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  42 伊吹とゆかいな仲間たち?


「何やってんですか、青木さん!!」
「何でこんなとこに居るんだよ、東方!!」
 同時に相手にぶつける。
「…………」
「…………」
 相手の出かたをみるが、出そうにない。
「僕は……」
「俺は……」
 また同時に喋りだし、同時に口をつぐむ。そしてにらめっこ。自分のことを喋ったら、なんだか負けな気がしてきた。ここは相手の――
「あ、もしかして、桜井家公認なの? お前」
 え?!
 先手を打ってきた青木さん、余裕の笑み。こ、これは……どう対応すべきか!?
「そういう青木さんは、何でこんなとこに居るんですか!」
 質問返しでどうだ!
「え? 何でって、昔からのお付き合いだし、ココでお雑煮食べるのは毎年のことだから……ね、おばさん」
 な、なんとお母様に話を振っただと!?
「ウチの実家から毎年大量のおもちが送ってくるから、食べてもらって助かってまーす」
 だとさ。幼馴染み……思ったより手ごわいぜ。
「天空くんもたくさん食べてねー」
「はい、いただきます」
 お母様には笑顔でそう言ったけど、桜井家のご近所に住む人との間には、不穏な空気が漂っていた。
「あたしが口きいてやんなくなっても、毎年来てたわね」
「直々にお呼び出しされるんだよ」
 大きなお椀にたっぷりのもちが入った雑煮……容量の八割がもち。この朝食、ちょっとキツい……けど、青木さん、この量を二杯目って、どうなんだろ。
「あつつつつ、はふはふ……」
 なんだかまだ食べる余裕があるみたい。
「あ、そっか」
 キッチンから突然、手を叩く音と一緒に聞こえた。
「創くんも天空くんと同じ学校なのよね。知り合い?」
 なにを突然思いついたかと思えば、今更そんなこと……。もうとっくに気付いてると思ってたのに。
「んー、同じ部だから」
 僕と青木さんが桜井家で一緒になるのは初めてなので、青木さんは悠長に答える。
「え? そうなの? 天空くんって野球部だと思ってたのに、サッカー部だったんだ」
 伊吹ってサッカー、嫌いじゃなかった? と続いたお母様の質問に、伊吹さん回答。
「キライよ、サッカーなんて」
 ここでサッカー部員二名、口元が引きつった顔を見合わせた。なんだか野球部にケンカ売られたときに似た気分だった。きっと青木さんも同じ気分だったんだろうな。

「そろそろ、ギブア、うぷ、したらどうだ?」
「いえいえ、まだま……っく」
 ほんの些細な対抗心から始まったわんこそばの早食いならぬ大盛り雑煮の早食いが始まってしまい、もう限界のくせに引くに引けず、相手が折れるまでにらみ合う僕と青木さん。
 でも結局、両者同時にダウンで引き分け。
 もう、お雑煮は二度と見たくない。もちなんて食べたくない。そんな気分だった。
「……ばっかじゃないの」
 冷たくバカ男子に言い放つ伊吹さん。
「わー、おもちのびるー」
 のんびり、今頃になってお雑煮を食べ始めるマイペースな大志くん。
 うわっ、もう見たくないのに!!

 何となく流れていたテレビは、飽きてきた正月番組から高校サッカーに変わっていた。
 今日は二回戦が行われる。
 つい先日までそこで戦ってたはずなのに、何だか遠い過去のように思える。
「この前の創くんたちの試合、録画してあるわよ。見る?」
「や、やめてよ!!」
 守護神青木、全力で阻止。それはそれで恥ずかしい気もする。それに、自分の動きの悪さをここでどうこう言われるのもイヤだ。できればサッカー部員だけで、反省会を兼ねて視聴したい。
「創、けっこう映ってたよ」
「うそっ、ヤメテよ!!」
「天空は……そうね」
 あまり映ってなかったか。それでよし。
「見ててぶんなぐってやりたくなった」
「あ、俺も同感」
 そう言う伊吹さんに青木さん。自分でも動きがよくなかったことは十分すぎるほど分かってる。
「すみません」
「総体で同じことしたら、退部さすからな」
「ハイ」
「待ちなさいよ! 夏は、高校野球の夏よ! 練習は野球部がメインでやらせてもらうわ!」
「えー、ヤダー、絶対ムリー」
「……最後なんだから……」
 あ、そうか。今年の夏って、伊吹さんや青木さんは三年で、野球部の三年は最後の大会になるのか。
「……あー、サッカー部専用の練習場作ってくんないかなー」
 青木さんは逃げるように体を反転させ、話題を逸らした。

 部員は多いのに補欠のキーパーがいない。
 青木さんが引退したら……。
 あれ? 何で青木さんばかり頼ってるんだろ。
 もっと自分を、みんなを信じないと。
 一人で戦ってたわけじゃないのに、一人でもがいてた。
 今、気付いても遅いよなー。次の試合は……。

「あれ? 伊吹さんって、サッカー嫌いでしたよね?」
「キライよ」
 伊吹さん、ふんぞり返る。
「でも、試合テレビで見てたんですね」
「いや、それは、たまたま、だな」
 伊吹さん、平静を保ってるつもりのようだが、全然できてない。
「愛じゃねぇのー?」
 青木さんが面白半分にからかうと、
「そんなんじゃ……」
「録画予約して、試合をテレビの前でそわそわしながら……」
「お母さん!!!」
「俺、愛されてるねぇ〜」
「アンタじゃないわよ!!」
「じゃ、ソラちゃん愛されてる〜」
「ちょっと、からかわないでくださいよ!」
「そうよ! あたし、天空のことなんか……」
 え? 何言うつもり? 伊吹さんに注目。
「あ、……あう」
 みるみる顔が赤くなり、言葉に詰まる。その理由は、なぜかこの部屋にいるみんなが伊吹さんに注目してたから。
 そのうち声も出なくなって口をぱくぱく。これじゃ金魚だ。
「――……っ!!」
 何か、スイッチがオンになっちゃったみたいで、
「がっ!」「だはっ!」「――ぐっ!」
 青木さん、僕、大志くんが腹を殴られた。
「クソが……」
 伊吹さま、一言吐いてリビングから退場です。

「お母さん、ごはんある?」
 って、大志くん、殴られたはずなのに不死身?
 ……あ、そうか。鍛え方が違ったよね。
 そういえば、成長期に筋肉つけすぎると、身長が伸びなくなるって聞いたことがあるな。大志くんが小さいのはそういうのか?

 腹は痛むのに、関係ないことばかり頭の中で考えてた。
 青木さん……青木さんは大丈夫だろうか? あの人の幼馴染みやってんだから慣れてるよな?
「おばさ……救急車。……あ、霊柩車のほうが、もう、いいかも……。医者呼んで、骨が肺に刺さってるはず、全身の骨がバラバラになった。痛い、痛いよぅ」
 めちゃくちゃ大袈裟なんですけど。何だか痛みを忘れて冷静に青木さんの姿を見た。
「口から血も出てきた……吐血じゃーん」
「それ、よだれ」
「……目から血が」
「涙」
「……絶命」
 がくりと腕が落ちた。そして死んだふり。
 ……面白い人だ。

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2011.06.07 UP