、あの店に入って選んで、買えるか?」
 前方およそ十メートルのところにアクセサリー売場が見える。しかし、女子いっぱい。店員も女性。
「僕には経験値が足りません」
「だよな。仲のいい女子友達はいないのか? いたら呼べ、今すぐに」
「ええーっ」
 青木さんがいたら何でもできそうだと思ったのは勘違い。全然だめだ。




 次の日、学校で情報収集。クラスメイトの女子を代表して(?)山本、宮野に聞いてみる。
「貰うならどんなお返しがいい?」
「何だっていいじゃん、」
「ねー」
 ふたりしてそんな対応。ますます困る。
「何を言おうと、あげてないから貰えるわけないし」
「そうそう。なのにそんなこと聞くなんて、無粋よ東方くん!」
 逆に敵に回された感じで責められる。もう、自分で考えるしかないようだ。




 帰りにコンビニに寄るとホワイトデー商品が並んでいることに気付いた。バレンタイン後からあったきとには気づいていたが、立ち止まって選ぶのに少し抵抗があったので見てみぬフリを続けていたが、ここまで切羽詰ってくると人の目はあまり気にならなくなっていた。その中にあった人気のキャラクターミニぬいぐるみのものを山根さんへのお返しにしようとすぐ決まったが、その中に伊吹さんへのお返しは見当たらなかった。
 僕にとって伊吹さんが特別すぎるから、ここにあるものでは僕の気持ちは伝わらない。
 コンビニで伊吹さんへのお返しを諦めて店内をぐるりと回っていると、雑誌コーナーで『ホワイトデーのお返しの選び方』という見出しが目に止まった。
 ――これだ!
 雑誌は最後の一冊だったので迷わず手に取り、レジ近くの棚に置いてあるホワイトデー商品を一つ、山根さんへのお返しとして買って帰った。


 家に帰ると雑誌を取り出し、お目当てのページをひたすら読み漁る。
 僕のようなお子様ではなく大人のお兄さんが対象の男性雑誌なので、書いてあるお返し商品の値段が高い。ブランドモノなんてとてもじゃないし、十数万円とか冗談じゃない。値段のとこだけ見てたら、意識がなくなりそうだ。
 思わず雑誌を放り投げようと思ったが、記事に釘付けになった。


 ――女性から男性にネクタイを贈る意味に『あなたにくびったけ』とあるが、男性から女性へのプレゼントに腕時計はどうだろうか。『あなたと同じ時を過ごしたい』という意味を込めて。ペアの時計だと……――


 また参考として、ブランドモノのペア時計が写真と共に価格まで……ゼロが多い。
 でも、時計っていいかも。『同じ時を過ごしたい』そのフレーズが心に響いてる。よし、腕時計にしよう。伊吹さんは時計なんてしてないし。店に入るのも、選ぶのも、買うのにも抵抗ない。
 彼女の場合、よくOLさんあたりがしてそうなシルバーで小さめのアナログ時計より、デジタルのスポーツタイプといったところか。ストップウォッチにもなるやつ。……いつも時間計られそうだな。「五分二十二秒の遅刻」だとか細かく言われたりしそうだけど。
 テスト最終日である明日から部活が再開される。でも、プレゼントしたいものは決まったことだし、店に見に行くのは部活終わってからでもいいか。
 一時はどうなるかと思ったが、気分が楽になった。


 テストが終わった次の日には、全教科のテスト返却。先生も採点お疲れ様。
 今回の学年末テストは八割ぐらいの実力でやったのでいつもより点がいいし、順位も半分より前だった。
 どの教科の先生からも褒められるのだが、本気で取り組んだテストではないだけに嬉しくなかった。本気でやって度肝抜いてやりたいが、まだしばらくは我慢しておこう。


 何件かの店に腕時計を見に回り、彼女に合いそうなデザインのものをようやく見つけた。
 色は……女の子らしくピンクといきたいが、ちょっと違うんだよな、彼女の場合は。水色? いや……白かな。
 それを購入すると何ともいえない嬉しい気持ちでいっぱいになった。
 早くホワイトデーにならないかな……。




 そしていよいよホワイトデー当日。
 いつ、どんな感じで渡そうかシミュレーション。部活が終わってからでいいか。先に帰らないようメールして。
 あ、山根さん忘れるとこだった。部活に行く前、一組付近で待つ。顔がいまいち思い出せなくなってきたから呼び止めるのは無理そうなので、一組の教室から出てきた人を呼び止めて聞いてみた。
「すみません、山根さんいますか?」
「うん、いるよー。麻耶ちーん、お客さん」
 教室に顔を覗かせ呼んだ先に山根さんがいた。そうそう、あの顔。ショートヘアがよく似合う、スポーツ少女。
 彼女はあっと驚いた顔をしたのち荷物をまとめ、周りの友達に声を掛けてからこちらに来る。
「ありがとう、咲良ちゃん」
「うん。じゃ、バイバイ」
 山根さんを呼んでくれた女子は軽く手を振って、階段の方へ行く人ごみに紛れた。僕はさっさと本題に入る。
「この前はありがとう、チョコ、おいしかったよ。たいしたものじゃないけどお返しを……」
 コンビニで買ったバレンタインのお返しを山根さんに差し出しながら、前もって考えて練習をしていたかのようなセリフ。
「……わざわざいいのに」
 予想を反し、素っ気なく受け取る山根さん。
 あれ? バレンタインの時の態度とは全然違ってさばさばしてる? こんな場所で突然すぎて機嫌でも悪いのかな。
 なんて思ってると、まっすぐ僕の目を見て言った。


「付き合ってるんでしょ? あの先輩と」


 心臓が一度大きく跳ねたのち、背筋が凍りついた。

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2011.10.03 UP