TOP > 義理の母は16歳☆ > 【番外編】彼女は野球部マネージャー☆【43】


  43 東方家と金銭事情?


「天空ぁぁ、無事だったか? 何もされなかったか? 痛いトコはないかぁぁぁ!!!」
「あ、いぶきさんだ〜」
「たいし、ぐいーんってやってー」
「どうもすみません、お世話になりまして……」
 田舎へ帰ってた僕を取り除いた東方家御一行。桜井家へ長男の迎えにやってきましたが、置いていったくせに嘆く父、伊吹さんを見て喜ぶ妹、大志くんに遊んでもらいたくてたまらない弟と……この件で一番まともな対応の母。
「気にしないで、ウチの人が強引に連れて来ただけだから」
「親同士だけ、子供同士だけの付き合いじゃいかんだろ。ここは家族ぐるみで――」
「やめてよ桜井! 遊び心がハンパじゃないんだから! ホントに何もされてないか〜?」
「……しょうがないよね、俺も一回戦で敗退する気はなかったし」
 にこり、笑顔で。でもやはり悔しさが滲み出た。一人称が「俺」になってる。
 強張った表情で停止する父、太陽。
「……いやぁ……おしかったな」
「全然、おしくも何ともなかったけどね」
 試合、見てなかったな。いや、母さんからのメールにもあったじゃないか。「試合見れなかった」って。くそっ、息子の試合を見ないなんて、とんでもねぇ!!
 もう二、三歳若ければ、所構わず暴れてたところだ。
 それはそれは、お空のようにひろーい心をもってるんだよ、「僕」は。
 怒りは噛み殺す。僕が我慢してすむのなら、我慢しよう。もう、ガキじゃないんだから。「アハハハハハ」
 でも、ちょっと抑えきれてない。

「じゃ、もう時間ないから、準備して部活行くわ」
 ……あ!
「サッカー部も今日からじゃなかったかしら? とーぼーくん」
「だ、だよねー!!」
 彼女は部活準備のため、二階へと上がって行く。サッカー部と野球部は午前と午後で分かれてグランドを使ってる。彼女が午後の部活に出掛けるということは、どう考えてもサッカー部の活動時間は終わってる。
 一月三日、正月気分が抜けず、すっかり忘れて部活サボりました。……携帯も鳴らんかったわ。
「伊吹さん、何部なの?」
 という母の問いに僕は答える。
「彼女は……野球部のマネージャーだよ」
 そう言って、改めて変な縁だと思う。放課後の活動場所の件で乱闘になるような部同士に彼女と僕が所属して、なぜか恋人同士という関係で、伊吹さんはツンデレっぽいし、僕はドMだと思われてたり、一時、青木さんとガチホモフラグが立ったり、誰にも聞かれないし、伊吹さんと付き合ってることを黙ってるせいか、誰も気付かないとか。唯一知るのは青木さんだけ、か。
 ふむふむ。
 考え事してたら、車に乗車させられてた。あれ?
「おじゃましました、ありがとうございました、お世話になりました!」
 危うく、お世話になった桜井家のご両親に挨拶しそびれるところだった。
 父が運転する車は、我が家、東方家へ――。やっと気兼ねなくのんびりできる。
「お父さん、買い物して帰らないと何もないわ」
「あ、そうだね。どこ行こうか?」
「いつものとこでいいわよ」
「おかしー!」
「じゅーすー!」
「おとしだまー!」
 大人たちの買い物相談に対し、子供たちは本能をぶつける。
「よし、おかしは自分のお年玉で買ってもらおう」
「えー」
「なに買っても怒らない?」
「おとしだまをよこせー」
「怒らない、たぶん」
「じゃね、犬が欲しい」
「おとしだまで買えるか! っていうか、生き物はダメ!」
「おとしだまー」
 子供たちは、本能で喋る! 大人は対応が大変だ。
「えー、じゃぁ、かぶとむし」
「今、いないでしょ!!」
「おとしだま、十年分。前倒しで」
「天空、おとしだまなくても月収三万円、年収三十六万円でしょ? 確定申告してる? 脱税で捕まるかもしれないのに、お母さん黙ってるのよ? そのあたり、分かってて言ってる?」
 僕もそこまで頭は悪くないので、『脱税』と聞いて内心ビビる。あれ、逮捕されるんだっけ? 追徴課税とか、何だか分からないけど、どうすべきなんだ、これ。あ、そうだ。バイトしてるやつに聞いてみたら……って、一応バイト禁止の学校じゃないか。や、ヤバい。無料で家庭教師すべきかな。
 と、真剣に考えてるのに、運転席の父の肩が震えている。
 ああそうか、なるほどね。
 父の態度で冷静になれたおかげで、パートで働く母が一年のある時期になると給料明細を見ながら言うセリフがあったことを思い出す。
 ――百万超えそう!!
 正確な金額は知らないが、僕の年収は全然問題ないし、おとしだまは貰えるのなら欲しい。どうせ間食で消える。まぁ、なくても困らない。月収の半分は貯金できてる。いや、あんな収入があるから、余計な出費も増えたような……だいたい、月の小遣い五千円だった。余計な出費の八割は伊吹さんとの交際費だが。余計って、本人がいたら、ぶん殴ってきたとこだろう。まぁ、冗談ですよ。むしろ、あの月収なければ伊吹さんと遊べないのか……。
「じゃぁ、おとしだま諦めるから、小遣いアップで……」
「どこまでサイフに優しくない子なの!? 食費未納なくせにバカみたいにいっぱい食べて……毎日おせちみたいな弁当作って……」
 ……そんなに圧迫してますか、僕。
「いいです、おとしだまいらないから、通常通りで」
 戦うだけ、無駄だ。
「今日は出前でお寿司でも取ろうか。天空のおとしだまで――」
 父さん、調子に乗りすぎッ!!
「あだだだだだ」
 後部座席から父の耳を引っ張ってやった。


 よく行く近所のスーパー。店内ではしゃぐ妹と弟。疲れたからさっさと買い物を済ませたいという母は、僕に子守りをさせる。父は車でお留守番。
 お菓子売り場。座り込む二人。ガン見してる視線の先は、オモチャが入ってるやつ。それは腹が膨らまない。高いくせに、空腹は満たされない。まぁ、子供心は満たされるか。
 食玩をじっくり吟味する二人。そのうち、ものすごく欲しい物を一つだけ見つけ、両手で持って、僕を見上げてくることだろう。
 ……ほら、キラキラとお星様をちりばめた極上の甘えッ面で。
「おにいちゃん、これ、欲しい」
 おにいちゃんなんて、普段呼ばないくせに、どこでこんな技、覚えてきたんだか。
「おにいちゃん、ぼくも欲しい」
 妹だけならず、弟まで。
「おにぃたん」
 …………。実の妹、小学一年生。ちょっと、妹萌えできない。僕には、ムリだ。やっぱ、ツンデレの方が……。
 なんて考えてると、妹の表情が豹変した。
「……ふん、別に欲しくないしー」
 ?!!!
 頬を膨らませ、僕からぷいっと顔を逸らす。
「いらなーい」
 弟までも、僕に背を向ける。
 …………。
 しかし、何だ、その、哀愁ただよう小さな背中は。つーか、どこでそんな技、覚えてきた!!
 いや、ここで折れたら買わされる、絶対に買わされる。
 二人が諦めるまで黙って粘る僕。
 しかし、平行線のまま、母さんの買い物が終了し、
「もう帰るわよ?」
「…………」
「…………」
「…………」
 三兄弟、押さず引かずの勝負はまだ、ついていなかった。が、
「おにーちゃんが買ってくれないー」
「おにーちゃん、けちー」
 母にそんなことを言う二人。僕が悪者か!?
「……買ってあげたら? 月収三万もあるでしょ? 六百円ぐらい……」
 ああ、六百円ぐらい、ですよね。
 ひとつ三百十五円の食玩を、二つ買えば、丸く治まることなんだよね?

 結局、東方家の食費からではなく、東方天空の収入で買わされた。
 いいよ別に。ハンバーガーのセット、食べたと思うから。思えばいいんだから。

 車内でさっそく、食玩を開ける二人。とてもうれしそうな表情だったが、妹と目が合うと、なぜか彼女はきゅっと口を結び、しかめっつら。
「別に、うれしくないもん!」
 ……。何か、妹が素直じゃなくて、切ない。
 誰だ、妹をこんな風にしたのは!!!



 冬休みはあっという間に終わり、明日からいよいよ新学期が始まる。

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2011.09.01 UP